7-11.男達の飲み会・延長戦
「お待ちを。今のは聞かなかったことに」
どう誤魔化すのが無理ないか検討できる頭の状態じゃない。それだけ言うので精一杯だった。
「いやいや、いやいや……ダメだ、お前、そんなんで騎士団に入るとか大丈夫か?! どっち系にタゲられ易いんだ、お前。てか、『あー』って何だよベフルーズ」
「うーん……俺はそのケないけど、ミャーノが男にモテるのはわかるなーって……こいつ、女には『聖騎士かよ』ってくらいちゃんとしてるけど、男相手だと割と無防備だからさー。ほら、こういうとこ」
エッ、なにそれ。この行儀悪いカンジのとこ?
「あ~…」
ちょっと、サイード、何。
「ダメかもね~。アリー、これはタチ側の男に狙われるタイプだ~…」
諦めたような顔で何言い出すの。タチって何さ。
それを受けたアリーが真剣な口調で私に言う。
「いいか、ミャーノ。騎士団は男所帯らしいから、元々ノンケの野郎も男に走っちまったりするらしい。サラは親戚だからともかくお嬢がいるからお前はそうならないだろうが、周りの男はそうじゃないからな! お前みたいな強い奴は、強い奴の好みだったりするんだ! 本当に油断するなよ……!」
「……アリー殿、それは経験談なのです……?」
「…………俺のケツは守り抜いてある」
誰の何が守れなかったんだ。サイードもベフルーズも目を逸らすからそれ以上突っ込めなかった。
ケツの話だけに。なんて……なんでもないです。
「すみません、ベフルーズ。少し楽になりました。……起きます……ありがとうございました……」
「おう、無理すんなよ。ワインは飲めるんなら一本開けるか。お前らも飲むだろう」
「おう」
「白がいいな~。ミャーノ君は赤の方が好きだったりする?」
「あ、私も赤か白なら白が好きです」
赤も美味しいけど、ポリフェノールや収斂性が身体に合わないんだよね。……この身体の体質はちょっとわかんないけど。
(……うん、やっぱりワインは大丈夫そう)
「とりあえず王都ではエールとワイン以外は避けるようにいたします…」
甘めの白が舌に優しい。
「それがいいよ~…まあ、回復は早いみたいでよかった」
そもそも酔うのがおかしいんだとは言いたいところだが、その加護のおかげでやはり酩酊状態の解消が早かったのだろう。
「同位の連中は適当にあしらっときゃいいけど、上司とかに絡まれないようになー」
「気をつけてどうにかなるものなのですかね…」
「難しいだろうけどな、それが大人への一歩なのさ、ミャーノ」
アリーがしみじみと肩を叩いてくる。
大人だったけど、体育会系のガチ飲みとは縁がなかったからなあ。躱せ…ないかもなあ……。
その後、こちらのカードゲームを教えてもらった。
ベフルーズがこっそり、「軍隊に放り込まれるならカードの一つ二つ、できないと馴染めない」と耳打ちしてくれたが、その通りだ。
アリーとサイードは私が全然彼らの知っているゲームを把握していないことについて不思議そうにしていたが、ベフルーズが「同年代の遊び友達いなかったんなら、そんなもんかもな」なんてフォローしてくれた。うん。もう架空の南の村、完全に過疎村設定だな。私以外はおっさん以上しかいなくて、ほとんどじーちゃんばーちゃんだけみたいな。そりゃ盗賊だろうが魔物の群れだろうがあっという間に滅ぼされるわ、気の毒に。
カードは「パーギナエ」と呼ばれている。私の知っているトランプと少し違って、寸法は長細い短冊状だ。だけど、4種類13枚ずつ、という点は変わらない。
数字カードが1から10。
ジャック・クイーン・キングの代わりに、王・総督・第二総督。
ハートやスペードなどは、コイン・杯・剣・杖に置き替えて覚えればOKだった。
ジョーカーもあった。なぜかこれだけは私のよく知る道化師の絵が描かれている。
どこの世でも物事をひっくり返すのはひょんなこと――そういう教訓を感じる。
「あれ? 私、割と強くないですか?」
ポーカーや大富豪の類で特に自分が強いと思ったことがないのだが、これがどうしてなかなか。ベフルーズとそこそこ良い勝負という感じで、アリーやサイードには今のところ負けなしだ。
「うっわ、殴りてぇ」
アリーが呻く。
「ミャーノ君~、一回手加減してみてよ~。手抜いてないってバレないようにしながら上司を勝たせるみたいな技ないの~」
「そんな器用な真似を初心者に要求しないでいただきたいのですが。はい、勝負」
今やっているのはポーカーのようなゲームだ。
「くそっ、よく考えたらこいつベフルーズと同じ血筋だもんな。教えるんじゃなかったぜ」
そう言いながらアリーは役無しの手札を投げ出す。サイードは弱い手は揃っていたが、私の役のほうが上だった。――まあ、
「あ、俺の勝ち」
最後に晒したベフルーズの役の方が上だったわけだが。
これもしかして、サラもこのゲーム強いんでは?
バニーアティーエ家でカード賭博は絶対にやらないでおこう。
「……と、もう遅いな。寝るか」
あくびをかみ殺しながらアリーがお開きを宣言する。
「二人ともいつも通り、奥のゲストルームでいいよな」
「お二人、よく泊まられるのですか?」
「うん、たまにお邪魔してたよ~」
「最近は来てなかったんだけどな」
彼らがいい年ってのもあるけど、ベフルーズとサラの二人暮らしのところでサラが年頃なのに入り浸るのも、というのもあるのかもしれない。
「私とサラが出ていってしまうとベフルーズは一人暮らしになってしまいますからね。もしよければ、アリー殿、サイードさん、ベフルーズに構ってやってくださいませ」
「そんな心配されんでも大丈夫だわ、俺は」
教師の仕事で定期的に街へ行かないといけないベフルーズの安否は常に確認されるだろうけど、安否確認と交遊は別の問題だからね。元気か気をつけてくれている人がいるのは、私たちの安心のためなのだ。
「俺たち、明日の朝お前を連行してこいって言われてるからな。抵抗すんなよ」
「しませんよ」
ああ、彼らは飲むためにきたのではなかった。そのために来たのか。
「……ベフルーズ、これからお風呂行きますよね? その後私も使っていいですか?」
明日の「処刑」に備えて、身綺麗にしておきたかった。
「は? ああ、いいよもちろん」
ちゃんと乾かしてやるから後で来いよ、と言質ももらっておくのを忘れない。
青いコートと赤のジャケット、どっち着ていこうかなあ。
トランプはアラビア系のを基本にしています。




