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帝国最強のやり直し人生  作者: ちーさん
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第1話「終焉」

始めましてちーさんです。

宜しくお願いします(*´▽`*)

 斬る。斬る。斬る。斬る―――。

 つい最近までは味方であった人間を一切の情もなく、ただ敵として切り捨てる。


「雑魚が、俺を殺すだと?」


「ひぃいいいい!やめ―――」


「俺の命を狙っておきながら、生きて逃げられると思うなよ。教えただろう。殺す時は殺される覚悟を持てと」


 血と肉で散乱した城内で、狂気に充てられた者たちが逃げ惑う。

 が、目につくものすべてを切り殺す。

 既に200人近い部下だったものを殺したか。


「龍殺しを成し遂げた俺が裏切り者だと?俺が国王を殺しただと?」


「何故、何故誰も俺を信じようとしない!」


 ―――グラム帝国。

 国王の選任により選ばれた12人の騎士。

 12騎士それぞれに城と部下が与えられた。

 その騎士一人一人が一騎当千の力を持ち、弱肉強食の名のもとに君臨し、民からは誉れ高き帝国の象徴として見られ、部下からは最強の象徴と憧れの目で見られていた。


 その中でも歴代最強と謳われた俺が。

 帝国最強と謳われたこの俺が。

 龍殺しまで成し遂げたこの俺が。


 ようやく。ようやくだ。悲願でもある騎士王。

 王に次ぐ最高の称号、騎士王の称号を手に入れるまであと一歩という所まで上り詰めたというのに―――。


「……されるわけがない……」


 帝国12騎士の一人、このラグナ・ローレライが、国王殺しにより、命を狙われるなど。


「許されるわけがない……!」


 憤怒の表情を隠すまでもなく、男も女も関係なく切り殺す。

 情はあったはずだ。

 思い出もあったはずだ。

 笑顔で酒を飲みあったものもいた。

 それらすべてを切り殺す。もはや斬りかかってきた部下一人を切り殺した時点で、後戻りはできなかった。


「カロルウウウウウウウウ!」


 呪詛と共に出た言葉の先には、俺が最も信頼した部下。

 俺を国王殺しに仕立て上げた張本人―――カロル・クリーシャが無表情で玉座に腰を下ろしていた。


 艶やかな金色の髪。まるで宝玉のように輝く金色の眼。

 この世の男の理想を体現したかのような黄金比の顔に体。

 俺の右腕、懐刀。泣き言を言ったこともあった。

 共に夢を語り合い、時に喧嘩し、体を何度も重ねた関係でもあった。

 そんな女が―――グラム帝国と呼ばれる所以―――魔剣グラムを持ち、悠然と佇んでいた。


「何故俺を裏切った?」


「……」


「何故俺が殺したと広めた?」


「……」


 一瞬の間も無く斬りかかるカロルの剣を受け止める。

 右に、左に、下から上に、すべての剣戟を弾き、受け止める。

 受け止めた視線の先のカロルからは一欠けらの感情すら読み取れず、距離をとるために力まかせに吹き飛ばす。


 吹き飛ばしたそばからグラムにより強化された『サンダースピア』が降り注ぐ。

 連続して放たれる数は優に10を超える。

 それらすべてを天井に、壁に、地面に、縦横無尽に駆け巡り回避する。

 帝国でもトップクラスに君臨する魔導士でもここまで連続して撃てるものはそういない。

 恐れるべきは魔剣グラムかそれともカロル自身か。


「何故俺を裏切れる?何故俺を殺そうとする?何故何故何故何故―――!」


「君が国王を殺したからだよ」


「ふぅざけるなっ!」


 今度はこちらから斬りかかり、攻めの姿勢に入る。

 殺さない。と言う考えはない。ただ斬る。斬って話を聞く。その為に斬りかかる。

 毎日剣を交えた関係であり、俺の弟子でもあった彼女は、俺の剣を予測し、回避する。


「あの夜俺とお前は一緒にいた!それが何故、いつの間にか国王を殺したことになっている?何故それを誰もが信用し、俺を信用しない!?」 


「フフフフフフ――――。いいなぁその顔。何度も見たいと思っていたよ」


「な、なにを言って」


 唐突に笑い出したカロルの顔は、今までの無表情から一転、喜色に飛んだ表情に変わり、こちらを見ていた。

 なんだこいつは、そう俺が思うのも仕方のない事だった。

 10年間は一緒にいた。その間、こんな表情は一度たりとも見たことはなかった。

 始めてキスをした時も、体を重ねたときも、こんな、こんな嬉しそうな顔をしたことはなかった。


「そろそろネタ晴らししちゃってもいいかな。うん。君は国王を殺しちゃいないよ」


「―――なに?」


「国王殺したの―――僕だから」


「な、なにを……」


「でも、騎士団長みんなが僕の言う事信じてくれるとは思わなかったな。人徳って大事だね」


「なにを言っているんだ……!」


「あはっ♡いいね!その顔すごくいい!ようやく君に愛着がわいてきたよ。うんうん。たまらないね!僕ね、ずーーーっと待ってたんだ。長かったなぁ」


「好きでもない相手と年がら年中一緒にいて、殺したくてたまらない相手と毎日剣を交えて、憎らしくて憎らしくてたまらない相手と体を交えて。知ってる?君とキスした後は30回はうがいをしてたんだよ?」


「なんで、そんな……」


 カロルの言っていることが理解できない。そんなはずはない。

 あの笑顔が、あの泣いた顔が、あの怒った顔が嘘だったわけがない。

 しかしそれを、目の前のカロルがすべて否定する。


「なんでだと思う?」


「分かるわけ、ないだろう!」


 再び剣と剣でがぶつかり合う。

 動揺した程度で弱くなる。そんなやわな鍛え方はしていない。

 剣は体が覚えている。

 思考など関係なく、敵を攻撃する。


「でも、そろそろクライマックスかな」


 コフッっと咳をしたカロルの手には血の塊が吐き出されていた。


「カロル!剣を捨てろ!お前に扱える代物じゃない!」


「あははははははは、この状態で僕を心配するんだ?本当に、妬ましいね。君は!」


 魔剣グラム。

 国王の愛剣だった剣。

 振るうたびに魔力を消費し、先の戦争の際、国王が振るった際には100の軍勢を一振りで燃やし尽くしたとまで言われる。帝国の象徴とまでなった魔剣。

 年を取り、十全に力を引き出せなくなった国王は、王の間に封印し、使えなくしたはずだ。 

 どうやって持ち出したのかは知らないが、引き抜いたものに対し、通常では考えられない力を付加し、戦う力を与える。

 だがそれは強靭な肉体と魔力を持って初めて扱える代物だ。


「どうしてそこまでする?俺がお前に何をした?」


「分からないかな?分からないよね?君は殺したものを見ようとしないからね」


「当たり前だ!今まで何人殺してきたと思っている!」


「だからだよ。僕の兄と姉を殺した張本人さん。ずっとずっとずっとずっとずーーーーと。待っていた。気が狂いそうになるくらい。本心を隠して復讐の機会を狙ってたんだ」


 まるで劇が始まるかのように両手を広げ、カロルが語りだす。


「思い出してごらんよ?僕は一日たりとも忘れたことはなかったよ」


 カロルと出会ったのは10年前。

 まだ騎士団に入団して間もない頃、盗賊団に襲われた村に派遣された時だった。

 村は見るも無残な状態に陥っていた。

 家は焼け、男の死体が散乱し、女は盗賊団に連れ去られていた。


 たまたま川に魚を釣りに行っていたカロルは、盗賊団に出くわすこともなく、ただ村の隅っこでわんわんと泣いていた。


 盗賊団が数人村に残っていたため、数人がカロルを守り、俺と他数人が当時の上官の命令ですべて殺しつくした。


「うん。僕の兄もその時殺したね」


「馬鹿な!俺は盗賊団しか殺していない!」


「君は盗賊団の恰好したもの全てを切り殺したね。盗賊を殺すために、殺した盗賊の服を着こんだ兄も」


「そんな……はずは」


「兄の次は姉を殺したね」


 村でカロルを保護し、そのまま盗賊団の奇跡を追い、アジトを突き止め、襲撃した。

 所詮は盗賊で、訓練された騎士団に敵うわけもなく、一方的に追い詰め、あと少しで殲滅とまでなったときに起こった。

 やけに戦闘慣れしていない仮面を被った女の盗賊数人がアジトから姿を現した。


 子供のように剣を振りかぶって斬りかかってくる姿は、あまりにも素人過ぎて、切り殺す必要も感じえなかったが、不自然さに違和感を覚えた上官の命令は殲滅だった。

 全ての敵を切り殺し、アジトからうまく逃げだそうとしていた盗賊の一味も騎士団の別動隊が全て殺しつくした。


「うん。顔を焼かれ、仮面をつけられ、人質を取られ、涙を流しながら仕方がなく斬りかかった姉を殺したね」


「……」


 カロルの言っている言葉が分かってしまう。

 敵として殺したはずの者たちが、兄と姉だったと。

 当時不自然だと思ったことはあった。だが、後処理をしたのは俺より階級の下の人間たちで、そんな報告も上がってこなかったため、すぐに記憶の中からなくなり、忘れていった。


「その顔、心当たりがあるみたいだね。そうだよね!うんうん。それじゃ、話し合いもこれで終了で。死んでくれると嬉しいな!」


「冗談じゃない!なら、なぜその時言わなかった!なぜ今復讐する!」


「嫌だなぁ。そんなの君のその表情が見たかったからに決まってるじゃないですか?信頼してた部下が死んだとき僕に泣いて寄りかかってきたときがありましたね。その時以上に!最高に!情けない顔をしてますよ!」


 喜劇の主人公のようにお腹を抱えて笑うカロルに、いつもの優しい笑顔の面影もなく、ただ混乱した頭でそれを眺める。


「言いたいことはわかった。だが、それを謝ろうとは思わない。正確な選択肢など無く、あの場ではその選択は誤りではなかった」


「そうだね。一歩間違えば仲間が死ぬ可能性もあった。騎士団で経験を積んだから分かるよ。その選択は間違いじゃなかったって。だけど!それは感情が否定するんですよ!」


「そうか……」


「ええ……」


「だから」「なら」


「「死ね」」


 今までと違い、全力で体を強化し、握る剣に力を籠める。

 吹き出る魔力は可視化し、薄っすらと体を黒に染める。

 カロルも全力で魔力を放出し、それを魔剣グラムが強化する。

 剣と剣がぶつかる。


 離れたそばから中級魔法の連射。

 『サンダースピア』は当たれば動きが鈍る以上、すべてを避けるか相殺するかしなければならない。

 持久戦に持ち込めばいずれは勝てるだろう。

 だが、それはしてはいけないと心が否定する。


 壁を蹴り、横から切り込むカロルを躱し、上段から斬りかかる。

 カロルは剣を縦に構え、ぎりぎりで受け流す。

 上から、下から。

 斬と斬。突と突による応酬。


 魔剣グラムにより強化されたカロルの身体能力は既に俺と同等。

 一度でも引いた方が負ける。

 一振り一振りがすべてが全力で、瞬きをする間も無く互いに剣を交える。


「くっ」


 魔剣グラムの負荷により、一瞬動きが鈍ったカロルに対し、一気に猛攻を仕掛ける。

 帝国最強とまで言われた俺の剣戟は、すべてが必殺。

 故に、自身の剣技を出す隙も与えずひたすら受けに徹っさせる。

 受けに回ったが最後、責めることはかなわず、いずれ切り殺される。


 終焉は早かった。

 断続的なカロルの吐血により、戦闘続行は不可能になり、隙をついて魔剣グラムを手から弾き飛ばした。


「ごふっ、ごはっ」


「……カロル。もうやめよう。昔のように戻れるとは言わない。だが」


「ごはっ。はぁはぁ、もう、遅いよ」


 それは一目見て分かった。

 全力を超えて魔力を引き出した代償。

 顔は蒼白で、生きて意識を保っていること自体が奇跡と言えた。


 何故カロルが狂気に走ってしまったかを理解してしまった以上、敵として見ることはできず、最後を看取ろうと横に座り、カロルの手を取った。


「あはっ。まだ僕を君の女としてでも見てるのかな?」


「そんなんじゃない。だが、こうしたいんだ」


「そっかぁ」


 ゆっくりと不細工に涙を流すカロルの顔に手を添え、涙を拭きとる。


「どうして、こう、なったかなぁ」


「ここまでやったお前が言うか」


「あははっ、そうだね。君は強いね。さすが帝国最強だよ。魔剣グラムでも全然歯が立たないんだもん」


 そう言って笑うカロルは、いつものカロルで、どうしようもない喪失感に襲われた。

 騎士団長になってからは一度も泣いたことがないというのに、涙腺から涙があふれてくるのが分かる。


「あ、ぼやけてきた。……君がさ、もっとはやく助けに来てくれたらよかったのにな。そしたらきっと、君の横に立てた」


「カロル……」


「ほんとおに、ほんとうは、君が好きだったよ。因みに、キスした後うがいしてたのは本当。だけど最初の方だけだけだったかな?途中からうがいはしなくなった。好きになっちゃったんだよ。だけど同じくらい憎かった。どうしようもなかった。ほんと馬鹿な女だよね」


「俺もお前が、好きだったっ!愛していたんだ!」


「じゃあ、……結婚の申し込みはやくしとけよ。ばか」


 ゆっくりと瞳を閉じ、生気がなくなっていくカロルに、成すすべはなかった。

 限界を超えた魔力の酷使はポーションでも回復はかなわない。


「ごめんね。好きだよ……」


「カロル……!」


 ゆっくりと息を引き取ったカロルを強く抱きしめ、後悔に焦がれる。

 既に涙は目からこぼれ、カロルの顔を濡らしていく。


「本心を最後に言うなよ」


「最初に言えよ!」


「そうすれば、もっと、もっと!やりようはあったのに!」


 考えがまとまらず、ただカロルとの思い出を振り返り、カロルに語り掛けた。

 あの時は笑ったな。あの時は喧嘩したな。初めてのキスはレモンの味がしたなど。

 ―――だが、語りの時間もすぐに終わった。

 12騎士団の1人が俺を殺しに来たのだろう。魔力の塊が近づいてくるのが分かる。


 戦って勝てるだろうか。さすがに魔力を使いすぎた。

 12騎士の1人は既に殺し、敵対した部下はすべて切り殺した。

 彼らにも家族がいて、国王殺しと関係なく、俺を恨むだろう。悪かったとは言わない。

 命を狙ってきた以上、手加減は出来ない。


「そもそもカロル一人でここまでの扇動ができるのか?カロル程ではないとはいえ、副官クラスもすべてに裏切られたんだぞ…」


 恐らく、どこかの騎士団の知恵入れがあるはずだ。

 ならばそいつが居なけれれば、カロルを行動を起こさずにいたに違いない。

 そいつを突き止めて殺すか…?

 だがそれをすれば、カロルが国王殺しの名で呼ばれる可能性もある。それは駄目だ。

 殺したかどうかはもう関係なく、死してなお俺の女が悪く言われるの駄目だ。

 死してより、俺の中のカロルの存在が大きくなってしまったようだ。


「他の奴に殺されるより…カロル……嬉しいかどうかわからないが、俺を殺したのはカロルだったよ」


 弾き飛ばした魔剣グラムを拾い、カロルに持たせ、ゆっくりとカロルを立たせる。

 互いの涙の後を拭き、最後に触れ合うだけのキスをする。


「血の味しかしないな……眠ってる相手にキスって卑怯か。だけど、帝国最強の命だ。これでおあいこにしてくれよ」


 魔剣グラムを俺の心臓のある場所に突き立てていく。


 帝国最強の終わりが、手の込んだ自殺か。

 痛みを覚えながら血が噴き出し、意識が飛んでいく。


「ばいばい、カロル」


 ―――それは駄目だな。


 消えゆく意識の中、そんな声が聞こえた気がした。

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