13-11.使い魔、紹介をする
「いらしたならば一言声をかけてくださればよろしいのに」
「それ監視にならないっすよね」
勘定を済ませて店を出ると、フランシスが勝手口側――おそらく――から回って出迎えてくれた。
まだ日も傾いていないのに、今日は既に何か気に食わないことでもあったのだろうか。なんだか憮然としている。
「監視? なんじゃそいつ。お前を見張っている奴がいたのか」
ガラシモスは、不躾にもフランシスをじろじろと頭のてっぺんから靴の先までチェックしているようだ。
あんたも似たようなもんだろうが、とは思いつつも、フランシスにしてみたら、私と関係しているトロユ者は、ブロシナさんのほうが重要だったようなので――確か昨日はブロシナさんの名前しか出なかったはずだ。ガラシモスは先ほど自称もしていたが、護衛の男くらいにしか思われていないのかもしれない――私は黙していた。
フランシスは仕事で私を追わされているのである。詳細を話してしまったりして、魔女シビュラに関する揉め事に巻き込むのは可哀想だろう。
そして――フランシスのことをガラシモスに教えてやる義理もまた、ない。
「ここで屯していてはお店のご迷惑です。そうですね――フランシス、西の広場は今混んでいたりはしませんかね?」
昨日アラナワ熊を担いで入ってきた西門の近くに、天使のような銅像が立っている広場があった。
改めて他の飲食店に入る気もしないし、ましてやアーク達のアパートや王立図書館なんぞに身を寄せるわけにもいかない。
そこそこ人がいそうで、密度は低そうな。そんな「外」の候補として浮かんだのが、その西の広場だ。
「さてと」
目的の広場に着くや否や、わざわざそう声をあげながら、私は花壇のヘリのレンガに腰をおろした。
個人的には行儀の良くない行動だと思うのだが、西の広場では、老若男女がそこかしこのレンガに座っている。郷に入っては郷に従って構わないだろうというのもまた、私の思考である。
ガラシモスとフランシスもそれに倣ってくれて、特に疑問を挟まれもせず、男三人横に並んで座りこんだ。
(別に私を挟んで座る必要はないんだけど)
どちらもぴったりくっついたりしているわけではないのだが、フランシスはともかく、ガラシモスは少し圧迫感がある。
(……まあ、日差しがちょうど遮られて暑くなくていいか)
ガラシモスの方を見る場合、ちょうど逆光になって彼の顔が暗く見える。
大きな影を享受しつつ、フランシスの方に顔を向けた。
「改めて紹介しますね。こちら知り合いのガラシモスさんです」
「ゆ・う・じ・ん、だ。よろしく」
舌打ちは胸中に留めておいた。
「ガラシモス、こちらは“友達”のフランシスです」
「いや……いやいいですけど。よろしくお願いします」
胡乱な目つきで友達を見るのはやめたまえよフランシス君。それ、「お前と別に友達じゃねーわ」って表情に見えるから良くないよ。
ガラシモスとフランシスは屈むように身を乗り出して、私の腹の前で握手をしていた。
それはそれぞれの私とのやりとりと違って特に含むところはなさそうに見える。
「南大隊では竜人に人手を割いているようですが、西大隊もそうなんですか?」
いきなり、ろくに何の但し置きもせずに私はフランシスに尋ねた。
「いいえ…侵入されたのは南門だったので。そのニュースは僕もさっき王軍本部で聞きました」
「侵入された後、南に限らずどのエリアに潜伏してるかわからないのに?」
「東西南北の名前が付いていると言っても、王都の管轄まではっきり境界があるわけじゃありません」
そういうものなのか。自分の社会的な常識では、大人は管轄区域で揉めるものだと思っていた。県警と警視庁が川や山の境界で揉めるとか、そういう話を浮かべていたのだ。
「南大隊が調査したいと言った時に、拒むような権限は他の隊にはないです。市民の家の中の確認とか、そういうのは市民自身が拒むことはありますけど…」
騎士隊相手に市民が強く拒めはしない、嫌な顔はするだろうけれども。フランシスが濁したのはそういう話だろう。
「じゃあ、西大隊のあなたが市内を回るのも管轄問題にはならないわけですね?」
「え? ……おい、いや、ちょっとまさか」
「大丈夫です、一人でやれなんて言いませんよ。それにこのガラシモスも無償でついてきます」
「ん? まあ私は構わんが。どうした、お前。急に不法入国者狩りに乗り気になったのか?」
「まあな」
この西の広場に来るまで三人はほぼ無言で歩いていたのだが、その間にひとつ、目に留まったものがあったのだ。
劇団の公演を宣伝する看板である。
演目のタイトルは、見間違いでなければ――『王女カトレヤと鈴蘭の騎士』とあった。
お読みいただきありがとうございます!
ちょっと短いですがキリが良いので。
続きは5/6(月)までの更新を予定しています。
令和最初の更新か〜〜!




