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5-5.星空テント

 テントを出す時にベフルーズが()()済みの毛布は、空気が戻ったようでふっくらとした様子を取り戻していた。


 術者が寝ている間は魔物避けや獣避けの術式展開などできないのでは、と思い、不寝番(ふしんばん)を申し出た。

 先日の徹夜で、この身体は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことを確認済みである。それもサラたちに告げた。

 しかし。


「防御魔術なら問題ないのだわ。(ウチ)の結界は、私や叔父さんが留守にしていても有効なのよ?」

「そういえば…」

「あそこまでのものを掛けるわけじゃないが、一晩もたせる程度の簡易版を掛けておくのさ。万一突破してくるような奴がいたら警報も機能するからへーきへーき」

「だからミャーノも一緒に寝ましょう」

「うーん、本当に私、寝なくても大丈夫みたいなのですが……」

「まあまあ。俺も、サラちゃんの右だか左だかが空くよりは、真ん中の位置で守ってあげられた方が安心して寝られるからさ」

「…わかりました」

 サラはともかく、ベフルーズにまでそう言われてしまっては無碍にもできない。

 話がついたところで、サラはさっそく魔方陣を()()始めた。

「……綺麗ですね」

 サラが何事か唱えながら、枝で――ヤドリギだそうだ――土を掻くと、その軌跡は淡いクリーム色に光っていく。

「魔力光か? お前の――右肩(ここ)だったか? 召喚された時、光っていただろう。あれと同じ光だよ」

「ああ……」

 ベフルーズが、私の右肩に手を置きながら教えてくれた。

 サラの左肩を彩っていた、鮮やかなアクアマリン色。もちろん覚えている。

 あの(いろど)りを初めて見た時の気持ちは覚えている。不安なような、ざわつくような――でも、自分の右肩から溢れる赤い光が混ざった時の、穏やかな気持ちも。


「これでよーし。叔父さん、どう?」

「うん、いいと思う」

「範囲はこの…魔方陣?の内となるのでしょうか?」

 魔方陣自体はテントをぐるりと囲む大きさだった。

「ここから半径10メートルくらいね。警報もそこで引っかかるのだわ」

「そうそう、だからトイレも心配な…()って」

 ベフルーズが脇腹を(つね)られていた。今のはベフルーズが悪いよ。

 使い魔の身体は排泄する必要がないというのは、本当に助かる。


 テントの床は、幕と同じ材質のシートを敷いてはいるが、もちろんそのすぐ下は土だ。はっきり言ってごつごつする。

 ここにそのまま寝るのは、自分の身体はともかく、筋肉も脂肪も薄いサラやベフルーズには痛いのでは?と思ったのだが、またここで便利魔術の出番がきた。

 ベフルーズが()()()()()()マットレスにしたのだ。

 感触はもちろん、カチカチではない。ふわふわではないが、それこそマットレスらしく「固すぎず、柔らかすぎず」という具合である。収納魔術はこんな応用も効くのであった。


 上着を畳んで、枕代わりに。

 そして身体を横たえ、毛布をかぶり、お休みの挨拶。

 三十分と経たない内に、三人は眠りに就いた。




「――あれ? ここ、どこ?」

 独り言の、声が()()

 私はそれに違和感を覚えることもなく、きょろきょろと辺りを見回した。

「どうした、鈴蘭(すずらん)の。(わらわ)のシチューは口に合わなんだか?」

「美味しいよ、ミナ」

 私は地面に座っていて、手には白いスープをたたえた木のお椀と、スプーンがあった。

 ミナ? ああ、目の前の()()だ。

「そなたが食べたいと申した故、わざわざ作ってやったのだ。当然であろうが」

「うん」

 ああ、クリームシチューだ。チーズがたっぷり入っている。

 ここは外だが、寒くはない。たき火の影になってよく見えないが、そこには()()()()があった。

「しかもわざわざ外で食べたいなど……」

「いいじゃない、こんなに綺麗な星空なんだもの。今日は夕焼けが綺麗だったから、きっと明日も晴れだよ」

「星空なぞ、いつでもこんなものであろう」

「嘘。私にはわからないけど、ミナにはちゃんとわかるんでしょう?」

「――どの星が落ちて生まれるかなど、もう見飽きたわ」

「私の星はどれなの?」

「――……鈴蘭(すずらん)のの星はもう読まぬ」

「そっか、あるのか。私のも、どこかに」

 ミナは私の視線から顔を背けた。



「――……」

 私は横になっていた。

 また夢を見ていたのか。

 既にぼんやりとしか思い出せないが、嫌な夢ではなかった。


「――ん?」

 脇腹から腹にかけてなんだかやけに()()()ような?

 毛布の中を覗くと――サラがコアラのように抱きついている。


(寒かったのかな)

 ずれてしまっているサラの毛布を掛けなおし、さらに私の毛布でも念入りに(くる)んだ。

 私はサラが隣にいる限り、きっと体調は崩すまい。


 この身体で彼女に暖を取らせることができるのなら、いくらでも体温を移しますよ。

 そう思いながら、彼女の背中にも腕を回した。少し埃っぽくなってしまった髪をゆっくり撫でる。


 ベフルーズではなくて、私のところに潜り込んでくれたことがこんなにも嬉しいとは。


(まあ、ベフルーズも父親代わりではないのだろうな。サラの父親とベフルーズは年も離れているだろうから――タ○ちゃんもカ○オお兄ちゃんに甘えてる描写はアニメでは少なくとも見た覚えはないし)

 つい、元の世界の国民的アニメの一つで、同居している親戚間の感情を考えてしまう。


(いや、だって私、親戚の記憶ってあんまりないからさ……)


 実際には親戚はいたけれど、正月やお盆に集まる親戚一同など、縁がなかった。

 私も祖父母の家には成人してから訪れることはなかったし――母方の実家などはもうない。


(それが今は異世界で、親戚の家を頼って居候してる設定なんだから、妙なものだな)


 サラを撫でる手は段々と動きが緩慢になってゆく。


(そういえば、サラのお母さんはどうしたのだろう――)

 サラからもベフルーズからも、お父さんの話しか聞いていない気がする……。


 私は、サラのぬくもりにより、再び眠りに落ちた――

相互湯たんぽ主従でした。

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