表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/169

4-4.道端で口づけを

 詰所の受付で、昨夜から預かってもらっていた鹿肉を受け取っていると、ミーネが顔を出した。

 ミーネの受け持ちがこのロビーと応接なのかもしれない。

「さきほどはお疲れ様です。団長が参考になると喜んでおりました」

「いえ、お役に立つか…。…ミーネ、私のことを団長殿にどう紹介されたのかお聞きしても?」

「まあ、うふふ。お顔立ちと人となり、剣とクロスボウの腕について、私が拝見したありのままを伝えただけですわ」

 今、「顔」が真っ先にきたな。私もこの顔、嫌いじゃないけどさ。

「父が何か失礼なことを申しまして?」

「ミーネ…いや、そういう外堀から埋める周到さ、あなたのいい所なのですがね…」

「まだダメだって言ったじゃないですか、ミーネさん。ミャーノはまだうちのです」

「あら」

 サラが、子供っぽく私の腰に抱きついてみせる。抱きつくというかしがみついている形だが。

「サラちゃん、お兄さんなら元々ベフルーズ先生がいらっしゃるじゃないの。心配しなくても、ミャーノが自警団に入職しても、お嫁さんをもらっても、ミャーノがあなたのはとこさんであることに変わりはありませんわ」

 お嫁さんもらったら、はとこの数は一つ増えますけどね。

「…けれどミャーノ、今回の事件如何では、きっとあなたのお力添えが必要になりますわ。サラちゃんの魔術も。お二人とも、よろしくお願いいたします」

「ええ、承知いたしました」

「…はい、いつでも言ってください」

 サラはミーネの真摯な様子に恐縮しながら、私の腰を放した。

 団長の娘さんは、肝心なところでちゃんと団長の娘さんなのだ。

 そんな凛々しい表情(ひょうじょう)で、務めを全うされてしまうと、ああ、うっかり惚れかねないので勘弁してほしい。

「そうだ、ミーネ。ロス君はどちらにいらっしゃいますか?」

「あっそうだった。ミーネさん、私たち、ロスに昨日の山ガイドの報酬を支払いたいの」

「ああ、そういうことでしたら、学校に行ってますわ。今日からしばらく学校の警備を自警団で担うことになりましたの」

 なるほど、出没した暴漢を捕まえられていないのだから、当然の措置だな。

「報酬に関しては、受付にことづけてくだされば領収証も出しますわよ」

 出先で渡すのもなんだし、ということで、報酬は受付に預けることにした。

 それでおしまい、というのもなんなので、ロス君に直接挨拶には行こうということになった。


 シーリンには学校はひとつしかないらしい。

「ベフルーズが先生をされているところ、拝めますかね?」

「どうだろ。一日中教鞭とってるわけじゃないから、時間割次第だね」

 職員室にいるベフルーズという図も見てみたいから、授業外ならそれはそれで。

「ミャーノ、楽しそうね」

「ははは、顔に出ておりましたか。いやあ、同僚や取引先以外の知人に就業中の姿を見られるというのは、なんとも気恥ずかしいものでありますから」

「やだー、いじわるー」

「いやいや人聞きの悪い」

「あんまり叔父さんと仲良くしたらやきもちを妬くわよ」

「え?」

「私がね」

 そう言いながら、私の右手にサラの左手が繋がれる。

「ミャーノと一番仲がいいのは、私でないとイヤなのだわ」

「……その点は大丈夫ですよ、サラ」

「わからないじゃない。昨夜だって影傀儡の術で遊んでた」

「遊んでいたわけではありませんな」

 そこはベフルーズの肩を持つよ?

「ミーネさんと結婚しちゃヤダ」

「この身でそんな大それたことをするわけがございません」

「昔話で絡繰(からくり)とお姫様が駆け落ちする話があるのだから、使い魔が市民と結婚するのは有り得なくもないのだわ」

 そんな、未来を生きている御伽話があるのか、この世界。すごいな。

「…サラ、その流れで言えば、私が結婚するのはサラになりますよ」

「……確かにそうね…」

「――心配症なのですね、私のマスターは」

 繋いでいたサラの左手を持ち上げて、その甲にキスをする。

 サラは満足げに、キュッとその手を握る力を一瞬込めると、やがて手を開き、離した。


 道なりにしばらく歩いていると、街中の民家よりも大きめの建物が現れた。学校である。

到着したところで終わってしまった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ