4-13.おつかいクエスト~最終章~
マンダリン通りには、野菜や果物の出店が大小含めて20店舗くらいある。見て回ったところ、りんごは14店舗で扱っていた。
旬なのかもしれない。
りんごの種類について詳しくはないが、昔の日本や中国のりんごと、ヨーロッパ原産のりんごは違う果物だったはずだ。この国に並んでいるのは、私が見慣れた西洋りんごのほうである。
21世紀の日本における西洋りんごの品種改良はとてもレベルが高かった。ここのりんごは私が思っているよりすっぱかったりぼそぼそしているものかもしれないという覚悟をしておく。
しかし、見た目はどこのお店のもいい色で美味しそうだな。
こういうときは真ん中の値段のものが一番外れないかな。
そんなことをつらつら考えながら、値段を見比べてうろうろ往復していると、ロス君が向こうから手を振って寄ってきてくれた。
「ミャーノさん」
「こんにちは、ロス君。巡回ですか?」
「一応ね。って言っても、歩いてるだけだけど」
「その腕章を見かければ、街の皆さんが安心しますからね」
外で自警団として行動している人は大抵、この赤い腕章をしていることには気がついていた。
腕章といっても、安全ピンで取り付けるタイプの腕章ではない。紐を編み上げて固定されている、篭手のような形状のものだ。肘にプロテクターもついている。
「何してんの? 買い物?」
そう尋ねながら、私が前に立っていた店の品物を覗きこむ。ここはりんごは置いていない。
「ええ。サラにりんごを買ってくるよう言付かりまして」
「ふぅん。いくつ?」
「三つほど」
「ふんふん。じゃあこっち」
「ロス君?」
ジャケットの袖を引かれて素直についていく。
「サラが好きなのはここのエミネ農園のりんごだよ。小母ちゃん、この兄さんにりんご3個」
「はいよ。りんごだけでいいのかい?」
「今日のおすすめなんかある?」
「今年はびわが一気に生っちまってねえ。1笊でも買ってくれるなら、りんごはおまけでもう1個つけるよ」
びわは1笊に5つ入っている。りんご1個より安い。びわが安いのかりんごが高いのか。
でもトータルで安くはもちろんならないしなあ…りんごは3個でよいのだ。
びわは好物なんだけどなあ…。
「ミャーノさん、びわ、好き?」
「好きです」
「即答の本気度がすごいね…。小母ちゃん、びわ1笊とりんご4個ちょうだい」
おっと買われてしまった。まあいいか。
財布から銅貨を出すのにモタモタしていたら、ロス君がさっさと自らのポケットからお代を出してしまった。
りんごは1個75銅貨、びわは1笊50銅貨。3個と1笊分の代金なので、しめて275銅貨である。
「ああ、ロス君、すみません。こちら、お代です」
マーフさんのところでお金が崩れていてよかった。200銅貨を1枚と25銅貨を3枚渡そうとすると、ロス君は200銅貨だけ受け取った。そして、売り子から渡された袋から、りんごをひとつ取り出して、袋を私に渡す。
「俺もここのりんご食べたかったから、これは俺のりんご」
いたずらっぽく微笑んで、そのままそのりんごをかじる。
うわ、うわあ。ロス君、キミって子は!
そういうことか。確かに75銅貨でりんご1個だから、キミは損していないけれど!
たった25銅貨なのに、ロス君がめちゃくちゃかっこよく見えるぞ。
「好きです、ロス君……」
「うわっ、やめてよ。ミャーノさんがそういう冗談言うとマジっぽく見えるから」
「大真面目なのですが……。ありがとうございました」
言いたいことはわかる。年上のでかい男に好きとか言われてもゾッとするだけなのはわかる。
しかしこの子、やはり女の子にモテるタイプなのでは? 私は訝しんだ。
ロス君にはお礼として、びわの実を2つおすそわけした。
びわは3つあれば、バニーアティーエ邸へのお土産には十分だ。
ロス君と別れて、ポーロウニア通りへ向かう。薬屋や雑貨屋のある通りで、アヤが店番をしていた「よろづ屋ギデオン」もこの通りにある。店を構えてる位置自体は少し路地に入ったところだったけど。
残すは重曹のみ。
「こっちは比べづらいですね……」
ふむ、と独り言ちる。
ポーロウニア通りはマンダリン通りと異なり、屋台形式ではなく、ちゃんとした屋内型の店舗ばかりだ。
窓から見える商品棚にも、値札がろくについていなさそうである。
ギデオンならひどくぼったくられることはあるまい。日も傾いてしまうし、屋内型店舗の新規開拓はまたの機会にしよう。決して一人でお店に入るのが怖いからじゃないよ。
「ごめんください」
「あっ、クロスボウの人!こないだはあんがとねーっ、狩りはどうだった?」
「はい、おかげさまで。翌日無事に仕留められました」
「そいつはよかった!今日はなんだい?矢の補充?」
今日の店番もアヤだった。相変わらずのあったかそうなふかふかのロップイヤー。ほんとかわいい。語彙を失う。
「いいえ、矢は今のところ全て無事ですよ。掃除用に重曹が欲しくて。置いてますか?」
「ああ、料理用じゃなければあるよ。量は?」
「1500gほど」
「じゃあ、1455銅貨だな。ちょっと待ってて」
1455割る1500が暗算でできない…。500gが500円くらいなのか。
「はい、まいど。あのさ、あのクロスボウの調子が悪くなったら、たぶん私が修理できるから、言ってね。アフターサービスで、部品代以外はタダでやったげるから!」
「おや、それはありがとうございます。乱暴に扱うつもりはもちろんありませんが、困った時は相談させていただきますね」
「ふふふ。やっぱりクロスボウは使われてこそ光るってモンだからさ!」
重曹の袋も果物の袋もサックの中にしまってから、店を出た。
重さは全く感じないのだが、バランスは少し取りづらいかもしれない。
さて、ベフルーズに言われた通り、サラが心配しださない内に帰ろう。
やっと買いました。