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7-4.壮行会・プチ

「叔父さん、向こう引き上げてこのお店に来るって」

「…え、帰るのではなく?」

「ご飯食べて帰っちゃおう、ですって。あ、もうお店の前」

 カロロンとドアベルが鳴り、カルガモの扉が開く。

「おう、お疲れ」

「ベフルーズ」

 すぐ近くの別の食堂で待機してくれていた頼れる大黒柱が、顔を見せた。

 その表情はやけに明るく繕われている。

 店員に対して私たちと相席する旨を伝え、ついでに飲み物の注文を先にしていた。

「まずは荒事も起こらず、無事に話し合いが終わっておめでとさん、二人とも」

「叔父さんに対して私が一方的に実況するような感じになってしまっていたけれど、通じてた?」

「ああ、うん。なんか途中、ガラシモスの生前?の経歴がぶっ飛んでて、言葉の意味はわかるんだけど、わけがわからん、とはなっちゃったけども…」

「そうよね…突然ミャーノは鈴蘭の騎士だって言い出した時は何言ってんのかしらこい…このヒトって思ったもの」

 いいんですよサラ、あれはこいつ、呼ばわりしても。

 エールが運ばれてきた。3つだ。

「とりあえず乾杯しよう」

「あ、私たちの分も注文をしてくださってたのですね、ありがとうございます」

「かんぱーい」

 渇き気味だった喉を、エールの泡がスッキリといたわってくれた。ドーナツは四つ残っており、うち一つをつまむ。

「私半分くらい食べちゃったから、ミャーノ食べていいからね。叔父さんも食べてよ」

「カゴいっぱいのドーナツ囲んで渉外会談ってどうなの」

「あの竜人殿が頼んでいたケークサレよりはドーナツの方が愛嬌もあるというものです」

 ドーナツは映画館で食べたり巡回中の警察官が食べたりすることもあるだろうが、ケークサレでそんなことをする奴はいないだろうよ。


 それぞれ好みのパスタ、サイドメニューとしてカプレーゼ、ブルスケッタを追加した。


 エールよりもスパークリングワインが合いそうな料理だったけれど、さっぱりするのはどちらも同じだった。


「旅券と査証の交付のために王都に行くってことでいいのか?」

「私はこの世界に戸籍もないのですが、この場合はまず戸籍が要りますよね…? 現在私は身元不明の不審者なんですかね」

「ミャーノは南の辺境の村出身てことになってるから、戸籍がないのはおかしくないよ。その点は俺が『バニーアティーエの血族です』って一筆書いて、自警団長経由で太守にハンコ押させりゃいい。明日頼めば、三日以内には書類戻ってくるだろ」

 さすが大地主。

「よろしくお願いします」

「任せろ。だけどサラちゃんとミャーノの二人で王都に赴かせるのはいざとなると心配だな…俺もサラちゃんも王都に行ったことがねえし」

 そうだったのか。まあ、王都はかなり北のほうに位置しているようであったから徒歩だと日数も要するし、シーリンで事足りるなら王都に用はないだろう。

「王都に行くの?」

「え?」

 話しかけられた声に顔を上げれば、視界に四本の牙が飛び込んできた。

「ビラール殿」

「急にごめんね。今ソマと飲みにきたらアンタ達がいたからさ」

 キョトンとしているベフルーズに、今日短剣を購入した店の者であることを紹介した。

 ソマがグラスを持ってこちらにやってくる。

「いよ、ミャーノ。先約ってベフルーズ先生か」

「おや、ベフルーズはソマとお知り合いでしたか」

「叔父さん割と顔広いのよね…」

「え、お嬢ちゃん、ベフルーズ先生の姪御さんだったのかい」

 顔が広い。確かに、サラのことをベフルーズの姪として認識している人は多かった。

 さすが街唯一の学校の先生ということだろうか。

 しかしソマとビラールが加わってしまうと色々話しにくくなってしまうな。

 ソマさあ、ちょっとくらい空気読んで遠慮してくんないかなあ?

「ねえ、王都行くんなら俺と一緒に行こうよ。護衛誰かに依頼しなきゃなーでもめんどくせえなーって思ってたとこだったんだ。俺、何度も行ってるから道案内できるよ」

「ビラール殿も王都に用があるのですか?」

「うん。王軍から発注受けててさ。なんか、俺の剣が気に入っちゃったらしくて。でもどうせ騎士様達に用意するなら使う人見て打ちたいなあって」

「…ビラール殿は刀鍛冶でもいらしたのですか?」

「そだよ。てか、鍛治師が本業かな。アンタが今日買った短剣、俺が打ったやつ」

 思わず腰の短剣に触れる。

「そうだったのですか……」

「な、ダメ? 出発日いつ? アンタに合わせるよ」

「私だけではなく、サラも一緒です。早ければ四日後…?でしょうか?」

 ベフルーズに目配せして、「合ってるよね?」と確認を求めた。

「俺はオッケー! サラさん?だっけ。キミもいい?」

「道案内を頼めるなら私は助かるわ。私もミャーノも行ったことがないから」

「……では、そうしましょうか。よろしくお願いします、ビラール殿」

「ビラールでいいよ。俺もアンタのことミャーノって呼ぶからさ。それに同じくらいの歳だろ? そんな丁寧に話すなよ。一緒に旅するんだからもっと砕けてこーぜ。というわけでちょっと早いけど壮行会だァー!」

「しょうがないな。わかったよ、ビラール。このままご飯ご一緒しても構いませんよね、ベフルーズ」

 ソマはともかくビラールが完全に、私達と席を離す気がない。

「…ミャーノおまえ、タメ口いけたんだな」

「どう転んでも丁寧な物腰キャラなのかと思っていたのだわ」

「私、これまでも割とガラシモス達相手にはそんな行儀いい口きいてませんでしたよ?」

 この人たちは一体何を聞いてきていたんだ。

「行儀は良かったわよね」

「ああ。ミャーノがスラングで人を罵り出したら俺、ビックリして気絶すると思う」

 大したことないな、それ。


「ベフルーズ先生とミャーノはどういう関係なんだ?」

 ソマが改めて聞いてくる。私が答える前にベフルーズが答えた。

「あ、親戚です。サラのはとこなんです。ウチに居候させてます」

「なんだミャーノ、お前さんバニーアティーエだったんか。そりゃあ、騎士道剣術()もありなんって感じだな。ん?でも王都に行ったことないのか」

「王軍とは私は今のところ無関係ですよ。もし私の太刀筋がそれだというなら、私の剣の師匠が王軍関係者だったのかもしれませんね。まあ、今この世にはいないので確認はできませんが」

 徹頭徹尾、真実だ。私は誰かに師事した覚えがないから、つまり師匠はこの世にいないのである。

 だが意図的に「亡くなった」ととれる言い回しをしたため、ソマはそれ以上突っ込んでこなかった。

 ベフルーズとサラが何とも言えない表情をしている。

 さっきから何ですか、二人とも。私だっていい年した大人なんですから、口八丁な面はあります。

「バニーアティーエなら王軍騎士団に入るってのもアリなんじゃねえの?ベフルーズ先生よ」

「そうですね。それに関してはミャーノも少し乗り気だったもんな。どうせならこのついでに試験受けちまえば?」

「え、ミャーノ騎士団入るの? 」

「挑戦してみようかなとは思ってた」

「へー、いいじゃん。ミャーノ強そうだし、いけるんじゃん? 真面目そうだし、きっといいお巡りさんになるよ」

 真面目そうだからお巡りさん向き、か…。そんな褒められ方したのは初めてかも。

「でもよビラール、そうしたらミャーノとは離れ離れになるぞ」

「俺はしょっちゅう王都に用があるからミャーノに会えるよ。ソマはダメかもしれないけど」

「俺はまあ…寂しいけどよ。お嬢ちゃんは?」

「ミャーノが王軍に就職するなら、私も王軍魔導士試験受けようかなとは」

「なんでえ、遅かれ早かれ、ご新造(しんぞ)さんにはなるんじゃねえか」

「え? どうしてそうなるの?」

「どうしてって……ミャーノの就職先に合わせて上京(のぼる)って、そういうこと以外のなんだっていうんだ」

「ああソマ、私が口説きにくくなるのでそういう茶々を入れるのはやめていただいてもよろしいですかね?」

 私とサラが主従だってわかってるベフルーズやトロユ王家関係者は何も思わないだろうけど、ただのはとこならそういう連想になるよね。ソマは悪くないけど、否定するにも代替の虚偽が必要になってくるから面倒くさいので黙ってもらおう。

「やぁ、すまん。まあ、祝いはしてえから、その時はこっちに里帰りして挙げてくれ」

 そりゃあどうも。サラはやっと理解が追いついたようで、でも私が話を切ってしまったので何も告げられず、赤くなったり白くなったりしていた。

いとこから結婚が可能な風潮でした

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