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13-16.使い魔、考察する

「パサン。昨日は竜人(ディノサウロイド)の被り物は人数分あったのですよね」

「ん? ああ、そりゃあ間違いない。全員舞台に出たからな」

 少女と歓談していた間、出番を終えた竜人役の役者たちの、()()を脱いで小道具さんに返却している様子が私の視界の(はし)には映っていた。

「明日以降も公演は続くのでしょう? 探さなくてよいので?」

 私の関心事はそこだった。パサンがここで舞台裏の壁を睨んでいる限り、私はそれに従って大人しくしていないといけない状態である。何とか行動を促したかった。

「もしよろしければ、微力ながら私もお手伝いいたしますよ」

「いいのか? 今日の公演が終わればアンタを外へ送ろうと思っていたんだが」

「構いません。まあ、夜には帰してほしいですが」

「それは勿論」

 パサンが少し笑う。冗談を言ったつもりではなかったが、少しでも気持ちが明るくなったのであれば本望だ。

「ここから移動などするのは問題ありませんか」

「大丈夫だ。……俺の出番はさっきの場面だけで、主な仕事は始まる前と終わった後だから」

 どうやら、チケットの()()()や客の誘導が彼のメイン業務であるらしい。


被り物(あれ)は開演中以外はどこにしまわれているのです?」

「いや、公演期間中、別に移動はしていない。舞台裏に置きっぱなしなんだ」

「先程のように、出番が終わったら脱いで箱に戻してそのまま、というわけですね」

「――紛失じゃなくて、盗難だと言いたいのかい?」

「可能性としては有り得ますよ。ああいえ、劇団の――『ラスティーヌ』の(かた)を疑っているわけでは全くございません」

 パサンの表情(かお)が険呑としたのを受けて、そこは強く否定しておいた。

「主役の(めん)を隠す、のであれば、疑心暗鬼の気持ちを持てば劇団内の方にも動機はあると考えることもできましょう。しかし、こう申しては失礼にも程があるのですが、その――」

 言いながら『やべ、この思考実験はパサンに対して無礼だわ』と思い至ってしまったので語尾を思わず濁す。

「俺たち竜人役は名無しの端役(はやく)だからな。モブの邪魔をしたところで――ってのは確かにそうだ」

 幸か不幸か、パサンはそういう機微に疎くはないようで、悟られてしまったが。

 怒りを買うことを一瞬覚悟したが、彼の器は小さくなかったようだ。

「でも、ここには関係者しか入れないんだぞ?」

「私のような抜け道もあるでしょうし、観客席と舞台裏も、空間としては繋がっているでしょう」

 登録者を伴わなくても、改札(もぎり)を行う入場口からは入れるのだ。

「たとえば閉幕後、席のどこか死角に潜んで観客席に留まり、舞台裏から劇団の人間がいなくなったところへ侵入することは可能なのでは?」

「……動機は? 竜人の被り物(マスク)なんぞ、それこそ主役の衣装と違って欲しがる観客がいるかい?」

「あれほどの物であれば、実用目的で必要とする身勝手なケースもあると思いますね。舞台の最前列で観賞しても、まるで本物に見えるのでは、という仕上がりだったではありませんか」

「その褒め言葉、後で作った奴に伝えとくぜ。凄腕の錬金術士なんだ」

「是非」


(竜人らしき姿の不審者が目撃された翌日、精巧な被り物が遺失していたことが判明。偶然で片づけるには……)


 無理があるんじゃないかね。


 一見した質感はラバーマスクの印象があったが、現存しているマスクを確認させてもらうと、その構造は張り子と言う方がより正しかった。ぐにゃぐにゃとはしておらず、しっかりと硬い。形状が固定されているのである。

「それにしても、実用目的って何だ? 祭の仮装にでも使うってのか?」

 そう問われて、ハロウィンみたいな祭を想像する。

 少し調子に乗って喋り過ぎたかな。先に()いておくか。

「つかぬことをうかがいますが、今日、王軍の騎士隊の者が来たりはしましたか?」

「え…? いや、俺が知る限りは……」

「そうですか」

「なんでそんなことを?」

「盗難被害に遭ったかもしれないことを、何らかの行政機関に申告しておいた方がいいかもしれません。座長はどなたですか?」

お読みいただきありがとうございます!

次回は6/16(日)までの更新を予定しています。

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