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JK無双 終わる世界の救い方   作者: 蒼蟲夕也
フェイズ1「ゾンビだらけの世の中ですが、剣と魔法で無双します」
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その8 初めての実績

「そんじゃ、行くわよ……いっせーの!」


 名も知らぬ女性教師の掛け声と共に、扉が開け放たれます。

 すでに確認済みですが、運動場に敵の姿はなし。

 鍵と荷物、それに刀の鞘をリカパパに預けた私は、身軽になって歩き出しました。

 先生の先導で、私はこの三年間、一度も足を踏み入れてこなかったスペースへと進んでいきます。


「こっちや」


 運動場を抜けて、校舎の裏手へ。体育館を通り過ぎると、綺麗な中庭が見えました。

 へー、こんなとこあったんだ。


「あなた、三年生やんな?」


 女性教師が、私の服装(ジャージ姿)を見て訊ねます。

 うちの学校のジャージは学年によって色が違うので、それで判断したのでしょう。


「はい、まあ」

「あなた、三年もここに通ってたのに、中庭を知らへんの?」


 少しだけおかしそうに言います。


「正門から歩いて数分のとこに家があるとそんなもんです」

「せやかて……」


 その後、先生は何ごとか言いかけましたが、会話はぷっつりと途切れました。


『うぉおおおおおおおおお………』


 中庭の向こうから二匹、“ゾンビ”がこちらに向かってよろよろと歩いてくる姿が見えたためです。


「来たで……!」


 先生が息を呑みます。その声には恐怖が滲んでいました。

 “ゾンビ”たちはそれぞれ、足の速さに個体差があるようです。

 片方は小走り気味、もう片方は重い体を引きずるような足取り。

 どちらにせよ、冷静になれば見切れない動きではありません。

 抜身の刀を構えて、私は二匹の“ゾンビ”のうち、足の速い方と相対します。


「どうするん?」


 先生が尋ねると、私は一言、「下がって」と応えました。

 深呼吸。


 相手がこちらの間合いに入るのを待ってから、


 さくっと。


 刀は、“ゾンビ”の眉間に深々と突き刺さります。

 スイッチが切れたように崩れ落ちる死体を蹴り、私は素早く刀を構え直しました。

 続けざまに、足の遅い方の“ゾンビ”の額を横に一閃。これも、あっさりと動かなくなります。

 ちょろいぜ。


「ハンパないなあ」


 これは、後ろで見ていた先生の感想。心から感嘆しているようでした。


「こういうこと、あんまり褒めていいのかわからんけども。よく平気やな」

「平気? 何がです?」

「その。……手触りとか、感触とか。気持ちわるない?」

「平気です」

 私はありのまま、事実を言います。

「そうなん。――アタシ、グロテスクなの、全然ダメやから」

「慣れですよ」

 あとはまあ、あんまり深く考えないようにする、とか。


 中庭を横切ると、目的地はすぐそこにありました。


 さすが裏門と言うだけあって、正門よりサイズは幾分小さめです。

 守衛さんの控えとなっている小さな建物がそばに一つあって、道路に面した向かい側には、コンビニエンスストアが見えていました。


「ついでに、コンビニ寄っていきます?」

「馬鹿言っちゃアカン。今の状況、わかっとる?」

 小粋な提案だと思ったのですが、叱られてしまいました。

「それに、誰も店員さんおらへんやろ。買い物なんてできないに決まってる」


 あー。

 買い物するというか。

 必要な物資を調達するというか。

 勝手に持ってくるというか。

 ぶっちゃけ盗むというか。

 しかしどうやら、この若い女先生の中には「盗む」という発想そのものが頭から抜け落ちているようでした。

 まあ、ここの人たちは近々救助が来ると思ってるようですし、実際本当に救助が来るかも知れないわけですし、それが間違いだとも言い切れず。


「じゃ、ささっと閉めてきますね」


 幸い、入り口が狭いこともあって、敷地内に侵入してきている“ゾンビ”はさほど多くないようでした。具体的に数字で言い表すなら、五匹。

 気持ち悪くなるばっかりなので、連中の特徴を事細かに説明する愚はおかしません。

 上は六十代から、下は十代までの男女とだけ言っておきましょう。

 もちろんみんな、一見して「死んでるのに歩いてるなぁ」という格好の人ばかり。


「何か手伝う?」


 続けざまの遭遇のためか、先生の口調にも冷静さが戻ってきています。


「じゃ、声を上げたり手を叩いたりして、連中を引きつけてください」


 気軽にお願いしてみたところ、彼女の顔に「後悔」の二文字が浮かびました。

 手伝いを申し出たのは大人であるが故の責任感からでしょうが、正直、殺しにはあまり関わりたくなかったのでしょう。


「……わかった」


 それでも先生は、気丈に言ってのけました。


「それじゃ……いくでぇ」


 そう言ったあと、先生は、


「はーい! ちゅうもくー!」


 こちらが予想していた以上に大きな声を張り上げます。


「みんなー! こっちよー!」


 そこで私は、この女教師の声に聞き覚えがあることに気づきました。

 そうだそうだ。確かこの人、体育の先生です。

 学年が違うので顔をまじまじ見たことがありませんでしたが、授業中、運動場の方から彼女の元気の良い声が聞こえてきた覚えがあります。


「ほーら! こっちみてー!」


 しかし、彼女のよく通る声は好都合でした。

 五匹の“ゾンビ”は、そろって彼女に注目します。普段から影の薄い自覚のある私など、もはや限りなく透明に近い存在となったことでしょう。


 私は、“ゾンビ”たちの視界の外から回りこむように裏門に近づきます。

 守衛室の裏手をぐるりと回って、鋼鉄でできたそれに手をかけました。


「ふんぬ……ッ。むむむ!」


 そこで、少し厄介な事態が発生します。

 女性“ゾンビ”が一匹、測ったようなタイミングで閉まる鉄扉に飛び込んできたのです。

 あるいは、先生の威勢のよい声に導かれて入ってきてしまったのかもしれません。

 ぐにゃ、と、鉄扉を握る手に嫌な感触がして、扉が軽く押し戻されます。


『ォォォォォォォ……」』


 結構な質量の扉に押し潰されそうになったからか、女“ゾンビ”は不満そうにうなります。

 私は慌てませんでした。

 一旦“ゾンビ”と距離をとって、刀を構え直します。

 そして、その額に向けて、冷静な一撃。

 動かなくなった“ゾンビ”を足で外に蹴り飛ばし、少しだけ名残惜しげに目の前のコンビニを見ました。

 ですが、道の向こうから少なくとも四、五十匹以上の“ゾンビ”の姿があるのを確認して、思い直します。さすがにあの数を現段階で相手をするのは荷が重そうでした。


『ウォオオオオオオオオオオッ』

『おぉぉぉぉぉぉ……』

『ぐぅううううううううううううううううう』


 こちらに気づいた数匹が、声を上げます。

 すると、群れが気づいたらしく、こちらに向かって一斉に移動を始めました。


 へえ。

 連中、ある程度は意思疎通できるみたい。

 ま、相手にしませんけどね。


 そんなわけで、閉店ガラガラ。みなさんお元気で。

 扉をしっかり閉め、鍵をかけた私は、背後からの「はよはよ! こっち、急いで!」という救援要請に応じます。


 抜身の刀を手に、私は先生のもとに引き返しました。

 待っていたのは、大した仕事でもなく。

 アイドルを目の前にしたファンの子のように夢中になって先生を追いかける“ゾンビ”の群れを、後ろから順番に始末していくだけの簡単な作業。

 最後の一匹を仕留め終えた、次の瞬間です。


 例のファンファーレと共に、


――おめでとうございます! あなたのレベルが上がりました!


 さらにもう一度。


――おめでとうございます! あなたのレベルが上がりました!


 今度は、ぱんぱかぱかぱかぱんぱかぱーん、と、先程までのファンファーレを更に豪華絢爛にしたような音が流れて、


――おめでとうございます! 実績“はじめての安全地帯”を獲得しました!


 という声。

 思わずズッコケそうになりました。


 実績て。


 洋モノのゲームじゃあるまいし。


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