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JK無双 終わる世界の救い方   作者: 蒼蟲夕也
フェイズ3「Too Late Now」
384/433

その377 詰めろ

 きり、きり、きり、きり……と、日常生活の中ではあまり聞かない類の音が、すぐ耳元で聞こえています。

 見ると、里留くんのグローブに隠された鋼の糸に絡め取られ、ぎゅっと両腕が拘束されていました。

 目にも止まらぬ早業。さすが、訓練を受けた者の動きです。

 里留くんの《攻撃力》によって強化された鋼の糸は、若干、私の防御力を上回っているらしく、すでに身体のあちこちから血が滴り落ちていました。


「――くっ」

「この糸は、肉に食い込むよう加工してあるんです。知ってますか? 腕の筋肉が破壊された”プレイヤー”は、力の入らない両腕で《治癒魔法》を使おうとして、芋虫のように転がり回る」

「ひええ……」


 悲鳴を上げたのは、脅しに屈したためでも、痛みのためでもありません。


 服が。

 このままでは服がばらばらになる。

 それに気付いたためでした。

 私ったら今日はよりにもよって、以前にトールさんと見繕った、ピッチリシャツ+ホットパンツの終末系ファッション。

 つまりこの服、わりと簡単にその機能を満たさなくなるということで……。

 さすがの私も、乳放り出した状態で戦うような真似はできません。


 しかし、まさか里留くん、この展開をわざと狙っている、ようなことは……。


――二つ。俺があなたに勝つ手段としては、二つ、やり方があります。


 とか、さっき言ってたけど。

 もう一つの勝ち筋って、私の服をびりびりに破いて戦意喪失させるとか?


 ちらっと彼の顔を見上げます。

 にいっと邪悪な微笑がこちらに向いていました。

 いかん。勝つためにはなんでもやる気だ、こいつ。


「――こ、《鋼鉄の服》!」


 遅ればせながら、私は服を変質させます。

 とはいえ、少し判断が遅かったようで。鋼糸はすでに私の上半身をグルグル巻きにしていて、なんかボンレスハムを思い出させる感じに。


「ちなみにそれ、悪手っすよ。それをするならまだ、《刃の服》の方が……」

「――ッ、《口封じ》!」


 間髪入れず、私はまだ使える右足で里留くんを思いっきり踏んづけました。

 彼は微動だにしませんでしたが、これで数分間だけ魔法攻撃を封じることができるはず。


 そこで私、詰め将棋の如く追い込まれている自分に気付きますが……仕方ありません。

 あの技を使いましょう。

 覚悟を固め、大きく息を吸うと、


「――――――……ッ」


 里留くんが、狂気じみて目を見開きます。

 彼が思わずポーカーフェイスを解いた。その意味をうすうす感じながら、――


「――――――――――わあっ!!」


 両手を塞がれても使える便利技といえばこれ。

 さらに連続して、


「ヘンタイ! ヘンタイ! ドヘンタイ! エッチ! 触らないで! みなさん! ここに痴漢がいまあああああああああああああす!」


 超至近距離での《雄叫び》。

 多分、三回目くらいの「ヘンタイ」で私の望む効果は発揮したでしょうが、念のためね。

 さすがの彼も、鋼の糸を掴む手が緩んだと見えて、私は身を滑らせるようにしてその輪から抜け出しました。

 同時に、素早く《必殺剣Ⅵ》を解除します。

 ぱっと桃色の輝きが消失し、鋼色の刀身が切れ味を復活させました。


 それにしても、盲点です。

 《必殺剣Ⅵ》、完全に攻撃力を失ってしまう欠点があるとは。


 しかしこうなってくると、どうしても”攻略本”を手に入れなくてはいけない。

 アレにはたぶん、私が使う技が弱点込みで詳細に書かれているのでしょう。

 そんな便利で危険なもの、第三者の手に握らせておくだけで危険でした。


 決意を新たにしながら、私は里留くんに切っ先を向けます。

 耳と口を塞がれた彼は、それでも平然としてこちらに向き直っていました。

 例の鋼線を捨て、再び徒手空拳での戦いを挑むつもりみたい。


 そこで私は、大きく深呼吸して気を落ち着けます。


 危機を脱することはできました、が……。

 さっきの《雄叫び》には少々、デメリットがありました。


「いた! あそこだ! 十万ぽいんと!」

「ほんとだ! みんなーっ、いくわよ!」

「突撃よ、突撃! こんじょうみせろーっ」

「ごーごーごーごーごー! むーぶむーぶむーぶむーぶむーぶ!」


 たぶん、この付近で私を追っていた少女達みんなに、こちらの居場所を知らせてしまったということ。

 やはり、あんな小さな女の子が話すだけでは、みんなを思いとどまらせることはできませんでしたか。

 私は嘆息しながら、

 

「――《斬鉄の刃・改》」

 

 《必殺剣Ⅱ》を起動。

 かつて《スーパー・スラッシュ》と名付けて彩葉ちゃんのダメ出しを喰らった技(今度はイケてるはず。多分)を、すぐそばにある鉄製の電灯向けて振り抜きます。

 

 すると、電灯はあっさりと根本から分断され、轟音と共に私のそばへ倒れました。

 そしてそれを、私は刀身の背と鞘を使ってちょいと持ち上げ、追跡者たち目掛けて、ぽいっ。


「う、わあ!」


 全力ダッシュしてきた少女たちの先頭組が、慌てて急ブレーキをします。土煙と共に、彼女たちの無謀な突撃は、そこで留まりました。


「危険だから誰も近寄らないでッ!」


 …………静寂。

 返答、なし、と。


 これで、彼女たちが自重してくれればいいのですが。

 果たして、不死の少女達がそれでストップするかどうか。


「里留くん。ここは紳士協定を結びませんか。女の子たちには一切手を出さない、と」

「…………――」


 彼、唇を斜めにしたままで、返答なし。

 あ、そうだった。この人いま、耳が聞こえてないんだった。


「いや、やっぱなんでもないです」


 呟き、私は刀を構えます。

 そもそも、言葉が聞こえていたとしても同じこと。


 この展開。

 たぶん、まだあなたの考えたシナリオ通り。

 そうでしょう? 里留くん。


 でも、ここまででようやく、こちらにも彼の狙いが読めてきました。

 次こそは、……思惑通りとはいきません。


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