1-1.プロローグ
女性のぼやきでたまに聞くことがないだろうか。
「ああ、男に生まれていたかった」という類のぼやきだ。
男性からも「生まれ変わったら今度は女に生まれたい」という声を聞くことはある。
男女関係なく、
人生を小学生からやり直したいとか、
親を選んで生まれたいとか。そういう益体もないことを言う人も見かける。
私は「1分巻き戻したい」と思うことはしょっちゅうあるけれど、
十数年も遡って学生時代をやり直したいとか
生まれる前に戻りたいとか、そういう望みは持った記憶がない。
性別も、女性特有の周期的な痛みが生じたりとかそういう期間は「性」自体に文句を言いたい気持ちはあるけれど、だからといって男性になりたいというわけではないのだ。
だって、男であったところで男性特有の身体的な悩みがあるのは知識としてはちゃんと知っていたし。自分の属している21世紀の日本の社会では、女性の身体的な悩みよりも男性の身体的な悩みのほうが後ろめたいものの扱いをされている印象があるし(※個人の偏見です)。
自分の育った家庭に不満がなかったわけではないし、小学生時代から大学生時代に至るまで消したい黒歴史はあるし、ああしておけばよかったとか、こうしておけばよかったとか、そんな思いは山ほど抱えているけれど、
じゃあこれまでをなかったことにして別の設定で人生をやり直したいかと問われたら、
そんな面倒なことはしたくない、と思っていた。
ましてや、自分の知らない異世界でなど!
「あ、あ・あ…?」
頭蓋を伝わって響く自分の声質に凄まじい違和感があり、喉元に手をやる。
喉の皮膚に触れる手はごつごつしていて、また、その手に触れる喉に……出来物がある?
いいや、これは「のどぼとけ」だ!
なんで、喉仏が私にあるの!?
「だ――大丈夫?言葉わかるかしら…ハロー、アロー、ニーハオ?」
「――言葉…?大丈夫です…けど」
霞んでいた視界は段々と晴れ、そこには心配そうに覗き込む少女の顔があった。
自分にはあまり馴染みのなかった翡翠色の瞳に、そばかすが浮き出るほどの白い肌。
紅葉のような赤い髪は豊かで、ゆるく二つに分けて結われていた。
まじまじと見つめると、そばかすも朱に染まっていき、小さめの唇が抗議の声を絞り出す。
「ちょっと、無遠慮にマスターの顔見てんじゃないわよ」
「すみません……」
典型的な日本人なので反射的に謝ってしまったが、マスターって誰だ?ここは喫茶店でこの子が店長とか…?
いやそんな流れじゃないな、と周りに目を向ける。
自分は今、四方を石壁に囲まれた蔵のような場所にうずくまっていて――そんなことより、とんでもないことに気がついた。
私 裸 だ。
自分の身体を見下ろして見えた下半身には、とんでもないモノがぶらさがっていた。
続きは早めに。よろしくお願いします。
2018/3/2:横書きWeb小説だしと思い文頭空白つけてなかったのですが、つけました。