7-8.エル先生に聞く騎士団受験対策
無条件に愛してくれると言う、理想の母のようなマスター。
戸惑いながらも手を取ると、彼女は自分よりも体格の良い青年の体を立ち上がらせた。
「失礼します」
「はい、どうぞ――ああ、ミャーノ、それにサラ。サラは久しぶりだねえ」
「ご無沙汰です、校長先生」
「ベフルーズから話は聞いているよ。二人とも、王軍の試験を受けるんだって?」
「はい。私は魔導士団、ミャーノは騎士団の入団試験を」
「魔導士入団試験についてはケレムが詳しいと思う。彼は友人に魔導士が何人かいるのでね」
「へぇ、そうだったんですね。知りませんでした。ケレム先生の授業あんまり受けていなかったので」
「仕方ありませんね。君の魔術に他の流派が混ざるのはマイナスにしかならんと、偉大なる魔女から言われてしまってはねえ」
「その節は師匠がすみません」
「いいや、ベフルーズも学生の折は同じことを指定されていたそうだから。しかしベフルーズは今はケレムとよく魔術学論を交わしているよ。サラも己の魔術が確立できたら、他の流派のいいところも学ぶと良いね」
「はい」
「さて、立たせたままだった。すまんねミャーノ。お茶を淹れよう、二人ともそこにおかけなさい」
「ありがとうございます」
素直に礼を述べて、適当な椅子を引いてサラをまず腰掛けさせ、己も腰掛けた。
「まず王都に行ったら、願書を城に出しなさい。今ベフルーズがザール――自警団長に決判をお願いしている書類がそれだよ」
受付は聞いたらすぐわかるのかな。
「試験中の宿泊場所は普通の旅行者と同じように宿をとる必要がある。願書を出したら受験日を教えられるから、それまでの旅籠を探しなさい」
「お奨めの旅籠はありますか? 私もサラも王都に土地勘がないので、治安のいい場所悪い場所というのがわからなくて」
ふんだんに予算があるなら、だいたい高い宿をとっておけば間違いないのだろうが――生憎そういう身分ではない。
「そうだね。後でいくつか挙げておこう」
「すみません」
「騎士団の試験は、私が居た時と変わらなければだが、まず実技試験があり、翌日以降に筆記試験、いずれも合格点に達すれば面接が行われる。試験はその三つだよ」
「実技が先なんですね」
書類選考が第一試験のイメージがあるので、てっきり筆記でまず篩にかけるのかと思っていた。
「ああ。この点は魔導士団も同じはずだよ。王軍に採用されるというのは実地で使い物になることが第一の条件だからね」
「なるほど。魔導士の実技は何となく想像がつきますが、騎士の実技とはどんなものでしょう?」
サラも隣でウンウンと頷いていた。
「騎士団の入団試験は二人以上が最少催行人数なんだが、つまりどういうことかわかるかい?」
「もしや、受験生同士の対戦ですか」
「うん。ヒト族対獣人なんてパターンもよくあったねえ。騎士団だから武器は剣を指定されるけど、噛みついてはいけないなんてルールは別にないからね、ヒト族と獣人だと獣人のほうが勝つことが多かったかな」
さすがに殺してはいけないという但し書きはあるよ、とエル先生は補足した。
あったりまえじゃい。
「剣は貸されたもので行うのですか? それとも自分のものを?」
「持っていない場合は貸し与えられるが、愛剣があるならそれを使用させる。君の剣は?」
「この片手半剣です」
左腰にあるそれを、ベルトごと鞘を少し持ち上げて示す。
「ああ、それならそのままそれが使えると思うよ」
よかった。自警団の訓練場での感触から、恐らくは汎用的なロングソードでも問題はないと思うが、この剣はすっかり馴染みがいい。心細さを払拭するにはやはり普段使いのアイテムだ。
「筆記試験はベフルーズから模擬試験を少し受けたので何となくわかるのですが、面接はどなたが、どのような質疑を行われるのでしょう?」
「面接の担当は筆頭百人隊長が一人、他の百人隊長が二人、の三人が交代で持ち回っているね」
「一兵卒を選ぶのに、結構なリソースの割き方をなさるものですね……」
「騎士は戦時下において市民からも徴兵されるような一般兵とは異なり、王の護衛も担うことがある職業であるのでね。人と為りはしっかり見極める必要があるんだよ。だから質問は自然と、『こういう場合はどうする?』などの問題提起が多いのではないかな。何、思ったままを伝えればいい」
得心した、と首肯する。
「まあ、ベフルーズが推薦して問題ないと言うなら、きっと君は筆頭百人隊長の眼鏡には適うだろう。あまり気負わずに受けてきなさい」
「はい。ありがとうございました」
礼を言ったその時にタイミングよく、正午を知らせる鐘が鳴った。
「ケレムは午前の講義だけだったと思うから、昼を一緒に食べに出てはどうかね」
「そうですね。お誘いしてみます」
説明回的なしかも前編。
一旦ここで切るのです。