5-2.キャンプの準備をしよう
夕食が出来上がるまでの間に、サラが乾していた洗濯ものを取り込み、畳む。
サラのもベフルーズのも私のも、下着からすべて混合しているが、区別はつきやすいので困りはしない。大きいサイズや、男性物は、私のものじゃないものが、ベフルーズのものだ。
こういう時、サラは家族以外の男である私に対して「下着見るんじゃないわよ!」的な反応をするものだとは思うのだが、いかんせん、サラも私も、私の中身が女なのはお互いわかっているので、そういう苦労もない。
「ベフルーズ。乾いた洗濯ものを、ベフルーズのお部屋に置きに入ってもよろしいですか?」
「あー。さんきゅー、頼むわ」
そしてベフルーズも、私を男だと思っているから、多少散らかっていたところで気にしないのだろう。
――と、脱いだ下着やら靴下やらがベッドに散らかされているベフルーズの部屋に踏み入った時に思ったのだった。
この叔父と姪、私に気を許しすぎなのではないだろうか?
「ミャーノ、明日持っていく雨合羽と水筒、お父様のでいいよね?」
「はい、ありがとうございます。そういえば、山に行くときはベフルーズのをお借りしてたんでしたね」
「うん。一応、昼間に穴空いてたり錆びてないかとかは確認しておいたから」
水筒はダイニングのカウンターに置き、雨合羽は私に手渡す。
ダイニングのカウンターには、先日の鹿狩りの際に持ちだした水筒が二つ、既に並べてあった。
「叔父さーん、毛布とテント玄関に置いといたからー」
「あいよー」
「テントとか、もうサックにくくりつけておきましょうか?」
三枚の毛布とテント一式を玄関に放置するサラに声をかけると、サラが「いい、いい」と手を振る。
「叔父さん、収納魔術が得意なの」
ここは魔術や魔法がある世界。「こんなに見事な収納術が!」ではなくて、本物の収納マジックがあるのか。
「そういえば、携帯食を忘れておりました。買ってくればよかったのですよね…」
「メシキの森は私も叔父さんも慣れてるし、今の季節の森は食べられるものいっぱいあるから、現地調達よ? 問題ないのだわ」
そして、サラは割と野生みに溢れていた。
「おぅい二人とも、もうできるぞー。手洗ってこーい」
「はーい」
「わかりましたー」
やったー!鹿のステーキだ!
ちょっと前に肉を焼いている音がしていたが、その後に付け合わせ用の芋やニンジンを調理していて、「焼きたてで食べないのかな?」と不思議に思っていた。
後で聞いたら、焼いてから少し寝かせた方がより美味しく食べられるそうだ。ベフルーズは、歴史の先生でも魔術士でもなく、本当は料理人なのでは?
保温モードになっているオーブンからベフルーズがステーキを取り出してソースをかけると、それがふわりと香りを放つのだった。
美味しい食材を美味しく仕上げられるのは何よりも高尚な才能だ。
堪能した後は、台所の片づけを手伝ってから、シャワーをお借りして、ベフルーズに乾かしてもらう、という、すっかり決まった行動をとる。サラが割り入ってくるのが少し早かったかもしれない。
部屋に寝に戻ると、『王女カトレヤと鈴蘭の騎士』が目に入った。
昨夜は――いや、今朝はまだ途中だったのだが、続きを読むか、やや悩み、今夜はやめた。
寝不足がたたらない身体であるとはいえ、遠足の前夜だ。夜更かしは、精神的にはきっと良くないだろう。
収納魔術が欲しいとは言わないので、収納技術がほしい。ほんとに。