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13-25.傷だらけの手指

「『そこにいる』……いや私は確かに()()におりますが」

 何かまずかったですか。カルケの(おのの)いている理由が全くわからず、困った私はサラへ目を向けた。

「……そういう意味では、なさそうなのだけれど」

「まあ、はい」

 場が戸惑いの空気に包まれると、耐えられずにおどけてしまうのは私の悪い癖だ。都子の時から()()である。


 私の間抜けた発言で気を取り直したキア達は、カルケとティルタをそれぞれ別の詰所へ連行した。

 すっきりとはしないまま彼らを見送り、グラニットを伴って、私はサラと、ミーネらのアパートへ向かう。ビラールには改めて詫びて、今夜飲む約束をとりつけて宥めて一旦店へ帰した。そんなことで詫びになるのかとは思うが、ビラールは上機嫌で帰っていったので、気はとても楽だ。

 道すがら、キアとの会話を反芻した。


『グラニットは一応保釈されてるわけだし、君に預けるよ、ミャーノ』

『よかったです。昏倒させられた部屋にグラニットを戻すほど、キア殿が人でなしでなくて何よりです』

『宿泊費は領収書切っといて。経費で落とせないか、後で勘定方に掛け合ってみるから』

『経費になるかはまだ検討中なんですか……』

 落とせなかったらキアが自腹を切ってくれるんだろうか。それはそれで良心が痛まないこともない。私の懐が痛むよりは良い事態であろうけれども。


「このままだと、私はあなたの保護観察官のような扱いで定着してしまいそうですね」

「『保護観察官』って何だ?」

「おや。サラ……」

「あるわよ、そういうの」

 こちらの世界にはそういう制度はないのか、という意図でサラに話を振ったが、我が主は的確にそれを汲んでくれた。察しが良い。サラはそのままグラニットに掻い摘んで説明もしてくれる。仕事ができる。

「容疑や懲役から放免となったからといって、そのまま野放しにするのは得策ではないでしょう? そういう人に政府がつける監督者のことなのだわ」

「へー。」

「へー、じゃないのだわ。貴方当事者じゃないの。ミャーノがいなかったらこんな風に王都歩けてないかもしれないんだからね」

「感謝はしてる」

「……そ、そう」


(……てっきり、悪態でもつかれるかと思ったら)


 私と同じ予想をしていて外されたのだろう、毒気を抜かれたサラが私を見るので、それに対しては、肩を竦めるかわりに片眉を上げて応えておいた。

 とてもどうでもいいことではあるが、都子の時は出来なかった仕草だったのに、ミャーノの顔ではそれが出来ることに気がついた時、『都子(じぶん)が特別不器用だったわけではない』という励みになった。その際、耳を自在に動かせるかも試したが、生憎(あいにく)(ミャーノ)にもそれは出来なかったようだ。

 ああ、実にどうでもいいことであった。


「実際どうされるおつもりで? ミャーノさん。同じ宿に泊まらせるおつもりなら、それはあまりお勧めしないですよ」

 苦言を呈したのはフランシスである。そう。彼は我々に随伴していた。

「グランタがその原因なら、グランタが宿を変えるべきですよ。警護すらも十分ではないのでしょう」

「ウッ…」

「それを進言できるような立場の人間がいないのはわかりますけどね」

「わかってるなら勘弁してください…!」

 グランタはタンジャンと共に、ティルタ達の連行よりも先に本部からは立ち去っていた。

 イレギュラーな騒ぎがあった、しかも魔導士の不祥事でもある事件であったのだ、グランタやサラの受験はこのまま滞りなく行われるものなのだろうか。



「『トロユビトト_ハナシテカエル』」

「んっ?」

 三人雁首を揃えてアパートの扉をノックすると、2センチだけ開けられた戸の隙間から抑揚のないアークの声が流れてきた。

「じゃないですよ!! こっちは一年くらい待たされた心持ちでした! なんで爆音の様子見に行ってトロユの人と話しこんでるんですか!!」

「まだ半日も経っていないのに、大袈裟なのだわ」

 カラカラと笑い飛ばしているサラの横で、私は申し訳なさに()()()背を丸めた。一日千秋のその思いには、私も覚えがあるので。

「すまない……」

「日が暮れる前に帰ってきてくれたからいーですけどね! そういう人ですよあなたは」

 ぶつぶつ言いながら、ギチリと軋む扉を、大きく開いて招き入れてくれる。

「どうぞ、お二人ともご無事で何よりです。とりあえずお茶でも……って……グラニット?」

「彼にも一杯頼むよ」


 私やサラが宿泊している宿に連れていかれているのだとばかり思っていたらしいグラニットは、女子二人の下宿に訪ねてきていることにやっと気がつき、三歩くらい後ろに下がっていた。

 奥ゆかしいなぁ。


 ふと、扉にかけられたアークの手指に目が止まる。


「……どうかしました?」

「いや……それじゃ、お邪魔するよ」


 アークの手指は少し荒れていた。

 長旅で、私と邂逅する前から野営がほとんどであったろうし、今日だって朝から掃除やら何やらで水仕事が多かった。

 皮も剥けていれば、小さな擦過傷も見て取れた。


 いつのことだったか、同じような手指を見たことがあった気がした。

お読みいただきありがとうございます!

あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願い申し上げます。

まさか1年かけて1日の話書くことになってるなんて2019年始は考えていなかった…。


次回更新は1/29(水)までに、予定しています。

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