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11-2.願書を出して

 願書を提出するのは城だと聞かされていたけれど、提出する窓口自体はこの王軍本部の受付でも問題ないらしい。

 他にも城下町の至る所に小さな行政センターのようなものがあり、市民の相談に乗ったりしているそうである。


「はい。ミャーノ・バニーアティーエ様はこちら、サーラー・バニーアティーエ様はこちらの魔動無線呼出(よびだし)機をお持ちください。紛失されると弁償になりますので、ご留意くださいね。こちら、もちろんハルカン市を出てしまうと受信できない場合がございますので、七日の間は市内で待機をお願いします」


 受付の男性に手渡されたのは、私は知ってる、これ「ポケベル」だ。

 最近はフードコートで渡される呼出機にも液晶画面が付いていたけど、それはフルカラーの高解像度液晶であることが多かった気がする。だからこの画面の白黒感は、まさに昔のポケベルだ。


「試験の日取りが決まりましたら、画面に日付が表示されます。お二人とも会場はこの王軍本部です。第一試験は実技ですので、動きやすい服装でお越しください」


 平服でお越しくださいとか、解釈で面倒が起こりそうなことは言われなくて良かった。


「ミャーノ・バニーアティーエ様は、使い慣れた刀剣があればそちらをお持ちください。規定に外れる武器をお持ちになられた場合でも、標準支給のロングソードを貸与いたしますよ。ご安心くださいませ」

「わかりました」

「以上でご説明は終了となります。ご質問はございますか?」


 私とサラが首を左右に一振りして「いいえ」と答えると、受付の男性は『よろしい』とばかりににっこりする。

 じゃあ宿を取りに行こうか、と受付を離れてこの本部を出ようとしたところで、私が呼び止められてしまった。


「ミャーノ君。良かった、まだいましたね」

「どうかされましたか、ハルニス殿」


 さっきのキアの『またね』ってこういうことじゃないだろ。


「ミャーノ、俺はアークさんとミーネ嬢と一緒に、ミャーノ達の分も含めて宿とってくるよ。校長の紹介宿はミーネ嬢がわかるかな?」

 ビラールが提案してくれる。後半はミーネに訊いていた。

「サラっちはどうする?」

「えっと」

 サラは、きょろりとハルニスと私の顔を見る。

「ハルニス殿、サラは同席しなくても問題ないでしょうか?」

「……ええ、そうですね。大丈夫です」

 即答するかと思ったら、何か含みがあったのが気にはなるが、言質はとった。構わないだろう。

「ビラール、サラも頼む」

「りょーかい。アタリつけてた宿以外になったら、ここの受付サンに報告しておくよ。俺はどっちみち宿とったあとで仕事にくるからね」

「ハルニス殿、よろしいでしょうか」

「我々の方は構いません。フランシス、頼めるか」

 ハルニスが少し声を張って呼びかけたのは、私とサラの願書を受け付けてくれた先程の男性だ。

「了解しました」

 2メートルも離れてなかったから、会話が筒抜けだったのか、急に話を振られたにもかかわらず、すんなり『委細承知した』という顔をしていた。事態の呑み込みの早い人だな。


(普通、まず疑問に思わないもんなのか? ハルニスのような準百人隊長相当の騎士が、今さっき願書を出したようなどこぞの馬の骨とそんな話をしていることについて)


 後日フランシスにそのことを尋ねたら、「バニーアティーエの噂はもう聞いていたし」とあっさり返されたのだが、この時の私は王軍本部の情報網の速度を知らないわけで、まさに知る(よし)もないのである。


「気をつけて頑張ってくださいね、ミャーノ」

「有難うございます、ミーネ。そちらもお気をつけて」


 ハルニスが呼びに来たのが何の話か依頼なのかわからないが、初めての王都を歩かないといけない女の子達の方がよっぽど、王軍の騎士様達と行動する私なんかより危うい気がした。

 私がついていてもそれは一緒だっただろうけど、頼んだぞビラール。お前だけが王都経験者だ。


「ではこちらへ」

「あ、はい」

 さっきグラニットを見送った奥の廊下へ促される。


 サラが同行しないことを選んだのは自分なんだけど、親しくはない人間と一人で行動するのは何だかんだ、シーリンに居た間に挑戦してみた単独行動の実験くらいだったことを思い出した私は、そっと心細くなるのであった。


 市民に対して開かれているロビーと違って、業務のための空間であろう廊下の先は少し薄暗くて冷たい感じがする。床はセメントでできていたが、旅の泥で汚れた私の靴が踏み入るのを躊躇わないで済む程度には土や砂がこびりついていた。

 水で流して掃除ができるようにするためなのか、ここの海抜における建造物の単なる仕様なのかは私にはわからないが、端には溝があった。


「ハルニスです。入ります」

 どうしてもきょろきょろしてしまいながら、無言でハルニスについてきていたのだが、目的地にはすぐに着いたようである。

『ああ、どうぞ』

 返ってきたキアの声に促されて入室すると、そこは想像していなかった部屋――


 寝台がいくつか等間隔で並び、その傍らには器具がある、そんな「病室」だった。

お読みいただきありがとうございます!

次の更新は木曜日くらいの予定ですが、次にまた番外編挟むかもしれません。


ネット小説に顕著な悩みなのかもですが描写する順番なかなか悩みますね!

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