戦闘機、帰還。
髪飾りで、ふたつにわけた髪を結ぶ。
戦闘機の防護ヘルメットは頭の形ぴったりで、髪を結びたくてもできないから。
操縦士のスーツをハンガーにかけ、軍服に着替える。
水不足のせいでなかなか洗えず、清潔とは言い難いけれど。
更衣室を出ると、司令官室へ。
前司令官は、ゾルベタール国軍との戦いの劣勢のなか、革命軍が生き延びるためにアルファ・ゾイズに亡命することを決めた。
葬王星からの亡命時、彼は全部隊のしんがりを務め、宇宙で散った、綺羅星みたく。
いまの司令官はその友人。
ソフェレティア・グランモール。
白髪の十二歳。
正直、前司令官がこんな少年を次の頭領に指名したときは驚いた。
だが、彼のリーダーシップと頭のよさはまもなく軍内に知れ渡り、皆が彼に従った。
「失礼します」
「ミカリア大尉」
「はい」
亡命時は少尉だったあたしの階級も、前任者が次々戦闘で亡くなり、いまは大尉。
「ミカリアは十字架の上で死に、三日後よみがえった神を信じますか?」
「いきなりですか」
「あなたが教会に通っていたことは事実でしょう」
「…………忘れました」
「もし神がいるなら祈ってくれませんか」
「神はあたしの祈りなど聞き入れませんよ」
「なぜ?」
「あたしは神を捨てました。生きるために人を数え切れないくらい殺した」
「洗礼は受けましたか」
「受けたけど、神から離れて長すぎて、覚えていません」
「そうですか」
「なぜ聞くのです? この世の神などまやかしです。綺麗すぎて、汚れた私などが近付いていい方ではない、
いや『方』なんて人を呼ぶように言うことすら恐れ多い」
「ミカリア、次の葬王星会議が明後日行われることは知っているでしょう」
「はい」
「ゾルベタール軍の不正を会議に伝えてください」
「私……ですか?」
「パイロットはもう数える程しかいません。…………革命の息をつなげてください」
「なぜ私に……」
司令官は目を伏せる。
「誰かがやらねばならぬことです」
司令官は目を上げた。
「ミカリアにお願いしたいのです」
「命令ならば」
「作戦はあとで伝えます。夕食後に来てください」
「わかりました」