13-20.主従、落ち合う
「え!? そんな、私も一緒に行くのだわ、そんなの!」
「えっ!?」
「まぁサラさんはそう言うと思ってたよ私は」
「えっ!?」
キア達の前で話せる経緯だけをさっと話したところ、普通に反論を喰らった。喰らっている私の状況を意外に感じたのは私だけのようで、キアがその場の関係者の気持ちをひとまとめに代弁したようだ。
なんだこの四面楚歌は。
「しかし、サラ。あなた今実技試験を終えたところでしょう。疲れているところに無理をしては」
「あら、平気よ。見くびってもらっちゃ困るのだわ」
そう言って拳を握って鼻息を吹かせている。
「戦う時とかと違って、常時防衛魔術の展開をしているとかではなかったもの。学校の試験と何も変わらないのだわ」
なるほど。確かに、交戦後独特の緊張緩和時の疲れの色は、彼女の顔からは感じられない。
「あなたを一人で放っておくほうが、私はよっぽど不安。何をどうしたら、たった数時間目を離しただけでガ…あの人といるのよ」
あっ、名前は言っちゃって大丈夫ですよ、サラ。
実は竜人でかつ影という正体を隠したまま、堂々と本名を名乗っているガラシモスを指す主人を「まあまあ」と宥める。
サラの指摘は正論でしかない。
「それに、狩りくらいならともかく、戦闘になる可能性がある以上、あなたは私の傍にいた方がいい」
「――……」
それも確かにそうなのだ。
アラナワ熊を担いで帰る際には、わずかだが疲れを感じていた。
「ヒェ、それホントかい?」
軽薄な調子の声が、我々の輪の外から投げ込まれる。
「あんなにぶっぱなしておいて、マジで全く疲れてないの? 爺さんから“バニーエティーエやばい”とは聞いていたけどよっぽどだよねえ」
「グランタ。そういえば貴方も受験生でしたね」
「『そういえば』ってヒドイ」
「は? ミャ、ミャーノ? えっと、彼と知り合いなのかい?」
試験会場に繋がっているとされている廊下の向こうから姿を現したのは、グランタだ。
なぜかキアが目を丸くしている。動揺もしているようだった。
「知り合いと言えば知り合いですが、知り合ってからまだ1日も経過していないですね」
「えーっ、友達でしょー」
「違います。タンジャンさんはどちらですか? お守役が目を離しちゃ公害なんですよ」
「そこまで言う!?」
「おお……あの人当たりのいいミャーノがこんなに刺々しいなんて……何をなさったんですか……?」
あれ。元々従者がついているくらいだからいいところの坊っちゃんなのは間違いないだろうとは思っていたけど、このキアの呼びかけ方は、尋常じゃなく“目上の年下に向けたもの”ではないか?
「ジャンいないの? ロビーで待機してるはずだったんだけど……」
「そうなのですか? ――ニコラス、タンジャン殿は?」
「さきほどハルニスさんがあちらにお連れしていました」
ニコラス、と呼ばれた受付係の青年は、先日私が連れ込まれた医務室や取調室のある本部内の廊下を指し示していた。
「ハルニス殿が? それはもしや……」
キアを見上げて問う。
「さっきのハルニスとの通信をタンジャン殿が聞いていたのかもね」
「――タンジャンさんは騎士なんですか?」
「うう~ん……」
「あ、答えにくいのであれば結構です」
「ミャーノは引き際が良すぎるよぉ……」
騎士団の上の方の人が個人情報をほいほい開示する性質じゃないことがわかっただけ、収穫はありましたとも。
「けっきょく俺は用無しなのかい?」
椅子に深く腰掛けて欠伸を噛み殺していたビラールが、痺れを切らして私に確認してきた。
「――いえ。フランシス、ビラールとサラに、ここでついていてください」
「えー。私も行くってば」
「本部からは出ません。キア殿、さすがにサラはあそこから先に入ってはダメでしょう?」
「そうだね」
苦笑いされている。私は入れることが前提みたいな言い方をしたからだろうか。
「では改めて自分に許可を」
まあ、この時点でタンジャンは王軍の騎士の関係者として差し支えない身分だと言っているようなものなんだよなあ。
「留置場と宿泊施設が同じ区域にあるというのは市民の心証的にどうなんでしょうね? 留置と同じなのでは?」
「騎士隊が人員不足なのは知っているだろう? 警備と警邏は兼ねたいんだよお」
「すみません、声に出ていましたか。――ところで」
まず医務室へ続くその廊下に踏み入ると、当然と言わんばかりに、グランタが50センチも離れずにぴったりとついてきていた。突然立ち止まりでもしたら踵でつま先を踏んでしまうだろう。そう、踵を上げて止まらないとこちらが踏まれてしまうので、立ち止まる時はちゃんと踵を少し浮かせておくことにしよう。
「こちらの方、逆にここに立ち入れない立場のお方なのでは?」
「それを察せているなら、俺がこのお方に物申せる立場じゃないこともわかってるでしょ……」
「さっさと戻ってきておかなかったジャンがいけないんだよ、大丈夫大丈夫」
「はぁ……ミャーノ、申し訳ないけど、万が一何かあったら、できるだけこの人守る立ち回りのしかたしてね」
社会的な立場がある人って大変だね……。
お読みいただきありがとうございます!
次回は8/1(木)までの更新を予定しています。
(もうちょっと早くできたらもちろんする)
夏コミが近いからちょっと間あけて失礼をします。