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JK無双 終わる世界の救い方   作者: 蒼蟲夕也
フェイズ2「デスゲームはじめました」
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その71 文明

 私たちは、“クラブハウス”前にいたおばさんに言われて、建物の一室に通されます。


「とりあえず、ここで待っててね。……三人とも、お腹空いてる?」

「ウッス! 腹ペコっす!」


 どこまでも元気のいい人、佐嘉田さん。


「じゃ、昨日の鍋物の残りだけど、はい」


 そしておばさんは、どんぶり一杯のおじやを差し出してくれました。


「うおおお! 俺、鍋物の残りで作ったおじや、大好きっす!」


 それは同感。


「それと、煙草は吸う?」

「煙草あるんすか? やった!」

「食後にね」


 そして私たちは、三人が過ごすには少し手狭な部屋で、早めの晩ごはんを食べることになります。


「うめー。……マジで……くそ、昨日から何も食ってないせいか、信じられないくれーうめー……」


 佐嘉田さんは、おじやをスプーンですくいながら、言います。


「昨日から? ……駅前に食糧がたくさん残っているのでは?」

「バカかお前。あっこらへんは”奴ら”の巣だぜ」


 あー、そういやそうでした。

 “ゾンビ”は、彩葉ちゃんが片っ端から始末してくれたので、いまはがらんとしてるはずですけどね。

 そんなことを考えていると、


「おい、あんた」


 佐嘉田さんが、改まって、軽く頭を下げます。


「いちおー、さっきの件は、礼を言っとく」

「? さっきの件?」

「とぼけんなよ。”奴ら”から助けてくれたろ」


 ああ。

 とぼけたんじゃなくて、本当に失念していました。


「……けど、余計なお世話だったかんな。俺、あっこから”ゾンビ”の首の骨折ってやろうとしてたし」

「ほほぉー」

「……信じてねえだろ」

「はい」


 率直に言います。実際、手助けがあと数秒でも遅かったら、彼の首元にはくっきりと噛み跡が残っていたはずでした。


「年下のくせに、なまいきなやつだな」

「歳は関係ないのでは?」


 ここでは、年齢や経歴よりも、能力が優先されている気がします。

 そうでもなければ、突如現れた私を味方に引き入れたりしないでしょう。

 実際、ここの幹部であるという織田さんは、佐嘉田さんとそう歳が変わらない気がしました。


「……ふん」


 すると佐嘉田さんは、つまらなそうにそっぽを向きます。

 そこで私は、席を立ちました。


「トイレへ」

「あ、じゃあ、あーしもー……」


 連れ立って便所へ。

 二人きりになっても、彩葉ちゃんの緩んだ顔は変わらず。


「うふふふ~」

「もう、演技はいいですったら」

「なんか、たのしくなってきたんだ」

「やりすぎて、本物にならないでくださいね」

「えへへ~」


 にこにこ笑顔の少女。


「で、こっからどーすんの?」

「とりあえず、夜まで待ちましょう。ボスの居場所を把握できたら、そこに向かって……」


 私は、自分の右手に念じてみせます。

 すると、手が、白い光に包まれました。

 ”奴隷使い”、アマミヤくんから借りたスキルです。


「――《隷属》を使います」

「それで?」

「まず、捕らえられた女性の解放を命令した上で、一緒に航空公園に戻ろうと思います。そこで一度、落ち着いて彼と話をしましょう」

「話?」

「今後、周辺の人を脅かさないと、誓わせるのです」

「うーん」


 彩葉ちゃんが、唇を尖らせます。


「そんなうまくいくかなー?」


 どうでしょうね。

 私自身、よくわかりません。


「もし、何言っても話を聞かなかったら?」

「その時は……」


 はあ……と、嘆息しつつ。

 結局、この手になるのかな、という予感がしています。


「仕方ありません。殺すしかありませんね。――ここのボスだとかいう人を」



 話を終えた私たちがトイレを出ると、佐嘉田さんとばったり出くわしました。


「お前ら、何してんだ?」


 茶髪の青年は、目を丸くして言います。


「そりゃ、便所ですけど」

「二人とも、女子トイレでか?」


 げ。


 そーいや、すっかり忘れてました。

 私、いま男の身体なんでしたっけ。


「ハッハァーン……お前ら、さては()()()()()だろ?」

「た、たの……いや、そんなんじゃありません」

「冗談だ。もしそうならドンダケ早漏なんだって話だし」


 げらげら笑う佐嘉田さん。

 この人、苦手です。

 案外、男同士というのはいつもこんな感じの話題で盛り上がっているものなのかもしれませんけど。


 佐嘉田さんと入れ違いに部屋に戻ると、ちょうど織田さんが戻ってきたところのようでした。


「よう」

「……ども」

「さっそく、仕事を頼めるか」

「どうぞ」

「お前が始末した、あの女”ゾンビ”を焼いてこい」

「……それだけですか?」

「それだけ、とは?」

「簡単すぎます」


 織田さんは視線をそらします。その言葉をどう判断すればいいかわからない、という風に。


「確かに危険はないがな。人によっては、それだけでも嫌がる仕事なんだよ。……ようするに、それがお前に対する”お咎め”ってこった」

「はあ……」

「だが、一応、喜んでいいこともある。ボスも、いい加減あの”ゾンビ”は始末しておくべきだと思っていたらしい。それと、お前の話をしたら、ずいぶん気に入った様子だった。仕事次第ではそのうち顔合わせがあるかもしれない」


 そう言われても、少し複雑な気分ですね。

 その人、今晩中に”奴隷”にするか殺すつもりでいますので。


「とりあえず、仕事だ。仕事仕事。ここじゃあ、前の世界よりも、よっぽどはやく出世できる。なにせ、人間そのものが少ないからな。やるべきことはいくらでもある」

「ですね」

「俺たちはこの場所を拠点に、この国の文明を取り戻すつもりでいる。……だから、わかってるな?」

「”ボスには逆らうな”ですか?」

「ああ。……なんだ、赤井から聞いたのか」

「ええ」

「なんにせよ、ボスにはその才能がある。強い国を作る才能が。こんなこと、前の世界じゃ考えられなかった。やりがいのある仕事だ。だろ?」


 私は目をそらしました。

 織田さんは、からからと笑って、続けます。


「実際、お前も楽しんでるクチなんじゃないか? この”終末”を」


 果たして私は、どう応えていいかわからず。


 無言のまま、その場を後にしました。


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