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JK無双 終わる世界の救い方   作者: 蒼蟲夕也
フェイズ3「Too Late Now」
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その402 砂糖にスパイス

 麗華さんが鍵を開けると、そこにあったのは、――強烈な湿気で満ちた、妙に甘ったるい臭いのする部屋でした。


「うう……っ?」


 一瞬、私は毒ガスか何かを警戒しましたが、


「大丈夫。無害よ」


 麗華さんは物怖じせずに足を踏み入れます。

 続いて室内に足を踏み入れ、私はごくりと唾を飲みました。


 いよいよ。

 いよいよ、この奇妙な”王国”で過ごす日々も終わる。


 ここに来た時はずいぶん辛い気持ちで入国しましたが、記憶を取り戻すに従って、わかってきたことがあります。

 ここでの日々は、決して辛いものではなかった。

 むしろ私の記憶にある冒険の中では、かなり楽しい部類に入るように思えます。

 楽しかった夏休みの、最終日。

 そんな気持ちがして、私はゆっくりと部屋を見回しました。


 そこは恐らく、お城の中央にある尖塔の屋根裏部屋で、もともとはスタッフ用の小物類を保管していたと思しき空間です。

 出入りが不便な場所であるせいか、部屋の隅には年季の入った埃が降り積もっていました。


「ええと、ここね」


 麗華さんが電灯のスイッチを入れると、まるで劇のスポットライトを思わせる光源が、部屋の中央を照らし出します。


「これは……」


 そこにあったのは、――”魂修復機ソウル・レプリケーター”とかいうSFちっくな名前からは想像もつかない、奇妙なものでした。

 チューブに繋がれた魔女の大釜。一言で言うとそれは、そんな感じ。

 黒い、鋼鉄のその釜は、控えめな焔でこぽこぽと温められていて、湿気の原因はおそらくこれのようです。

 釜は、これまで幾度となく酷使されてきた形跡が見られ、調理を失敗した時につく焦げ目のようなものがあちこちにこびりついていました。

 私はそれを、これまで見かけてきたアトラクションのように感じていて。


「本当に……これが……?」


 なんだか想像してたのと違う。

 機械というよりは、オカルトと科学のハイブリッドって感じ。


「うん。――ちなみにこれ、(原型)が最後につくわ。ようするにプロトタイプ、仮組み段階ってことね」

「はあ」

「一応、使うときは慎重に。すっごく壊れやすいから」

「……はい」


 どうも、それまで思っていたような、ボタン一つでお気軽に……って感じのものではないみたい。


「まず、釜の中の液について説明する。これは、……ええと、この”実績報酬アイテム”が支給されたときに最初に入っていたもの。恐らくだけど、替えが効かないから注意して」

「何度も繰り返し使って大丈夫なんですか?」

「うん。恐らく」


 恐らく、ですか……。


「そんじゃ、イチから手順を解説するわね。心して聞くように」

「はい」

「まず、これで蘇生を行う場合、男子か女子かでちょっと手順が異なるの。

 まず、蘇生者が女の子の場合は、

 1、お砂糖にスパイス、それとキャラクターもののお人形を二つ三つ、テキトーに入れる。

 2、血文字で蘇生者の名前を書いた羊皮紙を釜に入れる。

 3、三十分ほど待つ。鍋の底で人間の形が出来上がっていく。

 4、完成すると、釜の底にあるチューブを通って、人間が生まれる。終わり」


 お砂糖にスパイス、ですか。


「当てましょうか。男の子の場合は最初に、カエルにカタツムリ、それに仔犬の尻尾を入れるんでしょ」

「お、かしこい」

「マザーグースは陰キャ女子のバイブルですので」


 あと『パワーパフガールズ』もね。


「これ、男子の方は圧倒的に条件が厳しいの。だからランド側に居る子は女の子ばかりってことにしたのよ」


 なるほど、悪ふざけの産物みたいなパターンの”実績報酬アイテム”ですか。

 ついでに私は、部屋に入る直前で取得した《実績条件参照》を使います。


 この《実績条件参照》というのは、視界に入れた”実績報酬アイテム”の入手手段を知ることができるスキル。

 もし可能なら、”魂修復機”の量産を行おう、と思ったのですが……。


――”魂修復機ソウル・レプリケーター(原型版)”。

 条件”中堅企業”……年間で百億円以上を売り上げる組織を生み出したプレイヤーに与えられる実績。


 それを見て私、「あっ」と悲鳴を上げます。

 全身を《雷系魔法》で貫かれたような衝撃が走っていました。

 これまでずっと、不信に思ってきた志津川麗華さんの態度。

 その理由が、――欠けていたパズルのピースが、ぱちっとハマったためです。


「うふふふふ」


 すると麗華さん、「ニッコォオオオオ……」と、ゾッとしない表情で私を見ました。


「そうか。そういうこと、ですか」


 私は、眉間にちょっと皺を寄せて、


「これを知ってしまったからには、――()()()()()()()()()()()()()()()()()

「わあ。やっぱりあなた、私が見込んだとおりだわ! 本当に勘が良くて、……賢い子!」


 褒められたって、これっぽっちも嬉しくありません。

 私は、額から冷たい汗が流れ出ているのを感じながら、しばらく自分のこめかみを掻きむしって、考えをまとめました。


 まず、一つ。

 この”実績条件”ですが、――現状、その他の”プレイヤー”にとっては、ほとんど達成不可能と言って良い、難度の高いものであること。


 そしてもう一つ。

 これが、以前に私が取得した実績、”被害総額:十億円”、”被害総額:百億円”と同じく、段階的に実績報酬のランクが上がるものだと思われること。


 ”魂修復機”により上位のクラスのものがあるのであれば、――それを手に入れない手はない。

 そして、それをするためには、”非現実の王国”と志津川麗華さんを利用する手が最も近道である。


 これはつまり。

 私は、――いまこの瞬間から、彼女の守護者たらねばならない、ということ。


「でも、なんでです」

「?」

「なんであなたは、わざわざこれを私に見せたんですか?」


 すると彼女、表情ひとつ変えず、答えました。


「そりゃあもう。私の人生には、あなたの存在が必要だったからよ」

「……………ふぅむ」


 愛の告白かな?


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