表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/169

2-5.クロスボウを買おう

 ロス君と私が居た堪れなくなり、アイコンタクトを経て、ミーネを促して詰所の外に出る。

「…ねぇ、ロス。あんた小母(おば)さんに呼ばれてたんじゃないの」

「そういえば…」

「あら、では私が弟の代わりにクロスボウ探しのお供をいたしますわ」

「よろしいのでしょうか?」

「もちろん!」

 私はロス君のほうを見遣って訊いているつもりだ。

「…たぶん大した用事じゃないだろうから、後から追いかけるよ。姉貴、ギデオンのところへ行くだろ?」

「ええ。あそこが一番種類あるものね」

「じゃあ、サラ、ミャーノさん、また後で。悪い」

「いいえ、お気遣いいたみいります」

 元々クロスボウ探しに付き合ってくれる話の流れではなかったところに、ミーネの乱入で方便に言ってしまっただけかもしれないのだが、律儀に付き合ってくれるようだ。

 それは単純にサラといる時間が欲しかったというだけではないと感じた。サラが評した「面倒見がよい」というのは、確かだろう。


 しかし、これはちょっと困ったな。私が予想し得る限りこういうモードの女の子って、相手の出身地とか学歴とか職歴とか、聞きたがるものだ。

 私自身は、本人から話を切りださない限りはそういう情報にはむしろ触れないようにしていたところがあったので、短い期間だが辛うじてお付き合いのあった男性達からは、逆に「あなたは僕のことに興味がないんですね」ともれなく振られている。

 私は相手がどんなものを好むのか、厭うのか、そういう、日々の暮らしにかかわることがまず知れればよかっただけだったのだ。

 しかし普通の人間は、誰かに興味を持った時、その略歴を知りたがるものなのだ。

 だから――困ったぞ。


 私が使い魔であることを秘するとき、出身地がどこか、これまで何をしていたのか、そういう「詐称」をサラと打ち合わせていない。

「サラのはとこで、現在は居候をしている」。これは略歴ではなく、単なる「現在の状況」でしかない。


 使い魔なら使い魔らしく、主人とテレパシーする能力とかないのだろうか。

 少なくとも今のところは覚醒していないようだ。


「ミャーノ様はこちらの街の方ではございませんよね?どちらからいらっしゃったのですか?何かの御用がおありでしたら、私がお力になれることもあるかもしれませんわ」

「私のこともミャーノで結構ですよ、ミーネ」

 サラに目配せする。矛盾が生じないように誤魔化そう。

「私は南の出身です。家族を流行り病で亡くして一人になってしまったので、遠い親戚であるベフルーズとサラを頼ってきました」

 家族を亡くした、と言えば、そう突っ込んではこないだろう。

 本当に亡くしているベフルーズやサラには、申し訳ないのだが…。

「私は多少剣を扱えはしますが、魔術は使えません。この機会に魔術についてお二人から何か学べればよいのですがね」

 さっき、ロス君は――ミャーノさん“も”魔術使えるんだろ?――そう言っていた。

 ということは、魔術を行使できるか否かは幾分か血筋の問題もあるのだろう。あるいは、後天的な教養に左右される可能性もあるとみた。

「――叔父さんは男手が増えるって喜んでいたわ」

 意図を汲んでくれた。サラは聡い子だ。

「そう…そうだったのですか。お仕事は決まっているのですか?」

 くそっ、やっぱりそこ訊かれるよね!

「いいえ。しかし以前は…」

 あんまり嘘で固めるとぼろが出てしまう。もう真実を混ぜよう。

「以前は、なんといいますか、事務方をしておりました。嗜好品をお客様に卸す際の管理役でしてね」

 音楽や画像の電子データを、ユーザーがダウンロードできるように、データベースの操作やサーバへのアップロードをしていただけですが。

「まあ、こんなにしっかり鍛えていらっしゃるのに!? ミャーノ様…いえ、ミャーノの処理能力はよほど優れているとみました」

 すみません、現代は本当に便利だったので、優れてなくてもできちゃってたんですよ。

 もちろんそんなことは付け足さず、曖昧にしておいた。

「フーン。ミャーノそういうお仕事してたんだ」

「昨日はお家にお邪魔してから、慌ただしかったですからね」

 サラには、仕事に関する回答は「本当のこと」だと伝わったようだ。


「あ、ここです。ミャーノ、こちらがギデオンさんのよろづ屋ですわ」

「相変わらず雑貨屋さんだねえー。…ねえミーネさん、なんでここ?」

「種類が多いとおっしゃってたと思いますが」

「ええ。ギデオンさんの娘さんがここ2年ほどクロスボウ作りにハマってしまわれてまして…クロスボウ修理用の部品も、クロスボウそのものも、オリジナルクロスボウなるものも揃っていることで最近定評があるのです」

 もはや道楽だな。採算はとれているのだろうか…。

「日ごとの客足にムラはあるようですけれど、『品質がよい』と口コミで他の地方から寄られる方もいらっしゃるそうですよ」

 顔に出ていましたか、失礼しました。

「ミーネじゃん。やせ薬ならないよ」

「こんにちは。アヤ、あなたの噂をしていたところですわ。ぶっ飛ばしますわよ」

 聞かなかったことにしよう。店番をしていた彼女がクロスボウの人か。

 ミーネが、長い亜麻色の髪に、裾が長いワンピースといういかにも女性らしい出で立ちなのに対し、こちらのアヤと呼ばれた彼女は濃い黒めの茶色のショートカットで、活発な印象のハーフパンツにロングブーツだった。しかし何より目を引いたのは、アヤの側頭部で存在を主張している、フサフサとした()()()()()()だ。

 垂れ耳うさぎのそれか、ダックスフントのような犬の垂れ耳か、どちらかといえばおそらくうさぎだろう。

 ワーッ!かわいい!!!!!!


「ごめんください。クロスボウを購入したいのですが」


 またもや、表情筋が仕事をしてくれるおかげで事案にならずに済んでいる。

ロップイヤーはホーランドロップからフレンチロップやイングリッシュロップを履修し

最終的に今ホーランドロップに落ち着いています。(僕が)


ブクマ5件ありがとうございます…!嬉しいです!!

評価やご感想などもお待ちしております。


2018/3/2:横書きWeb小説だしと思い文頭空白つけてなかったのですが、つけました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ