魔法少女は自炊する
桐生学園において日加理たち“魔法少女“は特待生扱いを受けている。
それは贔屓などではなく、瘴鬼が現れた時に速やかに動けるように、一人部屋であるほうが好ましいからだ。
もちろん部屋自体も学生寮と言うには贅沢で、キッチン、バス、トイレ、リビング、寝室と至れり尽くせりだ。家具もオーブンレンジから冷蔵庫、テレビに至るまで予め準備されていた。
最もこれは“魔法少女“仕様であり、普通の特待生の部屋は一人部屋である以外は他の部屋とそう変わらない。
とは言えだ、桐生学園では食堂にも十分な投資をしている。食材を無駄にしないよう、予約制という変わった仕組みが導入されているが、それも概ね好評で、味・量・値段と文句を言うものはいない。
…元々“桐生“のブランドに文句をつける者はいなかったが。
だから“魔法少女“の部屋のキッチンは精々お茶を飲むためのお湯を沸かしたりする程度だと考えられていた。
夕食時に出動があった場合などはルームサービスのようなものを頼むこともできる。
要するにこれまで無用の長物だったキッチン。
それを本格的に使う者が現れた。無論日加理だ。朝食や夕食はもちろん弁当に至るまでお手製だ。
皆が食堂に行く中一人。日加理たちの部屋のことは公にできないので、どこで作ってるんだということになるのを避けるため、研究所で黙々と食べることになる。
「ねぇ、日加理君。食堂で食べたらいいんじゃない?そこらの学食みたいに男向けな濃い味付けだったり量だったりするわけじゃないしさ」
研究所所員たちの共通の見解である。
日加理が食事を自分で準備し始めるにあたり、所員たちは興味津々だった。結果は彩り、栄養までよく考えられていた。
だが、それは確実に負担である。
値段も安めな食堂であるので食費を抑えるにして対した額にはなるまい。
普通の年頃の子供なら面倒は避けるだろう。
「言わなくちゃいけませんか?契約とは関係ないと思うけど」
八坂に対し、ぶっきらぼうに答える日加理。八坂はお?と思う。どこか焦りが見えたからだ。
「そうだねぇ。余計な手間をかけて疲労を貯めていざという時に戦えないというのは困るかな」
珍しく日加理がむぐぐ…と口を紡ぐ。
「…腕を落としたくないから。」
聞こえるか聞こえないかぎりぎりのボリュームで告げる。
「元の生活に戻ったら退院したヒナにおいしいご飯を食べさせてあげたいからっ!」
そっぽを向く日加理の頬は赤い。
なんとなく八坂の方から生暖かい視線を感じて、
「ゴチソウサマ、もう行くっ」
慌てて駆けていく日加理を八坂は見送った。