13-22.竜人擬態少女を捕らえるのこと
ティルタが囚われていた地下留置場は、この宿泊施設の先にあった階段の行きつく先にあった。
「ティルタ。グラニットはどうしたんですか?」
部屋にいたはずのグラニット。
この廊下を通ったであろうハルニスとジャン。
いずれも気になるが、この場で彼女に問うべきはグラニットの行方だろう。
「あれは――あれと私は話してもいない! 本当だ! ――地下にはいなかっただろう!?」
「……」
私は沈黙する。脱獄犯の彼女に、我々がそれについて答える義理はない。
先頭に立つ私からは背後の三人の表情は窺えないが、ティルタと話している私を差し置いて口を挟もうという気配もない。
(交渉じみた真似を素人がするものじゃない。できればキアあたりにパスしたいくらいなんだけどなぁ)
貫かれた脛は痛くはない。焔の矢だったことが幸いしてか、傷は灼かれて、ヒトと偽るための血の一筋も噴き出ていない。
焔自体は、少女にエルドアン鋼の刃をつきつける前にそれで撫でて消してある。
落ち着いて話しかけよう。
犯人は追いつめるもんじゃない。
「……これはどうも、ティルタが首謀というわけでもなさそうですね。むしろこちらの竜人さんのせいで、放免になりそうだったグラニットの立場が脅かされる、まであるというもの」
「――ッ…」
ティルタの息を呑む様子は、ある意味わかりやすい。
私は人を見る目に自信があるわけではないし、彼女と関わったのは事情聴取の一度きり。だが、
「あなたが自らそんな真似を、今するとは私には思えない」
不意に、私の背後の温度が上がった気がした。
「おい、小娘」
響く。バリトンが腹に響く。ガラシモスだ。
この場で一番口を挟む理由がない男じゃないか。
「ミャーノがかけた温情を無碍にするのはさすがにお前の末期を穢すぞ」
「――ぐ……」
彼こそが本物の竜人だなどと少女が知る由もないが、少女は気圧されていた。
私には感知できなかったが、この時少女はさらに魔術を行使しようとしていたらしい。
「大人げないことを、ガラシモス……」
「私はお前がナメられるのが今も昔も気に喰わん」
ふん、と人型の鼻を鳴らした。そこに、キアが戸惑いつつ声を掛けてくる。
「……ミャーノ、彼女が? 俺は全くピンと来ていないんだが」
「否定はされませんでしたね。キア殿、拘束を。脱獄の現行犯です、問題はないでしょう?」
「あ、ああ。――発動」
彼は魔除けを動かした。魔術士二人を相手にするにあたって手札を躊躇する場面ではないのだろう。
今回の不審竜人騒動で、今何が発生しているか。または、どんな事態を発生させようとしたのか。
注目すべき点はそこだったのだ。
まず考えるべきは、竜人を装った点ではなく、被り物をどうやって劇団から窃取したかということでもなかった。
「王軍本部の人手を減らそうとしたのですね? そしてそれには、ただの不法入城犯では役不足だと」
「え、……そういうことかい!? そりゃあ確かに街中の捜索に普段の警邏よりは人員を増強したけれど――でも」
「そうですね。フランシスから聞きましたが、実際に割かれた人員は南大隊のみだとか」
しかし王軍本部自体は、南大隊が出払っているにもかかわらず、ザワついて――なんというか、そわそわしていた。
そこで意図を以ってグランタをじろりと見る。
睨むくらいのつもりで見たのに、その視線を受けてグランタはニコニコと笑顔で返してきた。このやろう。
「ここの警備を少しでも薄くして、ティルタを脱獄させようと思ったのでしょうが……」
キアが二人をお縄にしたのを見届けてから、既にノックをして中も目視で確認済みの四部屋以外の六部屋を乱暴に開けていく。もう礼など知ったことか。この騒ぎで反応がないならノックしようが一緒だ。
「! グラニット、ハルニス殿、――ジャンさんも!」
一番奥、留置場からすれば最も近い10号室の床に、三人が横たわっていた。
お読みいただきありがとうございます!
ちょっとここで一旦切っちゃう。
次回は8/26(月)までの更新を予定しています。




