10-15.キア達との合流
「ほうらハルニス、俺の勝ちだぞ」
「仕方がない、賭けは賭けですからね。開栓して一週間のブランデー小瓶でしたっけ?」
「違うだろ!? いやモノによってはそれの方が高いか…?!」
「人の顔を見て賭けとは穏やかではありませんね、ハルニス殿…」
「君がリカルド達と共に追いつく点についてはキアと同じだったのでご容赦を。早かったですね」
「え? 早かったと? 私としてはもう少し早く追いつく予定で――あ。あー、そうか」
「なんです?ミャーノ君」
苦笑いしながらルイスを見遣る。
それに随ってハルニスとキアもルイスを見る。
「あ、あの、筆頭隊ちょ…」
「別行動を許可してやったんだから、顛末は話してもらうぞ~」
ルイス達が本当に窮する事態に発展していたことを知らないキアは、ニヤニヤしながらルイスを揶揄った。
「キア殿、それよりも確認しておかなければならないことが」
助け舟というわけではないのだが、クラウも大事に至らなかったわけなので、今はそれよりも優先して当たらなければならない事があっただろう。
「ああ。本来リカルドの率いていた第三班と、さっき第四班と合流したところだよ。今のところエンカウントしてないね」
本命の野盗のことである。
「…遣いに出られた方は戻られる予定でしょうか」
見渡したが、キアの第一班から他の班へ使者として出た騎士の一人がいないようだったので。
「いや、そのまま随行するように言ってあったぞ」
ならいい。戻る予定だったなら遅すぎるからな。
「第四班と合流した時点であらためて遣いを出した。それには戻ってくるよう言っておいたよ」
私は控えめに頷く。
こちらの現状を第二班に知らせるというよりは、その時点での(そう、あくまで「その時点の」)第二班の無事を本体に共有してもらうのが目的の使者だろう。
王都寄りだった二つの班は、最初の遣いの時点では王都へ帰還するように命令されていたはずだから、無事ならとっくに王都へ着いているはずだ。
実はもう、遠目に街影は見えているのである。
街並みというよりは、街の壁がそびえているのが向こうに見えている。
あれが王都、ハルカン市なのだろう。
「やっぱり君、彼を保釈したか」
「ええ。グラニットです」
「……どうも」
グラニットは、私には幾分か憎まれ口を叩いていたように思うが、さすがに騎士団の筆頭百人隊長相手には畏まっていた。
「関係者だと思うか?」
グラニットを見たまま、グラニットではなく、キアは私に訊いていた。グラニットは、キアが王都への北上を続行した理由を知らなかった筈だ。何を訊かれているのかわからないと思う。息を呑んでいる様子が窺えた。
「彼に賊としての魔術の遣い方を仕込んだのは彼奴でしょうが、集団としての関係者ではないでしょう」
「旦那……?」
「存外はっきり言い切るね。 根拠は?」
「モスタンに引き渡してきた他の賊については何とも言えませんが、グラニットがあれらのグループに入ったのはごく最近のことでしょう。そして賊としての経歴も短そうなことを考えると、他の賊を抜けてあれらと一緒になったというのも考えづらいかな、と」
ふむ、とキアはグラニットから視線を外さない。
ごく最近のこと、と言い切った点にも一応根拠はある。
さっきルイス達に対して「身綺麗さと旅装がアンバランス」だと言ったが、グラニットにもそれが当てはまる。
多少の汗臭さと砂埃にまみれてはいたが、そこまで汚れてはいなかったのだ。
(連中の中には馬車に積むに当たって臭いや汚れがひどいのがいたから、サラが馬車をそれから保護する術を掛けていた。おかげで護送を完了した後も、馬車の中は悪臭がつくこともなく、快適な乗り物の矜持を保てている。)
「あの……?」
「グラニット。私が君をここまで連れてきたのは、面通しのためだとも言ったろう」
「……」
グラニットが「悪い人ではない」と言った魔術士は、賊に襲われる市民からすれば悪人であるし、王軍からしてみれば“行きずりでエルドアン鋼持ちの一般人をスカウトするほど”には厄介な咎人であるのだ。
グラニットもそれがわからないわけではないだろう。
彼は私とキア達の狙いを理解して、俯いて黙り込む。
「しかしキア殿、こう日が高くてはもう」
「……うん。もし斥候でもいたならなおのこと、俺たちが騎士隊なのはバレただろう」
こうなってはおそらく、いたとしても警戒して出てこない。
朱雀はとりあえずは王都へ戻るしかなかった。
お読みいただきありがとうございます!
なんだかサイト上での文章保存が失敗し続けてて辛い。キリがいいので短めですがここで。
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