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JK無双 終わる世界の救い方   作者: 蒼蟲夕也
フェイズ2「デスゲームはじめました」
56/433

その55 大食らいが二人

 業務用の大鍋を二つ、カセットコンロで温めます。


 中身は、私がさっき開発した“おでんカレー”。

 レトルトのご飯も大量に確保済みです。


 謎の少女の襲撃から、二時間ほどが経過していました。

 彼女が派手に暴れたせいで“ゾンビ”が集まってきていたのには難儀しましたが、どうやらまだ、雑貨屋さんは寝床としての役割を果たせそうな雰囲気。

 最高級のベッドは滅茶苦茶になっちゃいましたけどね。


「……んあ?」

「おはよーございます」

「……うー、あー」


 小さな襲撃者は、“ゾンビ”のように唸ります。

 魔力切れって、まだ経験したことなかったですけど、こんな風になるんですね。

 気をつけるようにしないと。


「……ん」


 少女が、すんすんと鼻を鳴らします。


「……カレー?」

「ええ。あなたの分もありますよ」


 すると、少女はガバッとベッドから起き上がりました。


「うー。カレー……」


 それはまさしく、目先の欲望に突き動かされた動物。

 先程まで敵であったはずの私に向かって、少女は無防備に近づいてきます。

 大きめの皿にご飯を盛り、ルーをかけ、少女に差し出すと、


「ん? これ、なに?」

「おでんカレーです。私が考案したものです」

「ねーちゃん……」


 少女は、神妙な顔でこちらを見ました。


「カレーになんてヒドいことを……」


 む。

 こやつ、私の手料理が気に食わないと申すか。


「文句言う子にはあげませんよ」

「ごめんいる」


 そう言うや否や、少女はものすごい勢いでカレーをかっこみ始めました。


「腹減ってると何食ってもうまいな!」


 どこまでも失礼な子。


 もちろん、私も負けじと、カレーをかっこみます。

 さっき食べたばかりとか、そういう常識はもう、私には通じません。

 どうやら、私の胃袋は異次元と繋がってしまったようでした。


 あ、そうそう。

 ちなみに、私がさっき手に入れたスキルをまとめますと、


 《防御力Ⅰ》、《魔法抵抗Ⅰ》、《鋼鉄の服》、《防御力Ⅱ》、《防御力Ⅲ》、《防御力Ⅳ》


 こんな感じ。

 ええ。まさかの防御ガン振りです。


 よくわかりませんが、彼女の称号が《正義の格闘家》であるかぎり、人殺しはしないだろうな、と。

 そんな彼女に納得してもらうには、力にものを言わせるより、彼女の言うとおり「百回殴られる」方が手っ取り早いように思えたのでした。


 しばらく、二人とも無言のまま、カレーを咀嚼するだけの時間が過ぎていきます。


「おかわり! っていうかもー、鍋ごとほしい!」

「はいはい」


 私が言えた義理ではないですが、この娘、やたら食べますねぇ。

 やはりスキルの力を使うものは、総じて大食いなのでしょうか。


 カレーの入った大鍋をあっという間に空にした私たちは、おやつのポテトチップスをムシャり始めます。


「うすしお! あーし、うすしおだいすき!」

「まあ、私は一周してコンソメこそが至高であることを発見したわけですが」

「コンソメも大好きだぞ!」

「……お茶、飲みます?」

「飲むッ!」


 2リットルのペットボトルをごくごくごくごくっと一気飲みする、二人の少女。

 考えてみれば、妙な絵面ですね。


「ぷはーっ! 生き返るー!」

「あなた、《飢餓耐性》は?」

「ん? 二つとったけど?」


 ってことは、《飢餓耐性(中)》で止めてるわけですか。


「それじゃあ、魔力切れを起こすのも無理ないですね。次にレベルが上がったら、もう一つ取ったほうがいいのでは?」

「えーっ。別にいいじゃん。食べ物なんてそこら中にあるし」

「その考え方は危険です。……実際、私に負けたわけですし」

「そーかなー?」


 しきりに首を傾げる少女。


「言っときますけどあなた、殺されててもおかしくないんですよ。……私が心優しい娘で運が良かったと思いなさい」

「……むーっ」


 少女は唇を尖らせつつ、それでも新たなペットボトルのフタを開きました。

 それを、ぐびぐびぐびっと飲み干し、


「寝るっ!」


 そう言い残して、寝具コーナーにあるベッドへと行ってしまいます。


「あの……話をする約束は……」

「明日ちゃんとするから! 今日は眠いし、寝る!」

「寝る前におしっこ行ったほうがいいのでは?」

「うるさいうるさいうるさーい!」


 反抗期の娘のように怒鳴って、少女は布団の中に潜りこんでしまいました。


 やれやれ。

 ってか、喧嘩売った相手の近くで、よく眠れますね。

 ものすごい図太さです。

 まー、図太さにかけては、私もちょっとしたものですけども。



 ピカニャンの着ぐるみと別れを告げ、いつもの赤ジャージに着替えた私は、朝ごはんと称して紅茶を一杯だけ飲みます。

 昨夜は、あれから魔力の消耗がなかったため、お腹は空いていません。

 《飢餓耐性(強)》サマサマですね。


 そう思っていると、例の少女が目をこすりながら現れました。


「……。おはよー」


 少女は、どこか不機嫌そうに言います。


「おはようございます」


 言うと、少女は目をそらし、しばらく考えこんだ後、


「ん。なに、ここどこ?」


 どうやら寝ぼけているご様子。

 ため息を吐きながら、


「残り湯で良ければお風呂がありますけど、入ります?」


 提案します。


「うん……入る……」


 昨日の登場シーンに比べて、なんとも意気消沈した姿。

 よっぽど負けたのがこたえたのでしょうか。


 ふらつく少女を後押ししつつ、二人で雑貨屋さんの屋上に向かいます。

 ぼんやりした表情のまま、少女は服を脱ぎ、湯船に浸かりました。


「湯加減はいかが?」

「ん―――――、悪くない……。っていうか、ごくらく……」

「せっかくなので、服、一緒に洗濯しちゃいますね」

「いいよぉ―――――」


 なんか、この娘に仕えるメイドさんみたいな気分になってきました。

 脱ぎ散らかした服を拾い集め、私は洗剤の入った桶に放り込みます。


「ところで、服を返してほしくば、質問に答えてほしいのですが」

「なにー?」

「あなたの名前は?」

「羽喰彩葉ぁ」

「目的は?」

「いろいろ……」


 この娘、まだ寝ぼけてるんでしょうか。

 仕方ない。正気に戻るまで、洗濯に集中しますか。


 そして、三十分経過。


「…………んむ?」


 突然、彩葉ちゃんが呟きました。


「あーし、いまなにやってんの?」

「お風呂に入ってます」


 応えると、彩葉ちゃん急に立ち上がって、当たりを見回しました。


「なんじゃこりゃ……」

「?」

「なんじゃこりゃあああああああああああああああああああああああああ!」

「何を言って……」

「うわああああああああああああああ服返せばかああああああああああ!」

「別にいいですけど、洗濯してるとこですよ。替えの服は?」

「いっちょうらだ、ばかああああああああああああああああ!」


 ため息を吐きます。


「じゃあ、適当に服を見繕ってきますので、ちょっと待っててください」


 幸い、ここには山ほどのパジャマが置いてありました。



 それから、羽喰彩葉ちゃんが落ち着くのを待つのに三十分。

 彼女から、おおよその事情を聞くのに、さらに一時間かかりました。


「なるほど。……それでその、謎の女に騙されたわけですか」

「騙されたっつっても。まだホントかも知れんし」


 彩葉ちゃんは顔を背けて、自分の間違いを認めようとしません。


「まあ、私はどう思われても構いませんけど。なんだったら、今から“雅ヶ丘高校”に行ってきますか? きっと、あなたが言うほど嫌われ者ではなかったはずです」


 たぶんね。


「むむむ。…………まあ、そーかも知んない。ねーちゃん、悪い人じゃないっぽいし。今思えば、あの女の方が、挙動不審っつーか、変な感じがした気がする」

「変な感じ、とは?」

「なんつーか、心ここにあらずってかんじ? 焦ってるっていうか。あの時は“ゾンビ”に追われてるからだと思ってたけど」


 なんとなーく、ですが。

 犯人に心当たりがあります。


 っていうか、私を攻撃する理由がある人って、今んとこ一人しかいないんですよね。


 “邪悪な奴隷使い”。


 もちろん、どっかに新キャラが潜んでいて、私を付け狙っている可能性もありますが。


 うーん。

 こりゃ、もうすでに戦いは始まってるって考えた方が良さそうです。


 嫌だなあ。面倒だなあ。

 ほんと私、争いごとは好きじゃないんですよねぇ。


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― 新着の感想 ―
不味いのがなのが既に捕捉されてるってとこよね。
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