その45 フェイズ1終了
アナウンスは突然でした。
朝食を食べ終えて、ぶらぶらと屋上を歩いていると、
――規定の条件が達成されました。
――現時刻を以って、フェイズ1を終了します。
例の頭の中の声が、突如として話し始めます。
「……え?」
――フェイズ1の終了により、以下のスキルが解禁されます。
――《スキル鑑定》
――《カルマ鑑定》
――《実績条件参照》
――レベルⅢ以降の《必殺技》スキル
――レベルⅣ以降の《魔法》スキル
―― 一部のユニークスキル
―― 一部のジョブスキル
「なん……だと……?」
いずれ使うつもりだった決まり文句を、このタイミングで消化。
こちらの困惑などお構いなしに、幻聴さんは続けます。
――フェイズの移行により、”敵性生命体”の習性が変異します。
――“ゾンビ”の“人類”を感知する能力が上昇しました。
―― 一部の“ゾンビ”の運動能力が向上しました。
――“ゾンビ”の行動パターンに、“潜伏”が追加されます。
――これまで不活性だった“敵性生命体”が活性化します。
「ちょ、ちょ、ちょちょちょちょ、ちょっと待って? 情報量多すぎてついてけないっす!」
もちろん、幻聴さんはこちらの言うことなど聞いてくれません。
――全てのプレイヤーに“クエスト”が提示されました。
――“クエスト”に失敗したプレイヤーは、それまで取得した全てのスキル効果を永久に失います。ご注意ください。
……ああ。
せめて、手元に紙とペンがあったら。
しかし、こうなったら自前の記憶力で覚えているしかありません。
――また、自分以外のプレイヤーを殺すことにより、そのプレイヤーのスキルを“強奪”することが可能になりました。
――実績報酬アイテムの特殊な効果は、それを取得したプレイヤーでなくとも使用できるようになりました。
――恒久的な人外生命体への変身が可能になりました。
――全てのプレイヤーは、実績“フェイズ1終了”を獲得します。
「……な、なんですって?」
なんか、聞き捨てならない情報のバーゲンセールなんですけど。
「………………終わった?」
空に向かって訊ねます。
返答はありません。
とにかく、三年三組に戻ることにします。
今の内容を、可能な限り正確に書き残すためです。
「センパイ? どぉかしました?」
途中ですれ違った明日香さんもスルー。
教室に戻り、手早くノートを取り出し、
「えっと……《スキル鑑定》……《カルマ鑑定》……」
それらがどういう効果を持つスキルかは、あとでゆっくり考えましょう。
ものすごい勢いでペンを走らせ、重要事項をメモ。
「……ふう」
アウトプットに成功して、一息、……吐いている余裕もありませんでした。
とりあえず、今の幻聴さんの話を、冷静に分析しなければなりません。
「まず……」
最初に考えなければならないこと。
幻聴さんが言っていた、全てのプレイヤーという言い回しです。
これはつまり、私の他にもスキルを持った人が存在していることを意味していました。
竹中くんが、死の間際、レベルがどうのこうの言ってましたが。
彼もまた、“プレイヤー”の一人だったということでしょうか。
そしてもう一つ。
他プレイヤーを殺すことで、そのスキルを“強奪”できるというシステム。
これはつまり、自分以外のスキル持ちは、必ずしも味方とは限らない、ということです。
もちろん、みんながみんな、悪逆非道な連中ばかりとは限らないので、良心的な人間もいるでしょうが(そう、私のようにね!)。
「あとは……」
解禁されたスキル関係でしょうか。
しかし、さすがにここらへんは、いくら考えても推測の域を出ませんでした。
例えば、《スキル鑑定》一つとってもよくわかりません。
鑑定などしなくても、既に自分のスキルに関する説明はされているわけで。
あるいは、他のプレイヤーのスキルを把握することができる能力、とかでしょうか?
それとも、現在取得しているスキルのさらなる情報を得られる、とか?
他にも引っかかっていることはあります。
幻聴さんは、“ユニークスキル”という言葉を使いました。
ゲーム知識を総動員させていただきますと、これは要するに、“固有の”スキルということでしょう。
と、なると、私は既に、何かしらのユニークスキルを習得していることになるのでしょうか……。
…………フウム。
ハテサテ。
ただ、あんまり考えこんでばかりもいられません。
私が今、もっとも優先しなければならないことがあります。
それは、
――全てのプレイヤーに“クエスト”が提示されました。
――“クエスト”に失敗したプレイヤーは、それまで取得した全てのスキル効果を永久に失います。ご注意ください。
これ。
どう考えてもこれ。
いまさら普通の女の子には戻れません。
力がなければ、誰も守れない。
ごくりと息を呑んで、私は訊ねます。
「……ええと。幻聴さん、私の……その、クエストというのは、いったい?」
すると、その質問を待っていたかのように、答えが返ってきました。
――ここより北西にある“所沢航空記念公園”へと向かってください。
――その付近に“邪悪な奴隷使い”がいます。
――彼を殺すか、従属させて下さい。
「と、所沢って……」
突然、聞いたことのある地名を聞いて、半笑いになります。
所沢には何度か行ったことがあります。確か、駅近くに美味しい担々麺のお店があるんですよね。
今はやってないでしょうけど。
深くため息を吐きます。
とりあえず、ここを出なければならないのは確定、と。
覚悟はしていましたが、ヘヴィな注文ですなあ。
ってか、見ず知らずの相手を「従属させなさい」とか言われても。
しかも、“邪悪な”って。
“奴隷使い”って。
もうこの時点で、敵対フラグが立ってるじゃないですかー!
やだー!
「はあ……」
ようやく、理想のスローライフ空間が確保できそうだと思っていたとこなのに。
私の受難は、まだ続きそうなのでした。




