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少年

作者: VISIA
掲載日:2016/10/16

なろう企画“ 夏ホラー2016 ”の、ハイムに住む人達の設定に基づいています。


改めて公式の設定を御一読しますと、より楽しめて頂けるのではないかと思います。

────9月17日、曇り時々雨。


 やや肌寒い土曜日の静かな朝、少年(5)は夢の中で、凶悪な長い鈍器を振り回す女の子と鬼ごっこをしていた。


 歯を食いしばり全力で逃げる少年だが、歩幅5mの女の子を振り切ることは絶望的で、本能的に路地裏に逃げ込んだものの、道が行き止まりで逃げ場を失ってしまった。


 そこへ、女の子がニヤッと口角を上げて現れ、鈍器を両手に構え直し、下品に素振りしながら近付いて来る。


 壁を背にした少年が恐怖で体を震わせると、肛門も連動してぶるぶると震え、望まぬ汚い流動体を噴き出させて、尻に温もりを与えた。



────その音と感触に驚いて、



 夢から覚めた少年は、布団から飛び起き立ち上がって、パジャマの尻周りを手で何度も触れた。無事を確認すると安堵して、立ったまま2度寝目に突入する。


 すると少年は、再び同じ夢に導かれ、暫く待たされ怒りを爆発させていた女の子の前に、裸足で戻って来てしまった。


 満を持して女の子は、少年の裸足の小指を狙って鈍器を振り下ろし、心を奪われそうな笑顔を見せた。




────その10秒前、


 2度寝中の少年の体は、本能的に台所へ向かって歩いていた。



 少年の住む室内の家具の配置は全て体が覚えていて、たとえ暗闇だったとしても、衝突する事は無い。


 たが、昨晩の両親の喧嘩で約20㎝ズレていたテーブルの角脚には対応出来ず、少年は無防備な裸足の小指を勢い良く角脚にぶつけた。



 少年の悲鳴は、静かな室内に悲しく響き渡った。



 そのテーブルの上に、母親と父親の書いたメモが1枚ずつ、無造作に置いてあった。



『 適当に冷蔵庫から出して食べてね。』

『 出掛ける。火と戸締りと母親に用心しろよ。 』



 少年は、仕方なく冷蔵庫の前に立って、両扉を静かに開ける。


 中には、卵・ケチャップ・ラップに包まれた前日の白飯・牛乳パックとペットボトルの水・袋麺が入っていた。


 閉店間近の、コンビニの陳列棚のような寂しさを感じた。



 今日は仕方なく、棚から大きめのフライパンを出して、オムレツを作って1人で食べた。



────げふっ。



 少年は、手際よく後片づけを済ませ、普段着に着替えると2秒考え、外に出て201号室の婆ちゃんの部屋に向かった。



 婆ちゃんは、今年“喜寿”を迎えたが、見た目は45歳の美魔女で、ツヨシ力一(つよしりきいち)とか言うクリニックで時々改造を受けているらしい。


 婆ちゃんは、母親よりもイイ臭いがした。



 臭いが部屋全体にも影響し、少年の住んでいる部屋と比較して、漂う空気に安堵感がある。


 少年の特権として、部屋のドアにカギが掛かっていなければ、201号室への出入りは自由である。この日もカギが開いていた為、ノック無しにドアを開けた。



「ばあああちゃああああんんっ、きたよおおっ」



────派手な下着姿の婆ちゃんが着替えをしていた。



 着替えが終わるまで、部屋の中で静かに正座して待つ。


 時々、婆ちゃんが風呂上がりで全裸の時もあったが、お互い気にする関係では無い。そのままエプロンをつけて昼食を作ってくれる事もあった。



 着替えを終えた婆ちゃんと、囲碁・将棋・チェス・リバーシ・バックギャモン・トランプなど、ひと通り対戦を済ます。全て1度も勝てなかった。



────そして、昼食の時間。



 この時間になると、婆ちゃんは袋麺を大きめの鍋で調理してくれた。


 袋裏に記載されている、水の量や煮る時間等を全て無視し、適当に調理された拉麺は、塩辛い(しょっぱい)のだが何故か美味しく、少年自ら部屋に帰ってから色々試すのだが、未だに味を再現できた事がない。


 そんな拉麺を婆ちゃんと一緒に食べながら、テレビの ”のど自慢”を見て楽しんでいると、部屋のドアを、


────トトト・ト・トントトトン


と、ノックする音が聞こえた。


 すると婆ちゃんは、人が変わったように表情に緊張が入り、頬を赤らめてイソイソと派手な水商売風の際どい紅色の服に着替え直し、赤いハイヒールで、いつもの3倍の早さで出撃していった。



 少年にとって婆ちゃんのコノ瞬間が、テレビ番組の“ 特撮戦隊シリーズ ”の変身シーンと重なり、自ら婆ちゃんの為、TV挿入歌を歌ってあげる程に、好きな日常場面の1つだった。


 少年は、好きな物を見て好きなだけ食べて満足すると、後片付けを済ませ、婆ちゃんの部屋を出た。



 他に時間を潰せる所を考えて、102号室のおじちゃんの顔が浮かぶ。


 おじちゃんは連続活動限界が20時間で、自分の趣味を楽しんでいる、



────自称、金持ちの選ばれた無職。



と自慢する、婆ちゃんとは真逆の、汚くてタバコ臭い中年である。


 それでも、少年が102号室のおじちゃんの所へ行くのは、部屋の中びっしりと隙間なく天井まで積まれた機材やテレビが、少年にとっては憧れの秘密基地その物に見えて、食事以外の事では決して退屈しないからだ。



────おじちゃんは、固いスルメしか食べない。



 また、おじちゃんは知識が豊富で、囲碁・将棋・チェス・リバーシ・バックギャモン・トランプなどを教えてくれたのは、おじちゃんだった。だからでは無いが、今まで1度も勝てた事はない。


 ココに住む大人達は、勝負事に関しては少年を子供扱いする気はない。大人の本気を遠慮なく発揮してくる。



────それでも楽しかった。



 少年は、期待を膨らませながら階段を降りて、102号室のおじちゃんの部屋の前まで来ると、ドアを先ほど聞いた、


────トトト・ト・トントトトン


とノックする。


 暫くして、カギの“ガチャン”という解除音がしてドアが頭1つ分開き、中から苦笑いの表情をした無精髭の汚いおじちゃんが首を出してきた。



 おじちゃんは、少年を秘密基地へ招き入れると、指定した場所に座らせた。少年が機材に干渉する影響の最も少ない場所である。その隣におじちゃんが座った。



 今日のおじちゃんの活動目標は、101号室と202号室の盗撮?盗聴?だそうだ。



 モニター画面が、101号室の隠しカメラからの映像を出した。画面の中央に、101号室に住む50代のオジサンが立っていた。



 おじちゃんに聞いた話だと、オジサンは裏ビデオ?の男優?をしていて、色黒で高身長で、白く輝く歯が特徴の筋肉質な人らしい。浮力?が無く、水に沈んで泳げない能力者?だそうだが、肺活量?が凄くて、大人用25mプールを息継ぎ無しで、底を端から端まで歩ける特技が有るらしい。


 そのオジサンの隣に、モニターの画面外から女性が現れた。おじちゃんは、不倫?とか撮影?とか言っていた。



────モニター画面の2人が服を脱ぎ出す。



 一瞬、女性が少年の母親のように思えた時、モニター画面の映像が切り替わり、今度は202号室の隠しカメラの映像になった。



 画面の中央に女性が立っていた。少年には先程の婆ちゃんに見えた。暫くして画面外から男性が現れ、婆ちゃんを優しく布団へ押し倒した。


 一瞬、男性が少年の父親のように思えた時、モニターの電源が落ちた。おじちゃんは、



────機材の故障で修理するから、



とか言って、少年を外へ追い出してしまった。



 少年は、このまま自分の部屋に戻ってもつまらないので、203号室へ向かう。


 この部屋は、今は空室でドアにカギが掛かっているが、カギは年代物で古く、少年がポケットから出した安全ピンを鍵穴に指して上手く回すと、5分位で解錠できる。



 少年は、そっとドアを開けて中に入った。



 隣の部屋から何か声が聞こえるが、気にしない事にする。


 何も無い部屋の中央で、大の字に寝て天井を見ていると、少年の顔をのぞき込む、白顔でオカッパの女の子が現れた。この部屋で少年が1人の時にだけ姿を現す、早熟のセディストだ。



────遊ぶ、騒ぐ、飛び跳ねる。


 隣りに声が聞こえても、注意された事は無い。




 女の子は、やや暴力的ではあるが、それでも子供どうしで騒ぐのは、とても楽しい。


 時折、首を絞められたり、婆ちゃんの部屋で見たような位牌で殴打されたりもした。



 ただ、婆ちゃんの部屋の位牌は、紛失して新しく作り直したもので、接着剤で仏壇に固定されてある安物だった。


 紛失した位牌は、外出するように消えて、いつの間にか同じ場所に戻っているという遊び癖があって、婆ちゃんの気苦労が絶えなかったらしい。


 ついには戻って来なくなって、方々探したらしいが見つからなかったそうだ。



────女の子が持っているのが、その位牌だろうか?



 今日は、リアルオママゴトで遊ぶ。新居への引越しの話題で”プロレスごっこ”から”クライムごっこ”へと発展していく中、少年の心は曇っていった。



 少年が引っ越しする事が決まっていて、やがて女の子と会えなくなるのだ。



 このような時、どうすれば良いのか迷っていた少年は、後日102号室のおじちゃんを訪ねて相談してみようと思った。


 いつの間にか、部屋が真っ暗になるまで203号室で気絶するように眠っていた。



────9月24日、晴のち雨。



 少年は、朝食のオムレツを食べ終えて真っ先に102号室へ向かうと、ドアを激しくノックした。


 すると、先週より更に汚さを増した疲労困憊のおじちゃんが、頭1つ分開けたドアの隙間から、心霊ビデオのようにゆっくりと首を出してきて、血走った赤い目で少年に対して、



────帰れ。



と、睨んだ。



 少年は、構わずドアの隙間から部屋の中へ入っていつもの指定席で正座すると、203号室の女の子について、おじちゃんを無視して話し続け、どうすれば良いか聞いた。



 おじちゃんは無言で、ゆらゆら揺れながら隣で話を聞き流していたが、少年の話が終わるとモニターの電源を入れて、203号室の室内に映像を切り替えた。


 そして、盗撮カメラを手元のマウスで左右に動かして、異常を確認した。



────部屋の中央に位牌が1つ立っていた。



 少年は、モニター画面の映像を注視する。



 すると、位牌がパタンと前に倒れた。



 暫くして、女の子が位牌の所に歩いて来ると、隣りに正座して位牌を立てた。



 女の子が懐から、少年を盗撮した写真(おじちゃんが撒いた餌らしい)を1枚取り出す。



 女の子は、その写真を見て微笑み、丁寧に床に置くと利き手に位牌を握って、写真をドンッドンッと気持ちを込めて丁寧に、繰り返し殴打した。


 やがて、写真に穴が開いて満足すると、自分が映るモニター画面を見ている少年に視線を合わせ、心を奪われそうな笑顔を見せた。



────少年は、眉間にシワを寄せるおじちゃんを、不安そうな顔で見る。



 おじちゃんは少年と視線を合わせ、クシャミをして唾を飛ばし、鼻水を啜りながらスマホを手に取ってどこかに電話をかけると、パソコンを操作して大きく息を吐いた。



 促されて2人で外に出ると、おじちゃんが指をさした方向を見上げる。



 すると、203号室から大きな爆発音がして窓ガラスが割れ飛び、火柱が上がった。



────えっ?



 少年には、女の子の悲鳴が聞こえたような気がしたが状況を把握できず、無意識に体を震わせていた。


 2度目の爆発音で女の子の事を思い出し、203号室へ行こうとしたが、おじちゃんに手を掴まれ、その場に引き留められた。



────消防隊が到着し、消火活動が始まった。



 火は、隣の202号室から201号室まで燃え移った所でようやく鎮火する。


 幸い、201号室の婆ちゃんは、激しい運動で心臓の病気が悪化して入院中だそうだ。



 少年は、自分の手を握っているおじちゃんの手を強引に振りほどいて、203号室を複雑な思いで見ていた。



 頃合を見ておじちゃんは、視線の高さを少年に合わせると、少年の頭に右手を乗せて髪をクシャクシャと撫で回した。



────これで、未練は無いだろ?



 その時おじちゃんは、爆発で飛ばされ足元の地面に刺さった位牌を左手で拾って、背後に隠した。



 すると、おじちゃんの後ろに、少し焦げ付いた女の子が現れて、少年が正視できない程イラついた表情で、首をコキコキ鳴らしていた。




















────13年後。



 少年(18)に、おじちゃんからメールが届いた。


「会社つくったから、面接受けに来い。社長直々に応対するそうだ。日時は──」



 少年が履歴書を持参して会社を訪ねると、看板の無い貧祖な平屋のプレハブ小屋の中に、懐かしのアノ秘密基地の光景があった。


 そこに、作業用座布団スペースが3つ有って、13年前におじちゃんの部屋を訪ねた時の、自分の指定席に当る場所が、空席で用意されていた。


 その隣に座っている老けたおじちゃんが、コチラに手を振っていた。


 そして、1番奥に座って凶悪な鈍器を磨く、昔の姿のままの社長が、心を奪われそうな笑顔で出迎えてくれた。


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