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3-3.はじめてのクエストクリア

 鹿の血で溜まりができた場所から、鹿を担いで、少し広めの道まで戻ってきた。

 血の臭いに肉食獣が寄ってくるのを恐れたのだ。

「サラ、少し休みましょう」

「え、私大丈夫よ」

「…俺が疲れた」

「…ごめん、じゃあ休む」

 ナイス、ロス君。

 サラよりは疲れてなどいないだろうに、サラのために(うそぶ)いてくれたのか。

 ありがとう、の意味を込めて、彼の背中をポンと叩いてやる。

 伝わったのか、少し照れたように笑っている。


 水筒の水を口に含むと、喉が渇いていたことに気づく。

 もしかしたらこの身体は飢えや乾きには鈍感なのかもしれない。脱水症状で倒れる様な生身ではないと思うが、気をつけるようにしよう。

「すごいな、アンタ。姉貴が褒めるのもわかるよ」

「ああ、クロスボウですか?改まって褒められると、気恥ずかしいですね」

「クロスボウもなんだけど、仕留め方というか…」

「ロスの言いたいこと何となくわかるのだわ。攻勢(こうせい)の時のミャーノの動き、綺麗なのよね」

「ああ、そうかな。無駄がない動きかとかは俺にはわからないけど、『綺麗』か、そうか」

「光栄です」

 素直に受けておく。所詮、それは私の技術ではないのだ。この身体の男のために、賛辞を受けとめておいてあげよう。

「…ミャーノさん、姉貴と会ったのは俺と話してたあの時が初めてなんだよな?」

「? ええ、初対面の挨拶もしていたではありませんか」

「それはわかってるんだけどさぁ……ミャーノさんのすごいとこ見てから惚れるならわかるんだけどよ…」

 あーあ、「惚れる」って言っちゃったよこの弟。ミーネも露骨には言ってなかったからスルーしてたのにさぁ。

「まぁ、この辺ではあんまり見ない顔つきしてるからなあ」

「カオが好み()ストライクだったってこと?で、周りにこのタイプがいなかったからこれまではそういう姿を知らないと」

「おまえ兄弟いないからわかんないだろうけど、めちゃくちゃ気味悪いし居心地悪いんだぞ…。で、ミャーノさん」

「はい?」

 私の表情筋は笑みを絶やさない。

「姉貴はどうなの。ていうか姉貴がぐいぐいいってるの迷惑だったらちゃんと迷惑って言ってやってほしい」

「迷惑など。昨日はアリー殿に引き合わさせていただいたり、食堂でご馳走になったり、市を案内していただいたり…本当に有難かったですよ」

「でも自警団に無理やり勧誘されたりして、困ってなかったか?」

「今は、そうですね。少しやりたいことがありまして。サラのお手伝いが済んだら、定職を見つけたいので…その時は相談させていただいてもいいでしょうか」

 生身の人間の場合は、その見通しであれば「大人」としては問題ないだろう。

「しかしまあ、その頃にはミーネの興味も私から離れてしまっているでしょうけどね」

「あら、惜しいの?わかるけどね。ミーネさんは綺麗だし」

「はは、サラも美人ですよ」

 少しピントのボケた受け答えをする。嫉妬かなあ、可愛いなあ。

 まんざらでもなさそうな表情(かお)(あわ)おこしを()んでいる。

 美人だし可愛いし最高だぞ、サラ。さすが私のご主人様だ。

「姉貴よく美人美人言われるけど、わっかんねえなあ」

「あんたお姉さんと顔そっくりだもんね。顔はあんたもいいわよ」

「えっマジかよ」

 うん、ロス君は結構整った顔してるよな。美人という感じはしないけれど、いわゆる「美系」ではあるだろう。サラはそっくりと言うが、それでもロス君はしっかり男性の顔つきをしている。

 サラに褒められて嬉しそうだ。「顔は」って言うけど、サラ、ロス君は性格もいい子じゃないか。「は」はひどいんじゃないかな。

 でもロス君は気にしてなさそうだから、余計な茶々を入れるのはやめておいた。


 おやつタイムを終えて、下山を遂げる。

 登る前に心配していた脚の具合も、今なお何ともない。

 この後マラソン10キロと言われても難なくやれそうだ。しないけど。

「狼とかに遭わなくてよかったです」

「ミャーノ、熊にえらい怯えてたものね」

「意地悪を言わないでください、サラ。私の故郷の熊はサラくらいの大きさだったのにそれですらかなりの強さだったのです」

「えっ怖なにそれ。小熊なのにミャーノさんでも怖いとかどういうことなの」

「熊をナメてはいけません、ロス君」

 いや、今なら(ほふ)れるのかもしれないけど、慢心はいけないのだ。偉人や空母も言っていた。


 帰宅してからサラが内緒話として教えてくれたのだが、鹿を捕まえた後は「獣避け」の魔術を行使してくれていたのだそうだ。先にそれを言ってくれればいいのにと述べたら、ベフルーズにも開示していない秘術なのだという。

 秘術とそうでないものの差がわからない、と感想を言ったら、「いくつか共通の定義は見いだせているのだけれど、おそらくみだりに使わないほうがよくて、悪用されると面倒になる、というのが主だというのが師匠の見解だったのだわ」と返ってきた。

 確かに横暴な領主にでも知られたら、街の防衛のために常時発動させろとかブラック企業みたいな命令をされるかもしれない術ではある。

 一般的に使えるならともかく、高度な術式らしく、教えられても使えるようになる魔術ではないらしい。


 閑話休題。

 街に戻ったので、そのままソマの武具屋で向かうことにした。ロス君もついてきてくれるそうだ。

「今晩何食べにいこっか」

「ロス君は何か希望ありますか?」

「そうだな~、ピザとかグラタンとかで、肉とチーズが食べたい。お勧めの店は一応あるけど」

「では是非そちらをご紹介いただけませんか」

 この街にもピザがあるとは。生地部分は厚めのパンなのか、クリスピーなのか。どっちも好きだ。甘いのもしょっぱいのも。グラタンも大好きだぞ。海が近いわけではなさそうだから、海鮮モノはあまり期待していないが、そのうちエビグラタンやシーフードピザにありつきたい。

 こちとら世界的にエビとマグロの消費量が抜きんでている日本人である。お察しいただきたい。


 街の北にあるソマの店にはすぐ着いた。

「ごめんください」

「おお、ミャーノ!うおっ、早えな!もう狩ってきたのか!」

「ええ、御所望のオスのキイキイ鹿です。これから解体を行うのですが、一応ご確認いただこうと思いまして。引き渡す部位の確認も」

「ああ、ありがとな。要るのは鹿茸(ろくじょう)鹿鞭(ろくべん)なんだが、なんなら裏庭でそこだけ切り落としていくかい?内臓や肉はそのまま持っていくといい」

 要求されていたのは強壮や強精の薬の元だから、角と生殖器だけでいいということか。

「皮などもよろしいので?」

「ああ、なんならそれは剥がして持ってきてくれりゃあ、別途買い取ってやるよ」

「それはありがとうございます。ではサラ、少々そちらでお待ちいただいてもいいですか」

「ん、わかった」

 鞭を切り落とすところなど別に見たくはあるまい。

「俺も手伝うよ」

 ありがたいけどロス君、君は君で見ちゃうと痛いんじゃないかなあ…。私は心情的に平気なんだけど。


「待たせたな、お譲ちゃん。そら」

「えっ?オジさん、私たちが1000銅貨支払うんじゃないの?」

 裏庭から店内へ戻ったソマは、サラに9000銅貨を渡していた。

「1か月以内でいいと言ったのに仕事が早かったし、ただの角じゃなくてちょうどいい塩梅の袋角だったからな。差額のボーナスさ」

「ありがとうございます、ソマ」

「いいのさ。その片手半剣(バスタードソード)、可愛がってやってくれ」


 げっそりしたのは気のせいではないだろうロス君を伴って、オスの証を全て失ったキイキイ鹿を担ぎ、今度は詰所に向かう。

「鹿肉、好きな部位あげるから元気出してください」

「ウウ、ウウ…ありがとうミャーノさん…」

次はピザ食べましょうピザ


2018/3/2:横書きWeb小説だしと思い文頭空白つけてなかったのですが、つけました。

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