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1-7.はじめての長剣

「一応聞くんだけど、馴染みのある武具って何かあるかしら」

「記憶上はないのですが…サラに貸していただいたような短剣は扱えるようでしたね」

 もしかしたら身体の記憶というものも存在するのだろうか。

「気持ち的には120センチくらいの長剣が欲しいとは思います」

 確か現代の竹刀がそれくらいの長さだったはずだ。

 戦の形式だと槍が適していることはわかるのだが、携帯しやすそうな形状のものから手に入れておきたいという気持ちに素直になることにした。ロールプレイングゲームだって最初はナントカのつるぎとかから始まるし。

「具合を鑑みて、そのうち槍も扱えるか確認はしたいのですけれども」

「わかった、じゃあ今日は長剣を見よう。槍もおいおいね」

「ありがとうございます」


「むぅ…」

「どう?」

「そうですね、こちらなどは握りやすい。ただもう少し刃に厚みが欲しい。こちらは厚みはよさそうなのですが、柄がどうもしっくりこなくて…」

「なるほどねえ」

 武具屋の一角に「どれでも一振り1000銅貨!」と書かれた樽があり、そこに50振りほど乱雑に差してあった。そこから適当に抜いては握り、抜いては握りしてみている。

「叔父さんに祝儀ももらったから、3000銅までは全然予算内なんだけど」

「なるほど…」

 樽から目を離して店内をもう一瞥するが、この樽のような商品以外は5000銅貨以上の値段がついていた。客から手が届くところであれば、高いものは20銀貨が一番だろうか。

(さっきの定食が一人800銅だったから、2020年代の日本円で言うと1銅貨が1円くらいの感覚なのかな?)

 しかし銀貨、きっと金貨も存在するのだろうが、それらのレートがまったくわからない。

 古代から現代に至るまで世界各国の貨幣に詳しくはないのだが、金銀銅の倍率が単純に10倍とかではないと思っておいた方がよいだろう。たとえば金が銀の4.8倍だとか、算数が苦手――数学に至ってはもう記憶喪失だ――な私泣かせの相場もあるかもしれない。

 そもそも貨幣鋳造の文明レベルによっては同じ銅貨でも価値が変わることもあるはずだ。日本だって江戸時代までは中国大陸の貨幣を流用したりしていたはず。永楽銭くらいしか知識はないが…。


 くそっ、異世界転生するとわかっていたら歴史も算数もちゃんと勉強しておいたのに!


「ミャーノ?あの剣見たいの?」

「え?」

 ああ、申し訳ない。顔をこわばらせて左前方少し上だけを思いっきり睨みつけていた。

「その剣なら5銀貨だよ。御新造(ごしんぞ)さん、さっき予算は3000銅って言ってなかったかい?」

「わ、私たち夫婦じゃないわよ!」

「おや、そうなのかい?祝儀つってたからてっきり」

 店番をしていた、スキンヘッドの体格の良い男性が気易い様子で話しかけてくる。笑いながら、壁に飾ってあった5銀貨の剣を下ろしてくれた。

「見てもよろしいので?」

「握るくらいならな」

「どうも」

 せっかくなので、ありがたく、鞘から抜いて握りこんでみた。

 重くはないが軽すぎず、鋼の厚みも悪くない。いわゆるロングソードとして想像するときの左右対称の刃ではなく、日本刀や柳葉刀のように、片方にだけ刃がついているタイプの剣だ。

 さっきの樽から抜いた剣はいずれも左右対称型だったので、こういうタイプもちゃんとあったのかと感心した。西洋はどうにも左右対称のイメージが強いが、そういえばサーベルもあったなと思い当たる。

 ミリタリーの知識もない。つくづく異世界転生に備えのない人生だった。

「そうか、サーベルは護拳がついてましたね」

「護拳ってなぁに?」

「柄についているこの枠です」

 金属であったり、十手や打刀につける手貫緒のような紐であったりするようだが、剣を持つ手を保護する部分の名称だったと思う。

「私の民族の文化では、古代に消えてしまった形状ですね。その後再び外国から取り入れたものだったと記憶しています」

「へえ…あんまり気にして見てなかったけど。自警団の人たちの柄ってこういうのついてたかな」

「兄さん、()()()()()()な顔してんなと思ったけど、この辺の人間じゃないのかい」

「ええ。こちらのはとこにお世話になるために引っ越してきまして」

「護拳に馴染みがねえってことか。利き手はどっちだ?右か?俺の手を力込めて握ってみな。遠慮はいらねえ」

「?はあ」

 短剣をとっさに構えたのは右だったし、食事も右手で自然としていたから右利きだと思うのだが、肉体が違うならもしかしたら左手でも文字が書けたりするかもしれない。後で試してみよう。

 そんな雑念まみれで、彼と握手する形で少し強めに握る。

「…うん…うん、うん。なるほど。兄さん、丸腰の素人かと思ったらなかなかいい握りをする。それにこの()()の位置、これは確かに護拳のあるタイプの剣の使い手じゃねえな」

 タコがある?彼の手を離して両掌の様子を確認する。確かに()()があった。

「アンタなら護拳がなくても剣を取り落としたりはしないだろ。そうなると護拳はむしろ邪魔でしかねえんじゃねえかい」

 そう言いながら5銀貨のその剣を壁に戻して、さらにその上にあった剣を取る。

 待ってください、そちらの剣の値札には8銀貨とあるのですが。あっ、サラがちょっとひきつった顔をしている。

「握ってみな。さっきのサーベルと同じ刀工が作った剣だが、こっちの柄のほうが具合がいいだろう」

 サラに目で問うて一応許可を取る。5銀貨のサーベルとて見るだけのつもりで触らせてもらったのだ。構うまい。

「ふむ。思った通り、兄さんは片手剣も両手剣も使うようだな。どうだ?当たってるだろ」

「…ええ」

「へえ~、そうなんだ」

 確かに、先ほどのサーベルとさして重量は変わらないのに、こちらの剣は身体が自然と両手で持とうとした。片手でも持ってみると、片手でも扱える確信を感じた。

「柄と柄頭のバランスが良いようです。刀身も、込めた力がしっかり伝わりそうですね。」

 私が戦闘訓練の経験すらないことを知っているサラは不思議そうな顔をしていたが、私自身が一番不思議だ。剣を見ているだけでは何もわからないのだが、握るとすらすら感想が出てくる。

「そいつは『片手半剣(バスタードソード)』だからな、その造りのやつはさっきの1000銅樽の中にはねえんだ」

「でも8銀貨は無理だよーおじさん」

「わかってるわかってる。」

 むう。でもこの剣を握った後でさっきの樽に戻れないよなあ。全然違うもの。

「見せていただき、ありがとうございました」

「ああ、そのまま持ってこっちに来な」

 返そうとしたら受け取ってもらえず、店の奥へ促されてしまった。二階へ続いているのであろう階段の上へ向かって「カアちゃん!ちょっと店番頼むわ」と声をかけている。

「兄さんとお嬢ちゃんは地下だ」

 サラと顔を見合わせて、言われるがままついていくことにした。

バスタードソードはずっとBusterdだと思ってたんですけどBastardなんですね。

主人公の設定以上に私も無知だなあと確認のために調べていて思うのでありました。


2018/3/2:横書きWeb小説だしと思い文頭空白つけてなかったのですが、つけました。

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