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7-5.嘘の経歴

 二十人にも満たない小さな貧しい南方の隠れ里に生まれ育ち、剣術は流れ着いてきた元冒険者に習った。

 しかし二十歳になったころ、自分が猟から戻ったら集落はモンスターに食い荒らされて皆殺しに遭っていた。

 どうしようもなかったのでとりあえず北へ住まいや職を求めて向かおうと、通りがかった商隊の馬車に便乗させてもらった。

 シーリンの南平原を通過している時、ベフルーズが偶然通りかかってミャーノを見かけ、保護した。

 ミャーノが幼い頃、実はベフルーズはミャーノの親によって引き合わされていたので、ベフルーズはミャーノがバニーアティーエ姓の親戚だと知っていたのである。


「――というのは、どうでしょうか?」

「何から何まで嘘なのだけれど、ミャーノがこちらの一般常識とズレがあっても『世間知らず』の一言で済むし、童顔で珍しい顔立ちだから、子供の頃しか会ってなくても『わかる』のは無理がないのだわ…!」


 バニーアティーエ邸へ帰る道すがら、己の経歴をどう捏造しようかという件でプレゼンをしてみたら、一発でオーケーが出てしまった。

 もちろん、帰り道なのでベフルーズとサラと私の三人連れである。

「戸籍の把握がないなら、王都から遠い南に二、三家族だけで作ってるような集落があったり、またそれが壊滅しても気づかれなかったりとかはいけますよね?」

「そんなこともあるか、で済むと思うよ。しかしなんというか……ようスラスラ出まかせ出るもんだな……」

「大して凝った内容ではないのでそう褒めないでください。いえ、嫌味ですよ? …あとはアドリブで。サラは『シーリンに来る前の彼の経歴はよく知らない』で済ませていいですからね」

「おっけーなのだわ。特に知らなくてもよさそうだから聞いてない、で済むわね」

「ベフルーズとアリー殿は同い年ですか?」

「おう」

「では私が(とお)の時ベフルーズが十五で、……ギリギリあり得なくもないですね?」

 十五歳の子なら、当時見た十歳の親戚の容貌を覚えていてもおかしくない。

「なあ、さっき確認しそびれたけどお前今二十歳(はたち)なの? 十八歳くらいかと思ってた」

「アリー殿もそんなこと言ってましたね。そりゃあ私も皆に比べたら少し童顔かなという自覚はありましたけど……そんなに?」

 面接とかあったらナメられそうだ。心構えはしておこう。

 実際の年齢はベフルーズやアリーと同じくらいだが、サラ以外には元の性別や年齢、容姿も異なることを明かしていない。さりげなく否定も肯定も避けた。

「そういえばサラとロス君が同い年なのは知っていますが、サラはおいくつなんです?」

 女性に年を尋ねるな、とは言うが、サラは明らかに女子高生くらいだろうから訊いたっていいだろう。

「私は今年で十七よ」

「そうだったんですね。じゃあ私、傍から見たらロスくんやサラとそう変わらないんですか……」

「ミーネさんが今十八歳のはずよ。まあ、ミーネさんはミャーノが今二十歳だって申告したのを聞いてたはずだから、あなたの方が年上だってわかっていると思うけれど」

 サラは濁したが、下手したらミーネのほうがお姉さんに見えるということなんだろうなあ。

「まあまあ、十八も二十も大して変わんねえよ。俺より年下なのは一緒だ」

 ははは、と快活に笑うベフルーズに合わせて私は苦笑いを返した。

 依然記憶は曖昧なままだが、私の中身は君より三歳前後上のお姉さんだよ。悪かったな。


 すっかり遅くなってしまったが、やっと帰宅できたのだった。



「ベフルーズ、入ってもよろしいですか?」

 コンコン、と彼の部屋のドアをノックして尋ねる。「どうぞー」という間延びした声が中から返ってきたので遠慮せずお邪魔した。

「お風呂いただきました。お願いしていいですか」

「おう」

 机で作業をしているベフルーズの目線に、背をかがめて頭を差し出すと、いつも通り「ドァーク」で濡れた髪を乾かしてくれる。

「王都に行ったらこれをお願いできなくなってしまうんですね……いえ、風邪は引かないでしょうから問題はないのですが。すっかり横着を覚えてしまいました」

「ハハ…そうだな。でも王軍所属として軍の宿舎に入寮したら、相部屋の相手(ルームメイト)は魔術士かもしれないぞ」

「えっ?」

「騎士団と魔導士団は作戦行動でタッグ組むことが多いんだが、騎士は普段の街の警邏(けいら)とかが仕事なのに対して、魔導士は城の研究エリアでの仕事がメインだから、せめて生活面だけでもって共同生活を送らせるようにしてるらしいぞ。実際、(フィルズ)はルームメイトが魔導士だったって言ってたし」

「ほう……」

「もちろん同性だからな? サラとは絶対相部屋にならんと思う」

「それはそうでしょうね……何とか定時連絡をとることができるようにしないといけませんな」

 今のところベフルーズとサラしか魔術士を知らないが、王軍は魔導士団があるくらいだから、魔術士がごろごろしているわけか。一気にファンタジー感が増しそうだ。

「ま、相手が温風や乾燥の魔術が使えて、温度調整がうまいことも願っておくんだな。俺やサラは()()()魔術士だから、魔導士達が使えないからってガッカリしてやんなよ」

「ううむ、髪の毛を燃やされたりするのは困りますね。確かに、ベフルーズの『ドァーク』は安定して毎回心地よいですから……贅沢に慣れるのは考えものです」


「よし、出来た。自警団長には明日提出しておくよ」

 ベフルーズが作っていた書類は、私とサラのための推薦状だったようだ。

「さて、待たせたなミャーノ。今日の課題の成果を確認してやる」

「えっ?」

 なんて? 私、普通にもう寝るつもり満々だったのですけれど。


「『えっ?』じゃねえよ。あと二、三日で受験対策仕上げなきゃいけねえんだぞ」

魔術士は技能を持っているかどうか、

魔導士は職業の名前のつもりです(戦士と騎士みたいな)。


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