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11-8.明日の予定

 蕎麦粉とわさびと麺つゆに思いを馳せながら、唐揚げ定食はクレソンまできっちり平らげて人心地がつくと、ミーネが一つ話題を提供してきた。

「明日、図書館で就職手続きを済ませ次第、家を借りるつもりなのですけれど。アークちゃん、よろしければ私の所に来ませんか? 住宅手当があると聞いておりますから、家賃も一、二割ご負担いただければ十分助かりますわ」

「えっ」

 かすかに戸惑いの色を滲ませた声を思わずといった(てい)で洩らしたのはアークだ。

「サラちゃんとミャーノは王軍に入れたなら寮に入ることになりますから、受験が終わるまではこのまま数日『カモシカ』に一時滞在されることになると思いますけれど、アークちゃんはどこかにお家を借りると仰ってたんですよ」

 ミーネが、先程まで別行動だったために話題についていけないであろう私のために軽く説明をしてくれた。

 ちなみに、『カモシカ』は宿の名前である。

「それにしてもミャーノ、まるでアークちゃんも王都に滞在するのが当然のように、ええとメンツユ? のお話をされてましたが、もしかしてご存知だったんですの?」

「ん、ええと?」

「あ、僕はミャーノさんとサラさんには言ってたんです。一緒に行動させてほしいって」

「ああ。ええ、そうですね」

 そういう話か。たしかにミーネやビラールからしてみたら、アークの前世が佐久(さく)(あきら)という少年であり、召喚前の私と擬似的な親子関係にあったなんて知らない話だから、アークの懐きようは不思議であろう。

 なにせ私自身も(あきら)を知らんのだ。

「い、いや、僕がミーネさんと二人暮らしはちょっと問題があるんじゃ……気がひけるというか……」

「なぜ?」

「そんなあ、ミャーノさん!」

 私に必死に援護を求めているように見えたが、別に良いのでは?

 個人的には、アーク一人で家を借りさせるより全然妙案だと思うんだが。

 そうとしか考えが及ばなかったので、「なぜ?」はミーネとほぼハモる形で訊いてしまっていた。

『ミャーノ』

 サラが肘でつついてくる。

『アークは女の子だけど、』

「…ああ、」

 そうだった。

 彼女が(あきら)であった頃が私の記憶に全く無いせいで失念していたが、そういえば19歳男子だった記憶がちゃんとあるんだったね。

「いや、それでもアークは女の子なんだから、ミーネの厚意に甘えた方がよろしい」

「……んー、そうか。そうね。私もミャーノとミーネさんに賛成するわ」

「うそでしょ、ミャーノさん、サラさん……」

「アークちゃん、私とルームシェアはそんなに嫌かしら」

「そ、そういうわけじゃないんですけど……」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()、三割負担にでもしたらどうだ」

 助け舟を出してやったつもりである。

「ああ、そういうことでしたの。ホッとしましたわ」

「わ…わかり…ました」

 アークが元青年だろうが、だからと言ってミーネに不埒な真似をするような精神性の人間だったとは思わなかった。

 それよりは、今の()()である15歳の少女の身の方が心配だ。

「なんか、ミャーノがアークさんのお父さんみたいだな」

 ビラールがそんなことを言って笑ったが、勘いいなこいつ。

 ああ、なにせお母さんだったらしいぞ。

「私とサラは今のところ、受験日の決定待ちというか、呼び出し待ちになりますかね」

「結局ミャーノもそうなの?」

「だと思うのですが」

 私が今日先ほどキア達に付き合った業務内容について詳しく触れるわけにいかなかったので(厳命はされてなかったけど、守秘義務は当然あるだろう)、サラやビラールに見解を伺うわけにもいかないのが困ったところだ。

 呼出(よびだし)機を持たされているということは、キア達騎士団が受験日決定以外の用で私を呼び出すことができるということである。

「はっきりとはわかんないわけだね」

 微妙に束縛された状態にもやもやした気持ちを抱いていると、ビラールがそう補足してくれた。

「ビラール。君は忙しいのだよな。というか、今日はそもそも大丈夫だったのか?」

「馬車を使う予定がなかったろ。そもそも明日到着予定のつもりでいたから、今夜まではこうしてて全然おっけーさ」

 つまり明日はおっけーじゃない、と?

 目で軽くそう問うと、通じたようだ。

「明日も、ミーネ嬢達の借家探しに付き合うくらいはできると思うよ。地域とか相場とかアドバイスできると思うけどどうかな。迷惑じゃなければ」

「あら、本当ですの? ぜひお願いしたいですわ」

「んじゃ決まりだね」

 明日は、ミーネの手続きが終わり次第、ビラールの鍛冶場を訪ねる段取りになった。


 ビラールは鍛冶場の近くに定宿(じょうやど)があり、我々とは宿泊が異なる。

 宿で一人部屋なのは初めてであった。

 逆に(?)サラとミーネとアークは、ミーネの手続きがうまく運べば、今晩が最後の女子三人部屋になるのか。

「独り()寂しい?」

「いや別に」

 宿まで送ってくれたビラールが茶化してきたが、今までだって独り寝は独り寝だろう。寝台が別だったら独り寝だよ。


 私は使い魔なので、休養の要不要を考えると、一人部屋をとるのがちょっと勿体ない気がしているだけである。

 私は貧乏性なのだ。


(何より、お(あし)の問題もある)


 部屋に入ると、荷ほどきをして、まず上着を衣紋掛けに広げる。

 次に広げたのは財布の中身だ。

 銀貨と銅貨を、私は数えることにした。

「あっ」

 サイドテーブルに貨幣を並べたところで、あることを唐突に思い出し、間抜けな独り言の声を出してしまう。

(キアから報酬(ギャラ)もらうの忘れてた……)

 しかし報酬をもぎとるためだけに受験日の知らせも待たずに王軍本部を(おとな)うのもちょっと。

 元日本人の気質なのかもしれないが、意地汚く思えてしまうのであった。

お読みいただきありがとうございます!


次回更新は来週8/16木曜日までに行う予定です。

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