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10-14.テストから出たまこと

「なっ、なんで」

 リカルドは「(ああ)」と唸っただけであったが、ルイスは気の毒なくらい狼狽(うろた)えて、足元に露出した小石に(つまず)いていた。

「『なんで』? 今の状況で私が、そうではないと否定できる要素を一つでいいので教えていただきたいですよ」

 別に厭味ではない。なので溜め息を添えたりしないし、煽るような眼差しにはならない。なってないはずだ。

「ミャーノ、ちなみにいつから気がついていた?」

「あなた方が朱雀(フェニックス)であることについてですか? 騎士団の方だろうなと思っただけで、朱雀かについては今言ってみただけですよ」

 リカルドの確認にはまずそう答えた。続ける。

「王軍の騎士だろうなと思ったのは、リカルドさんがサラの助力をあっさりお受けになられた時ですね」

「リカルドさぁーんっ」

 ルイスがリカルドのせいにしようとしてたので、ルイスに釘をさすことにした。

「確信に変わったのはルイスさんがリカルドさんの命令に『ロジャー』で応えてたからですけれど?」

「俺ぇーっ」

 そう、お前だよ。

「サラが()()なのをキア筆頭隊長かハルニスさんから聞いていたのではありませんか?」

「……その通り。君が片手半剣(バスタードソード)を持つ青年であることも聞いていたんだ」


「なぜキア筆頭隊長達と合流できておきながら、あそこにいらっしゃったのです? いえ、それはともかくとしても、騎士団の方であることを教えてくださればよろしかったのに」

 実のところ「何故か」について少し心当たりはあるのだ。だが、ちょっとそれを自分から言い出すのは()()気が引ける。

 今この時点でルイスすら気まずそうなのである。

「ルイス、君が言うべきだな」

「………ですよね…」

 私はあくまで気がついていないフリで、目を逸らしているルイスの顔を見つめた。


「……筆頭隊長が、『ミャーノ・バニーアティーエは無試験で入れてもいい逸材』とか言うから…さすがに贔屓が過ぎるだろうと思って、せめて俺が下士官代表で試そうと思って…ッ…隊長から託された任務中に、通りすがりの旅人が困ってたらどう判断するかとかで見ようと……」


 ルイスは、一息に自白する。


「……しかし、デスストーカーにクラウさんが傷つけられていたのも、解毒のために討たなければならなかったのもお芝居や設定ではなく事実だったではありませんか」


 彼らが隊と分かれてあそこにいた“動機”は推測できても、わからなかったのはそこなのだ。まさかとは思うけど――


「単に本当に魔物に遭遇してしまっただけなのだよ…」


 リカルドが引き取った。ルイスが顔を覆って黙ってしまったのを見兼ねたようだ。

 ええ……それクラウさんに後でめっちゃ謝っておいた方がいいよぉ……。


「……で、私の評価は結局のところ?」

「一緒の隊どころか、同じ班で(くつわ)を並べたいと思うよ。私はな」


 リカルドと、騎士でない魔導士のダニエラはおそらく、ルイスの付き添いであの地点に残ったのだろうと私は何となく感じていた。

 だから本当はこの場合ルイスからの評価について確認しなければ意味がないのだが、


「……頼むもう許してくれ…」

「ルイスさん、私達は別に何も被っておりませんから……」

 許すも何もないよ、ということにしておいてあげよう。


 なお、サラと引き合わせた時の反応で彼らの正体に思い当たったのは本当にそうなのだが、その前の時点で感じていた違和感の正体についてはデスストーカーの討伐が終わってからやっと気がついた。

 彼らは旅人にしては荷物がなさ過ぎたが、身なりは綺麗――清潔だったのだ。


 前者はもちろん、食糧なんかは彼らの班の馬車にほとんど預けているから(ちなみに、キアの班がこの馬車に積んでいた食糧などは、三分の二ほどを彼ら自身の徒歩(かち)で持ち出している)。

 後者は、衣食住に余裕がある生活ゆえだろう。王軍は収入や福利厚生が充実していると聞いているので。


 さて、シーリンの街で見ていた人々が身綺麗じゃなかったのかといえば、そんなことは全くない。

 モスタンの街を通過した今だからわかるが、シーリンは文化レベルが低くなかったのだ。どうやら水源が豊かだったことが大きくて、バニーアティーエ邸のようにシャワーが使えるほどではないにしても、二日に一回はシャンプーを使用しての洗髪を行うのが常識であったらしい。

 私の知っている日本でさえ、高度成長期前は一週間に一回洗髪するのすら()()という認識であったのを思うと、この衛生観念の在り方はすごいと思う。

 話が逸れたが、モスタンは王都へ直通の街道がある街だけあって、他のルートを通ってきた旅行者達も宿泊していた。我々が利用した温泉施設にはこんな貼り紙があったのだ。

『一定以上の汚れが蓄積されている方はお声がけさせていただくことがあります』――

 この貼り紙の真意についてアークにこっそり聞いてみたところ、一瞬きょとんとして、私の顔をじっと見た(あと)彼女は納得していた。「大強襲以前の記憶しかないんじゃそうか…」という独り言の(のち)、「ミャーノさんにはピンとこないのかもしれないですけど、長いことお風呂を使ってない人間には、ちょっと身体流すくらいじゃ取れない汚れやニオイがこびりつくもんなんですよ」と諭されてしまったのであった。

 確認しなかったけど、その大強襲の後に私達の身体はそういう状態に陥ったことがあるということなんだろうか……ウッ、想像しただけで頭が痒い。


 とにかくそんなわけで、リカルド達はある程度衛生的な文化の(もと)で生活しているであろう人間だとわかったのである。

 なのに糧食がないのは不自然だと、私の直感が読んだのだろう。


 二時間ほど馬車を進めたところで、私たちは無事にキア達と合流することができたのであった。

お読みいただきありがとうございます!


次回更新は日曜日の予定です。

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