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13-18.使い魔、かばう

「なんと間の悪い」

 つい、口をついて出た。

 実はキアの今現れた通路の方が暗く、舞台袖の裏側に位置する私たちの立っている場所は足元に灯りがある。大道具係などが道具を持って()()するからだ。

 そのため、キアからは私の顔がはっきり見えたのだろう。

 向こうは呆れるような表情をしていた。

『まさか君がいるとは……』

 あれはそんな表情(かお)である。

「……上演中に失礼する。あなたが座長のオルハンさんですね? 」

「そうですが。騎士団が何故このようなところへ」

「現在、不法入城に関与している者を捜査しておりまして」

「不法入城?」

 オルハンは鸚鵡(おうむ)返しに口の中でその熟語を繰り返し、私に顔だけ向き直る。

 知り合って1時間も経っていないが、『そういう話か』と目で会話することができた気がした。

「ちょっと話を聞きたいのですが――」

「すみません。お待ちください、キア殿。座長名代(みょうだい)として、こちらのパサンがお伺いする予定を立てたところなのです。座長本人にはこのままカーテンコールまで上演の仕事を(まっと)うさせていただけませんか」

 キアが座長へ()()をするその前に、私は不躾な遮り方をした。

「ミャーノさん……」

 さすがに、キアと座長の間に物理的に割って入る真似はしていないが、パサンが私の左の前腕(ぜんわん)を掴んで引いた。相手は騎士隊長だぞ、無闇(むやみ)に逆らうのはやめた方がいい、そんな思いやりが伝わってくる。

「ジルダから報告受けた時点で君はそう読んだのかも、とは思ってはいたけれどね」

「私がここに紛れこんだこと自体は偶然です。あちらのフランシスが証言してくれます」

「ウワッやっぱり巻き込まれた」

「フランシス? ――え、フランシス? 何しているんだい?」

 あちら、と言いながら後方を指せば、キアはそれに律儀に釣られて見遣ってくれた。

「――申し訳ありません、キア筆頭百人隊長。もう間もなく幕が()ります。ミャーノさんのご提案で構わなければ何卒それにてお願いしたい」

「ふむ……わかりました。それでは――パサンさん? ミャーノも来てくれるんだろうね」

「参りますとも。元よりそのつもりでした」

 パサンは安堵したのか、私の腕をようやく解放する。


 自分たちが去った後のことについて、残り七点となった竜人の被り物の管理を厳重にするよう念を押すのを忘れたりはもちろんしない。我々は、私がパサンに連れてこられた裏口から出た。


「あの辺だよ」

 パサンが私を引きずり込んだ地点を指差して言えば、キアはフランシスに視線で確認を促す。

「確かにあの辺りだと思います。…ミャーノさん、その場で『団員じゃない』って誤解が解けてたんなら、何ですぐに戻してもらわなかったんですか……」

 陽の光が少し西日らしくなってきて、フランシス達は眩しそうに目を細めていた。瞼をぱっちり開いているのは、この場では私とガラシモスだけである。いかん、人外なのがバレる。ちょっと目を細める振りをした。

『だってあの女の人たちが怖かったんだもん』

 と正直には言わない。パサンは無論その配慮で私を放り出さなかったのだが。

「フランシス達にはご心配をおかけしまして」

「全然悪いと思ってなさそうなんですけど」

「まあまあ」

 そのまま濁した。

 私がなぜ舞台裏にいたのかという説明だけは、ここまでの道のりで済ませている。

「ともかく、もしこちらの劇団に共犯者がいたとしても、彼以外だと――私は思ってます」

「ミャーノさん!?」

 裏切られたような表情(かお)をパサンがしている。

「『ラスティーヌ』に犯人がいると申し上げているのではありません。それに、その点に関しては否定する方が自然だと考えますが」

「それはどういう理屈でだ?」

 ずっと黙ってついてきていたガラシモスが合いの手を挟んできた。

 キアは話の腰を折らないように「こいつは誰?」という疑問は呑みこんでいるようだが、胡乱な目つきはやや隠し切れていない。

「“竜人姿”は侵入する時に見せたかったガワなだけで、もうその目的は達しているわけでしょう?」

「ああ、なるほど」

 起承転結の承くらいまで話したところで、キアには合点がいったようだ。

 ガラシモスも得心顔で顎を撫でていたが、最後まで言えと黙ったままである。

 フランシスとパサンはまだ首を傾げていた。

「つまり、もし劇団員が持ち出していたなら、竜人役たちの出番が来る前に戻しておけば、紛失は発覚すらしなかっただろうということですね」

「――それなら」

 パサンが、『それなら、俺以外の疑いも晴れているじゃないか』と言いたそうだ。

「十分ではないのです、パサン。残念ですが」

「……?」

「仮に()()()()()と予定していた共犯者が舞台裏にいたとする。しかし、あなたが私を舞台裏に連れてきたという『ハプニング』があった」

「……あ」

「その時点で備品を戻すのを()めた、という“可能性”が出来てしまったんですよ」

「俺のせいか……!」

 パサンは額を押さえて俯いた。

 あんたのせいじゃないと言ってあげたかったが、そこまでパサンに肩入れしているということをキアやフランシスという騎士に見せるのはやめておいた方がいい、と何となくだが感じて、それは思い留まる。


「OK。これは今、この時点でパサンさんを劇団から隔離できたことが、――劇団構成員が全員無実だった場合は、だけど――騎士団、劇団のどちらにとっても幸運だったね」

「キア筆頭隊長?」

「彼を我々騎士団の証言者として採用できる。そういうことでいいよね、監察官(ケンソル)

「――そうですね。ミャーノさんと彼が合流したタイミングを考えれば、共犯者がいたとしても、パサンさんに何か工作をする隙はなかったでしょうから……」


 キーリスでは、裁判用の証拠や証人の承認みたいなのも監査官の管轄なんだろうか。

 仕事多すぎない? 大丈夫?

お読みいただきありがとうございます!

次回は7/2(火)までの更新を予定しています。

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