1-6.使い魔、やっと自分の顔を見る
「………」
「いつまで自分の顔見てるのよう。ナルシストみたい」
「いやぁ…ええ、まあ、うーん」
「何? 今肯定したの?」
「い、いいえ」
すみません、内心は肯定していました。
だって顔がいい。この男、顔がいいぞ。
自分が使っていたような映りの良いメッキの鏡ではなく、金属を磨いただけの金属鏡だったが、己がどんな容貌をしているのかを確認するのには十分な用を成した。
イイ男だの男前だの評されていたし、サラやベフルーズが西欧風の顔をしていたからてっきり自分も彫りが深い日本人離れした顔つきなのだろうかと推測したりもしていたのだが、瞳の色だけは元と変わらず焦げ茶色で、――しかし大きめで――鼻梁は高いわけではなく、額は出っ張っておらず、顎も割れたりはしていなかった。
体と顔の感じは日本人基準で言えば大学生くらいだろうが、彼らから見たら童顔かもしれない。街を歩いた感じでは身の丈は高い方のようであったから、子供と間違えられることはないだろう。
「……その、こんな顔をしているのだなと、覚えておこうと思いまして……」
「元の顔とそんなに違うの? 確かに男のヒトだって思えるけど、可愛い顔だなと思ってたわ」
「か、可愛いですか? 目の色くらいしか同じところはないようですね。いや、輪郭は似たようなものですけど――」
「さっきも言ったけど、私あなたの顔好きよ。だからほら、服選びましょ」
「あっはい。すみません」
そんなことどうでもいいから早く用事を済ませろと。はい。
でも服選ぶのならなおさら、自分の顔つきは分かっていた方がいいと思うんですよね。
貸していただいていたサラの父御のチュニックは柿渋色だったが、サラが選んでくれたジャケットは全体的に緋色で、差し色として黒が使われている品だった。
「派手ではありませんか?」
「服だけ見てたらそう見えるかもしれないけど、あなたが着るとそうでもないわ」
あと元気よさそう、顔色も明るく見える、などえらくお気に入りだ。
こちらのモスグリーンのローブや、あちらの紺のベストも好きな色でよいのだが――と手に取っていたら、「暗い」と一蹴されてしまった。落ち着いた色と言ってほしい。しかし確かに無難な色を選ぶ癖はついてしまっている自覚はあって、タンスやクローゼットのカーキ色とグレー率が物凄いことになっていたことをふと思い出した。
大人しく、サラが選んでくれた緋色のジャケットと、上着はもう一着、裾が長めの群青色のコートを買ってもらった。せっかくなので、――荷物を減らす目的もあるが――コートのほうはそのまま着させていただくことにした。
その他、生成りのインナー2着と、濃い黒や茶のズボン、ロングブーツを一足。
靴下も買わないと、と揃えた段で、急にサラが慌て出す。
「下着のこと忘れてた――」
「あっ、それならベフルーズさんが用意してくださるとおっしゃってました」
「叔父さん神かー!」
正直、元の世界の男性用下着のことすら詳しくはないので、ベフルーズの申し出は実に神対応だと同意するしかない。
「サラ、たくさん買っていただいたので手がふさがりそうです」
「あっごめんね、そっち持とうか」
「いえ、そういう意味ではないのです。行きの街道での隕石の件を思うと、日が暮れる前に一度サラの家に帰ったほうがよいと思います」
「…そうだね。ね、やっぱりそっち持つ。それで、あなたの剣を一振り買ってから帰りましょうか」
「ではお願いします」
私はインナーと靴下の包みをサラに手渡し、もうひとつ乞うことにした。
「帰り道か、帰ってからか、いずれでもよいのですが――あなたが何から『襲撃』されているのか、教えていただけますか?」
街道では流してしまったが、彼女は『襲撃』自体は予想をしていたようだったのがずっと気になっていたのだ。
次は武器屋に行きます。
2018/3/2:横書きWeb小説だしと思い文頭空白つけてなかったのですが、つけました。