困り顔
-いつだって貴方はそう-
「はい、お疲れ様。今日も頑張ったね。」
いつも通りの優しい顔で私に微笑む貴方。
夕日が照り付ける赤と、初夏のにおいがふわりと香って、心地よい空間に微睡みそうになる。
昔から優しく微笑んでくれる、その顔に私は未だにドキッとしてしまう。
でもいつからだろう…私は貴方のその「笑顔」を
困らせたくなっちゃったの。
「僕が見ている分には、家庭教師なんていらないぐらい理解できていると思うのだけど」
当たり前じゃない。
普通に授業聞いていれば、分かるもの。
テストで悪い点数を取ったなんて嘘。
数学が苦手なんて嘘。
貴方のことを、近所のお兄ちゃんなんて思っていることも、嘘。
ねぇ、貴方が知らない私を見せたらどんな顔するかな?
いたずらな顔をしながら、貴方の顔に手を伸ばす。
「眼鏡、最近かけてるよね。」
「あぁ、なんかめっきり視力が落ちてしまって。大学だと教室も大きくて黒板までが遠いからさ。」
貴方が見えている世界に少しでも近づきたい。
そんな気持ちから覗いてみたけれど…。
「…ぼやける。」
「そりゃそうだよ、僕の目に合わせて作られているんだから。」
「どんな風にみえるのかなって、気になったの。」
「あはは、子どもみたいだなぁ。」
-眩む世界-
いいじゃない、私には何も見えないんだから。
そこには目を見開いた貴方がいて、思わずクスッと笑ってしまった。
同時に悲しくなる気持ちに心が痛んだ。
「えっ…。」
驚いた表情。笑わない顔も素敵だな、なんて考えていたら一瞬で痛みは消え去った。
「好き」
貴方はどんな表情を見せてくれるのかな。
思わず口角があがる。
若いからこそ許されたことってたくさんありますよね。
子どもらしい「試し行動」や早く大人に近づきたいような、そのもどかしさ。
あとさき考えずに生きていたあの頃に戻りたいです。