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13-23.使い魔、地下留置場に向かう

「――ッ……意識はありますか!?」

 声を掛けようとして、駆け寄りしゃがみこみ、しかし一瞬怯んでしまった。

 顔を覗き込むと、グラニット達は三人とも目を剥いていたのだ。

 かっぴらいていた。既に死体かと思って怯むのには十分怖い光景だ。

 だが、呼吸と鼓動の気配がある。意識がどうなっているのかがわからないので、下手に助け起こすのはやめておいた。

「麻痺か」

 都子がいた世界の医療技術による全身麻酔と違って、魔術による麻痺は最低限の生命維持機能を残すことができる。

 判断を口にしながら、エルドアン鋼の片手半剣(バスタードソード)逆手(さかて)に持ち、グラニットの硬直している手の甲に切り傷を(つく)った。

「……っあぁイテテテテ!!!!」

 第一声がそれだったので、どこかに怪我をしていたのかと思いきや、

「あああああああ」

「あ。(まばた)き出来なくて目が乾いてしまっただけですか」

 両手で目を覆いながらのたうちまわりだした。大人しくしてろよ。

「そんなこと言ったってコレめちゃくちゃ痛いぞ!!!!????」

「いやまあそうでしょうけど」

 ちょっと安心しながら、ハルニスとジャンにも同じ処置を施す。

 二人はグラニットと違って、まぶたを閉じながら数秒硬直した後に、それぞれが私に礼を短く告げた。

 ――本当はめちゃくちゃ痛いんだろうね。

「状況としては急いで立たずとも問題ありません。大事(だいじ)はありませんか」

「ああ、大丈夫です、ミャーノ君」

「自分も、支障はありません」

 ハルニスとジャンの喋り方はしっかりしている。先に立ち上がって、腕を差し出して順に立ち上がらせた。

「ジャン、なんでこんなところで巻き込まれて麻痺なんか喰らってるの?」

 この声の(ぬし)は、私の背後から悪戯っぽくぴょこりと顔を出したグランタである。

 彼は私より背が高い。目の高さに横顔の鼻梁(びりょう)がくる。

 近い。私は彼の立つ位置と反対側に首をそっと(かたむ)けた。

「キア殿。留置場にも見張りの担当の方はいますよね? 彼らが無事とも考えにくい。様子を見に行った方がよろしいかと思うのですが」

 キアは廊下で魔術士二人を拘束したまま待機していたが、私のその(げん)に、脱獄幇助(ほうじょ)の実行犯である少女が少し俯いたように見えた。


 魔術士二人はハルニスとジャン(とグランタ)に託し、私はキアとガラシモスとグラニットを伴い、地下へ歩を進める。

 ハルニスにも魔除け(アミュレット)を発動してもらったので、二人が何かしようとしても、制圧するのに問題はないだろう。

 留置場――今彼女らが抜けて出てきたところ――から、まさにその場所へそのまま現行犯を戻しにいくわけにもいかない。数を頼れる受付のホールに連れ出す方が、堅実に捕まえておけると判断した。

「いや、なんで俺を当然のように連れて行こうとしてんだ、あんた!? …いや…そりゃあ、俺を師匠と一緒にしておくわけにはいかないんだろうけど……」

「よくわかっているじゃないですか。それに、」

 すぐに階段に差し掛かった。暗いのはわかったが自分がそれに頓着せずに下り始めると、後ろについていたキアが慌てた声を上げて何やら短く詠唱を口ずさむ。すると、階段に沿った石壁にかかっていた幾つものランタンが一斉に(とも)った。

 いけないいけない。気が急いてしまっていたようだ。

「すみません。えっと、それに――君に何があったか、グラニットの口から聞いておきたい……っと……キア殿」

「ああ、ウチの衛兵だ! ミャーノ、頼む」

「はい」

 現場(げんじょう)に着くのが早かったせいでグラニットとの話も中断されてしまう。仕方ない。

 それより目の前に倒れている衛兵三人の救助だ。


「うう……」

「目眩などはしませんか?」

「だい、だいじょうぶ、です。それより、野盗の魔術士が脱獄を――」

「問題ない。一人の手引きと魔術士ティルタであれば、上で確保してある」

「そ、そうでありますか。申し訳ございませんでした」

 麻痺状態から復帰するなり言い訳するでもなく、まず懸念事項を報告できるのか。すごいなー、騎士団。

 私なら「違うんです不意をつかれて!」とか思わず自己弁護しちゃいそう。プロ意識がないから仕方がない。

「グラニットに確認することではないんですが。あの手引き犯の少女は、どうやってかあの宿泊エリアを経由して潜入して――まず最初にグラニット、君に接触したのではありませんか」

「ん? ミャーノは今回のことに関しては彼が無実だとさっき言っていなかった? ていうか、ハルニスもそこに口挟んでなかったし」

 さっき、というのは、魔術士二人をハルニス達に任せた時に会話を交わした時のことだ。

「ティルタの脱獄を手伝うよう、あるいはグラニットも共に抜け出そうと提案を受けた。でも君はそれを承諾しなかったんでしょう」

「……」

 グラニットの沈黙は肯定ととっておこう。

「提案を断られたあの少女は、ティルタのみを連れ出すことにした」

「あれ? でもそれならなんでハルニス達が――、あ。」

「認識確認のために、野暮ですが続けますね。まずこちらの衛兵三名が少女に()()()て、そして侵入してきた経路を戻るようにしてここから出ようとしたのでしょう。そこで、幸か不幸か、“グラニットに会いにきた”ハルニス殿と、あとついでになぜかついてきていたジャンさんと、グラニットが、部屋の入り口付近あたりで話している場面を目撃してしまった」

「王軍的にはタイミングとしては悪くなかったけど、ハルニス達自身の運はなかったね。――グラニット、君も」

「……」

「まあ、そりゃあ、そんな光景、君が騎士隊に告げ口しに行って呼んできたようにしか見えなかったでしょう。ハルニス達と君とやり合って、時間を費やしてしまった彼女は、結局後から宿泊エリアに入ってきた私たちの気配に押し戻される形で後退するしかなかったんでしょうね」

 それで二人は廊下の奥で擬態の魔術を使って潜んで――どうにかしてやり過ごそうとしたのかもしれない。

 私に麻痺の術を使ってこなかったのは、私がグラニットのそれを破ったことをティルタが少女に教えていたとか、そんなところだろう。


「彼女もゾルフィータ盗賊団の一員なのですか?」

 麻痺の魔術を第一手に使うところはグラニットとそっくりだった。

 ティルタに師事した子供が一人だけだなんて、ティルタは一言も言っていなかったはずだ。

お読みいただきありがとうございます!


>次回は9/9(月)までの更新を予定しています。

9/29(日)まで再延期しますすみません‬…

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