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7-6.この身体はきっと

 質問に回答という形式で試された私だが、歴史人物の概歴については人物によって記憶の偏りがありすぎると指摘され、地理に関しては微妙に名前を間違えて覚えている上に国名以外は方向音痴、各地の産業は全然覚えきれていないと散々な評価を受けた。

 ただ、なじられはしたがベフルーズ先生曰く「面接試験があったら有利になるかも」程度の知識だそうなので、指摘されたことくらいは復習しておこうか、くらいだ。

「お前はアレだな。興味のあることはとことん学ぶけど、そうでもないことは適当なタイプだろ」

「否定はしませんけど……」

 しかし興味のあることだからと言って頭の性能が追い付いてこないことは多い。肯定も気が引けた。


 翌朝、自警団に寄って学校へ出勤するベフルーズについていくことにした。サラも一緒だ。

 エル先生に騎士団の試験について何か聞けないかと考えたのだ。


 しかし自警団に寄った段階で、ミーネにとっつかまった。供をさせてもらっておいてなんだが、ベフルーズにはそのまま出勤してもらって、私たちは、少し自警団で話をしてから昼にエル先生を訪ねる予定に変えた。

「えっ!? ミャーノもサラちゃんも、王軍の入団試験を受けるんですか?」

「ええ」

 なんで、とは訊かれない。その辺は「バニーアティーエ姓だから」で説明がついてしまうのだろう。

「受かることをお祈りしておりますけれど……ミャーノ、私が王都に追いかけてゆくのは御迷惑でしょうか…?!」

 驚いた後に何か思いつめる様な顔をしたと思ったらそういう話かー。


 都子(わたし)は恋人でも友人でも来る者拒まず去る者追わずタイプだったから、積極的な相手の方がうまくやっていけると思っている。ミーネみたいなタイプは都子と相性悪くはないんじゃないかなとは思うんだけどね。


 そういえば、ミーネには「家族は流行り病で亡くした」と説明していたんだった。

 国に対しての説明で出身集落について確認されるのが面倒だったので、設定を作る時に集落ごと全滅したことにしてしまったが――まあ、家族だけは先に亡くしていて、そのまま村で生活していたけどその村がなくなったのだということでいいか。


「迷惑なんてまさか。しかし、まだ受かってもおりませんし……というか、ミーネはシーリンを出られないわけでもないのですか?」

 てっきり自警団はロス君かミーネが団長職を継ぐのかと思っていたけれど。

「ああ、それでしたら別に。ロスがおりますし――ロスもシーリンを出たとしても、問題ありませんわ。シーリンの自警団は別に世襲制でもなんでもありませんのよ」

 そうだったのか。

「ミーネさん、本気?」

「本気も本気、マジです」

「……あの、ミーネ。以前も申し上げた通り――詳しくは言えませんが――私には『バニーアティーエ』としてやらなければならないことがあり、そのために王軍に入ろうともしています」

 サラは横に佇んだまま黙っていた。


 そう。シビュラを救いたいというのは「シビュラの弟子たるバニーアティーエ」であるし、シビュラを()()()()()()()()()()というのは「キーリスの王軍勤めの家系であるバニーアティーエ」なのだ。


「そこにあなたを巻き込んで、守り切る自信が……私には、ありません」

「――ミャーノ。でもあなたは、私がここで待っていても迎えには来ないでしょう。あなたとサラちゃんの王軍志望の目的はわかりませんけれど――それくらいはわかります」

「う。そうですけれど」

「『う』じゃないのだわ……ミーネさん、ミャーノ押しに弱い性質(タチ)なのよ……」

「それもわかるわ。だから私は今、口説いているのです」


 ミーネの瞳に意志が見えた。

 ああ、これは、いけない。


()()()()()。私も王都に参ります!」

「ええっ、ミーネさん!?」

 サラは驚愕の感嘆をもらしたが、私は「やっぱり」となったのでリアクションがとれなかった。

「大丈夫です。さすがに王軍とはまいりませんが、私、上京した先で仕事を見つける自信があります。最悪、ミャーノが入団試験に落ちても支える自信もありますわ。なんの、騎士に拘らなければ、ミャーノの腕ならいくらでも職はありますよ」

「私とサラに同行できなかったら、お一人でも上京してしまいそうですね、あなたは」

「ええ。ですから、心配してくださるならご一緒に」

「――三日後に気が変わっていることを願ってはいますよ、ミーネ」

「ミャーノ?!」

「決まりですわね」

 ニッコリと勝利の笑みをたたえたミーネは、困ったことにとても可愛らしかった。


 サラ。ミーネのこの好意は私の顔に一目惚れしたのがきっかけなので。

 きっと、王都に行けば色んな地方から、キーリスの人の感覚でいうところの()()()()()()顔がいるでしょう。

 願わくば、王都にて、彼女の好みに()()()()()、「普通のヒト」に――彼女が出会えますように。


 生き物ですらない、こんな出来損ないのヒト(わたし)が最愛だなんて、なんとも気の毒ではないか。


 学校に向かう道すがらサラにそんなことを言うと、


「ミャーノは優しいけど、恋愛に関してはちょっとひどいのね」


 そんな(そし)りを受けてしまった。


「きっかけは顔だったかもしれないけれど、ミーネさんがどんどん入れこんでるのは――」

「サラ。私はミーネには不幸になってほしくないのです」


「ミャーノ、あなた中身は女の人なのに、女心をまったくわかってなさそう」


「……」

「ごめん、言いすぎたわ。師匠のことがなければあなたもミーネさんを拒む理由はなかったのだものね」

「いえ。サラの指摘は正しいのです、きっと」


 男女問わず、私に「彼らの心」を理解することを求めて失望して、そして離れていった人達がいるのは知っているから。

 でも私はそれでよかった。

 私は誰かに「私の心」をわかってほしいとは全然思わなかったし、知られたくなかったから。


 醜い嫉妬や欲望、己の力への落胆、誠実ではない怠惰――そういった自分の側面を知られるくらいなら、もしかしたらあったかもしれない良いところごと、無関心でいてほしかったから。


「私がこの世界に“再構成”された根拠は明確で、それが“私”にはありがたいのです、サラ」


 私は「使い魔」。

 サラがこの身体(ひと)の戦う力を必要としたから、私はここにいる。

 都子(みやこ)の精神が求められているわけじゃない。

 期待も失望もされないというのはラクだった。


「“私”は小心者ですが、この身体(からだ)はきっとあなたを守ります」

 この身体(ひと)のことは信じてあげてほしい。

 都子は――サラの信頼に応えられるような人格ではないだろうが。

 それでも、使い魔としては。使い魔としてしか、頑張ることはできないのだろうから、せめて、そのくらいは。

「ミャーノ……?」

「着きました、サラ。エル先生を訪ねましょう」


 強引に話を切り上げ、私は校門に向き直った。

好意を寄せられると自己評価の低さが顕著になる思考のミャーノ。

難儀な人ですね。

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