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13-1.サラの魔導士入団試験日・前編

「ルイスくーん、あーそーぼー」

「……しーごーとーちゅーうーだーよー」

「存外ノリいいですよね、あなた」

「ヒいてんじゃねえよ! あんた、自分で振っておいてそれはないんじゃないのか?!」


 翌朝。

 受け取った連絡に従って、私とサラは王軍本部にやってきた。正確には、サラのみが呼ばれているので、私は勝手にくっついてきただけである。王軍には、まだ呼び出してもらえていない。

 受付から奥へ向かうサラを玄関で見送って、さてどうしたものかと文字通り立ち往生していると、本当に偶然だと思うが、ルイスが出てきたのである。


 昨夜(ゆうべ)は結局、ジュイに茶をたかろう(迷惑をかけよう)としていたグランタを、ジャンと共に引きずるようにして宿へ戻った。

『あなた、明日試験でしょう』

『ミャーノ、俺の受験の心配してくれるの?』

 そんな会話を交わしながら。

 別にグランタが落第しようと私は一向に構わないが、それ以上に適切な理由もなかっただけだ。


「魔導士団の実技受験の見学とか、できるものならしたいのですけれど」

「ダメだと思うけどなあ」

「そうですよね。これは大人しくアーク達の引越し手伝いに行った方がいいか……」

「心配性な兄貴分だな。そういうのはお嬢さんには鬱陶しがられるぜ」


 兄貴分じゃなくて使い魔根性というだけなんだけども。


「実体験ですか?」

「おう職務中だから喧嘩は買わねえぞ。あいにく年の近い親戚はいないんでね」


(何だかんだ私の相手してくれてるけど、仕事には差し支えとかないのかな……?)


 私に呼び止められて業務妨害を喰らっているルイスは、出入り口近くの壁にもたれるようにして応対してくれている。

 私としてはもちろん話をしてくれるほうがありがたいわけで、それを特に口にするようなことはしなかった。


「ルイス、待たせた」

「おはようございます、リカルドさん」


 出入り口から、リカルドが顔をのぞかせる。

 私とルイスの挨拶が異口同音にかぶった。


「ああ、これは。おはよう、ミャーノ」

「昨日はお世話になりました」

「なに、仕事だからな。まあ、あんな仕事は初めてだったが」

「昨日何かあったんすか?」


 ルイスのきょとんとした問いに、私は苦く、リカルドはささやかに笑った。

 熊殺しの話は、もう引っ張らなくていいんだよ!



「私も騎士になって短くはないが、そういえば魔導士の試験の様子は見たことがないな」

「そんなものですか」

「大規模な討伐以外では、寮でくらいしか交流ないくらいだもんな」

 最後のはルイスの(げん)だ。

「ルイスのルームメイトは魔導士なのですか?」

「ああ。白の軍団のキャメルって奴だ」

朱雀(フェニックス)のルームメイトは白の軍団、とかはあるんですか?」

「そういうわけじゃないよ。それなら白・黒・赤・青の(うち)、赤の軍団と一緒じゃなきゃ変だろ」

 変だろ、と言われても。


(いや、まあそうか。魔導士団がその四色に分かれているのなら、朱雀に対応しているのは赤だな)

 なんでこんなヨーロッパ(ぜん)とした国で中華風(チャイニーズ)なイメージが通っているのかはわからないが、都子の記憶には四神(ししん)の対応色がその四色になることくらいは有った。


「一応バラけるように(はい)しはされてるはずだぞ」

「ではリカルドさんは?」

「私はもう寮から出ている」

「俺も早く結婚でもして寮出たいなあ」

 ということは、リカルドは妻帯者であったか。


「ミャーノ、なんとなく俺たちについて出てきちゃってるけどいいのか?」

 別になんとなくではない。

「ああ。いえいえ、連れが今日から部屋を借りるので、サラの付き添いができないならそちらを手伝わないといけませんので。ちょうどこっちなんですよ」

 警邏(けいら)に出るという彼らとは、すぐ別れた。


 リカルドには「道案内は要らないのかい?」と心配されてしまったが、大丈夫、大丈夫。


「来てくれたんですか、ミャーノさん!」

「まぁ……助かりますけれど、やはり付き添いはダメでしたのね」

「私の仕事は残っていますか?」


 アークとミーネとは、行きがけにアパートの前で別れていたので、さすがに方向音痴ぎみの私でも迷うことはなかった。


 ……本当は一回曲がる角を間違えたが、三歩進んですぐ間違いに気がついたから、ノーカウントだ。


「では、このダイニングの窓の(さん)とか拭いてもらえますか? 僕らだと少し上とか高くて」

「了解」


 二階にある彼女らの新居は、その部屋の扉を開けるとすぐダイニングになっていて、奥に二つ扉があった。

 二階に(のぼ)った時には玄関が開いていて助かった。他にも部屋の扉があった上に、表札があるわけでも部屋番号を聞いていたわけでもなかったので、閉められでもしていたら往生(おうじょう)するところであった。


 己の小さな幸運に喜びながら、借り受けた木桶を持って廊下に出る。

 共用の水道があって、このアパートの場合は廊下にその蛇口があるのだ。


 アークから雑巾(ぞうきん)として木桶と共に手渡された、まだ汚れが目立たない布巾(ふきん)を絞りながら、床と壁の境目を何となく見つめる。

 床は木で、壁は漆喰。

 そこまで冷え込む時間帯がある季節ではないが、床からの冷えはともかく、隙間風はそこまで深刻そうな様子ではない。


 上の枠をつっ、と(ぬぐ)うと、そこそこの埃が盛り上がる。

 前の住人が窓枠をきちんと掃除しない人間だったか、空き家になって長かったか。


 ちなみに汚くて恐縮だが、都子は前者だ。

 引っ越した際と引っ越す際くらいしか、能動的に窓を掃除しようとした覚えがなかった。ベランダも掃いたりしていない。

 普段汚れを嫌悪しなかったのかって?

 家は夜帰って寝る場所だったから、年に何回かしか窓を開けなかったし、汚れというのは近づかなければその存在に気がつけないものなのだ。

 さすがに、見てしまったら拭いていた記憶はある。


(アークは……間違いなくがっつり掃除しないと気が済まない人種だなあ)


 リズムよくてきぱきと清掃を進行する彼女を視界の内に収めながら、しみじみとそう思った。

あけましておめでとうございます!(活動報告からの二回目)


お読みいただきありがとうございます。

続きは1/20(日)までに更新していきたいです。


本年もよろしくお願いいたします。

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