4-11.使い魔、一人で食事をする
アリーは自警団の食堂に誘ってくれたのだが、連日ご馳走になるのも気がひけたので遠慮しておいた。
お小遣いもちゃんともらっているし、マーフさんのレストランでランチを食べよう。
マグノリア通りの食堂へ向かうことにした。
ふと、オジギ亭の襲撃を思い返して、迷惑をかけないか不安になるが――どこにいたって同じなのだから、気を抜かないことで許してもらおう。
自分が一人だから襲うというなら、さっきの訓練場で既に襲われているだろうし。
「いらっしゃい、ミャーノ。もうサラちゃんに追い出されたのかい?」
「人聞きの悪い意地悪はご勘弁くださいますよう、マーフさん……。『岩魚の唐揚げ定食』をお願いしたいのですが。あと、弱いエールも」
「あいよー」
薄めた麦茶のような味のするエールは、マーフさんの店のオリジナルブレンドらしい。要は、色んなエールを混ぜたものだ。なので、商品の名前があるわけではない。
「こちらエールです、どうぞ」
「どうも」
先日は見かけなかった少年が運んできてくれた。年の頃は十二、三といったところだろうか。
あどけない笑顔がかわいい。
「ルク!岩魚定食あがったよ!」
「はぁい。お客さんのです、すぐお持ちしますね」
「ありがとう」
岩魚の唐揚げにはハーブが散らしてあって、香り高い。
岩塩も振ってあって、ご飯が進む。タイ米なので日本人的にはミスマッチだが、おかずが美味しいので全然イケる。
さて、この後おつかいを済ませなければ。
りんごは青果の通りに置いてる店をいくつか見たのでいいのだが、重曹ってどこに行けばいいんだ?
ドラッグストア相当となると薬屋か?
雑貨屋といえばアヤの店が思い浮かぶが、そこにあったとしても相場がわからないしなあ。
青果店の多いマンダリン通りへ、まず行って……
(そもそも重曹って何だっけ……)
私立文系に進んだ私の、理数工学方面のダメっぷりをナメてはいけない。すいへいりーべぼくのふね、かいじゃりすいぎょのすいぎょうまつうんらいまつふうらい…ほら、ダメ!もうダメ!!
何に使うものかはわかっているのだ。ふくらし粉として。かん水の代わり。石鹸の材料。カーペットに撒いて汚れを浮かす。
「ソーダ…そうだ、ソーダ……では炭酸か?」
ダジャレではない。
日本の重曹の値段を思い出そうとして、ふと気付く。
重曹ってたしか、食用とそうじゃないものがなかったか?
百均の重曹は食用に使うなよ、と友人に言われた記憶が甦る。
ベフルーズは何の用途に欲しかったんだろう?
――これはダメだ。1500gも間違った質のものを買いたくない。
この前と同じように通されたカウンター席で、外へ視線を移し、太陽を見る。
南中から少しずれている程度だ。
聞いておいた学校のタイムテーブルでは、まだ給食の時間のはず。学校に行って直接聞くしかない。
「…うう、おつかいも満足にできないとは…」
そしてこんな時、やっぱり携帯電話がないのは不便だ。
よし、ランチを終えたら、マンダリン通りではなく、学校だ。
短いけどキリがいいのでここで。