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【キーリス異聞】使い魔のいない刻・13

番外編ですが、情報自体は本編にも絡んでいます。

前回の続きにはなりますが時系列としては前回よりも前。

ミャーノがいない世界線の話なので注意。

「うーん、そう改まって()かれることがなかったから何と言っていいか」

 ベフルーズは、そうボヤきながらも手は休めずに、てきぱきと食器棚に皿をしまう。

「妙なことを訊きましたか。申し訳ありません」

「ああいや、そういう意味じゃない。えっと、紅茶とコーヒーどっちがいい?」

「……紅茶で」

「私もー」

「おれも」

「はいはい」

 バニーアティーエ家の食卓には、ベフルーズに謝罪したパールシャ以外にも、サーラーやフィルズも着いていた。

 立っているのはベフルーズのみであったが、けっしてサーラーやフィルズたち家族は手伝いをサボっているわけではない。ベフルーズの魔術であっという間に洗浄と乾燥を済ませられた数枚の食器や調理器具の収納に下手に手を出す方が、ベフルーズには邪魔なのである。

 パールシャは完全に客の立場であることもあり、そんな弟御(おとうとご)令姪(れいてつ)に倣って彼もまた大人しく座っていた。


 パールシャがベフルーズに問うて口ごもらせたのは、

斯様(かよう)な料理の腕を持っているのなら、街で料理店を開いても大成したことだろう」

「教師の道を選んだのは、やはり教師という仕事に()()向いていたからなのだろうか」

 という、パールシャにしてみれば何気ない所感である。


「俺が教師に向いているのかと訊かれて『そうだ』と言うのも何だか不遜(ふそん)だと思ってなぁ」

「そういうものですか? フィルズ、弟の君から見てそこはどうなんだい」

「少なくとも向いてないとは思わないかなあ」

「ベフルーズ叔父さんって、叔父さん自身はかなりデキる魔術士だと思うけど、デキない子に理論教えるの巧いみたいよね」

「理論が理解できるようになるのと、それで(つか)えるようになるかは別の話だけどな」

「ああ、フィルズはデキない子の方か」

「魔術の素養ゼロのおまえにだけは言われたくない事実だ」

「ごもっとも」

「パールさん、逆にすごいのだわ。魔道具が使えないわけじゃなくてよかったね」

「王都の生活や仕事に慣れた今では、魔道具のない生活が如何(いか)に不便だったかと確かに思うのですがね。まあ、当時は別にそれで不満はなかったんですよ」

「……なぁフィルズ。パールはこれまで学ぶ機会がなかっただけで、魔術が使えないわけではない、わけではないのか?」

 ベフルーズはパールシャに直接は訊かず、フィルズに話を振った。パールシャの顔がサーラーに向いていたからということもあるが、単純に『失礼な質問かもしれない』という心理が働いたのである。無論、そんな心配は要らず、パールシャは気分を害することもなく、サーラーからフィルズに向き直った。彼の回答、判断がどうかを期待して待っている。

(ちょっと『飼い主の評価を待つ犬』っぽい)

 猫派であるサーラーは、それはそれとして犬も好きである。間違いなく失礼な印象を抱いたことは、もちろん(もく)しておいた。

 彼女から見ても、フィルズは全くパールシャの飼い主に相当(そうとう)しやしないのだが、猫のようなパールシャが、たまに人懐っこい犬に見える時がある。

「いやあ、パールはどうかなあ。意外と雑な性格してるから適性あるかないかで言えばないんじゃないの」

(ざつ)て」

「ごめんて。エルドアン(こう)無しの戦術に切り替えるっていうのも今は現実的じゃないし、下手に魔術を使えたりしない方がいいと思うけど……ああお前、だから魔導士たちに魔術教えろとか言わないの?」

「別にそこまで考えていなかったが……たとえ学びたかったとしても、魔導士たちに頼むのは……彼らの休みを奪うようなことはしない」

「あ~。そうか。お前はそうだよな」

「もしパールが魔術に興味あるならと思ったんだが」

「?」

 ベフルーズが残念そうに微笑むのを見て、パールシャは小さく首を傾げた。

「無料で家庭教師しようかと思っただけだよ。俺はたぶん、自分の()っていることを人に解説するのが好きなんだ。教師に向いてるか向いてないかは置いといてな」

「え。それこそ教職についている方は正当な報酬を受け取ってください」

「や、でもフィルズがさっき言ったアレは確かにそうかも」

「アレとは……ああ、エルドアン鋼の話ですか」

「うん。俺は剣術からっきしだからその辺の感覚がわかんないけど」

「んー。おれだって言うほど達者なわけじゃないから何とも言えないけどさ…」

「フィルズ叔父さんの言うことは一理あるのかも。とっさの時に、反射的に魔術を遣おうとしちゃったら悲惨なのだわ」

「そんなものでしょうかね……」

 腑に落ちる様な、落ちないような表情を浮かべ、パールシャは三人のバニーアティーエに胡乱な視線を送ってしまう。


 パールシャは結局、飲み頃になったはずの紅茶の味を今いち味わいきれなかったのであった。

お読みいただきありがとうございます。

パールシャ話はあともう一回続きます。


次回更新は11/17(日)までに…!

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