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JK無双 終わる世界の救い方   作者: 蒼蟲夕也
フェイズ3「鏡の国の冒険」
315/433

その309 激おこばとる

 私たちが見下ろす中、がしゃーん、と、窓ガラスが割れる音が響き渡りました。

 同時に、二人の”プレイヤー”が、一塊になって飛び出していく姿が見えます。

 ナナミさんと舞以さんは、お互いに何ごとか罵詈雑言的なワードを叫びつつ、キャットファイト的なことをしていました。


「え、えらいことや……せ、戦争じゃ……」

「戦争、――というほどでもありませんよ」

「せやろか」

「ええ。その証拠にお互い、本気を出していません。……武器を使っていませんから」


 と、得意げに推理してみたり。メガネをくいっとしながら。

 その数秒後でした。

 ナナミさんがハンドガンを、舞以さんがナイフを二本、さっと懐から取りだしたのは。


「あああっ! ”名無し”さん、アカンて、やっぱりマジです、戦争ですっ」

「………………」


 私はちょっとだけ頬が赤くなるのを感じながら、


「蘭ちゃんはゆっくり降りてきてください。私が止めてきます」


 間髪入れずに《魔人化》。

 ビル屋上の縁を蹴り飛ばす形で落下、――二人の間に飛び込みます。

 「ヤバいよヤバいよ」と警告する三半規管を無視し、銃の引き金を引くナナミさんの射線を遮りました。


「――ッ!?」


 瞬間、私の胸元で火花が爆ぜて、弾丸が明後日の方向へ逸れていきます。

 目を見開くナナミさん。誤った人を撃ったと思ったのでしょう。

 もちろん、今の私にはこの程度、へっちゃらさ。


「これこれ、お二人さん。喧嘩はおよしなさ、――」


 瞬間、私の肩を踏み台にして、くるりと一回転、十メートルほど舞以さんが跳躍しました。

 両手に握られた二本のナイフが閃き、ナナミさんに斬りかかります。

 その時、私はちょっとだけムッとして、言葉よりも暴力で物事を解決することに大決定。瞬間的に二人を止める手段はいくつか頭の中に浮かんでいましたが、私はその中でももっとも確実な術を使いました。


「――《落雷》ッ!」


 《雷系魔法Ⅳ》。比較的出が早く、”プレイヤー”なら即死しない威力の魔法です。

 私の狙い通り、耳をつんざく雷鳴と共に、一筋の金色の輝きが二人の身体を貫きました。


「きゃっ」「げえっ」


 悲鳴が聞こえて、二人の美少女が死にかけた蝉のようにひっくり返ります。

 意表を突いたとはいえ、実にあっさりと二人の意識をもぎ取ることができたみたい。

 あれ? ひょっとして私……強すぎ?


 私はしばし、いささか間抜けた格好で固まっている二人の女の子を眺めて……少し考えこんだあと、なんとなくおっぱいが大きい方を先に起こすことにしました。


「ナナミさん、……起きてください」

「うぐぐぐ……ぐぐ」

「うぐぐじゃなくて。さっさと起きて」


 《治癒魔法》をかけてやりながら、ナナミさんの肩を揺らします。

 まもなく目を覚ました彼女は、


「何が、どうなったの?」

「それはこっちの台詞ですよ」

「舞以は……?」

「そこで寝転んでます。それより、どうしてこんなことになったんです?」

「そりゃあ、――アイツのノリが悪いからさぁ」

「は?」


 訥々としゃべる彼女の言い分をまとめると、こう。


1、東京タワーを楽々昇っちゃった私たちをカメラに収めると、画がすっかりつまんなくなってしまった。

2、そのタイミングでナナミさん、今にもタワーが崩れそうなのを察知します。

3、そこで、ぴこーん! と、頭に電球が点灯。

4、「これに舞以が巻き込まれる絵が撮れたらウケるんじゃねwwwwww」

5、ってわけで、一人で颯爽と安全地帯に移動。

6、待ち伏せし、荷物を回収していたため少し出遅れた舞以さんをどんっ! と突き飛ばしてみる。

7、案の定、土埃を頭から被る羽目になる舞以さん。

8、舞以さん激おこぷんぷん丸(死語)。

9、そしてバトル展開へ――。


「…………っていうか、それ………」

「ん?」

「10割あなたが悪いじゃないですか!」

「はぁ? 悪いか、私?」

「だって、先に手を出したのはあなたでしょう?」

「そりゃそーだけど、……最初にマジトーンで攻撃してきたのは向こうだよ?」

「それでも、原因はあなたでしょう?」

「はあ……」


 やれやれ、と、”笑い姫”は懐から煙草を取り出し、手慣れた所作で《火系魔法Ⅰ》。

 ぷかーっ、と、白い煙が空へと上っていきました。

 あーあー未成年なのに煙草吸っちゃ駄目なんだー駄目なのにー(口には出さない)。


「わかっちゃいないなあ、”名無し”さん。……私らがここに来た理由って、少しでも面白い画作りのためなんだよ? そのためなら、少し埃被るくらい、何さ」

「それは……そうかもですけど」

「舞以の衣装だって、こっちが用意した物だ。汚れたって構わないはずじゃん」

「ううむ……」


 何となくプロの芸人っぽい理屈を提示され、私は唇を真一文字に結びます。


「だいたい、――舞以はカッコつけなんだよ。才能はあるくせに、自分だけ綺麗なままでいようとするから、一線を越えられない。底辺のヴィヴィアンどもと同じ再生数しか稼げずに、燻ったままなのさ」


 私はそこで、ナナミさんがこれまで見せなかった一側面を見た気がしました。

 なんというか。――少し、寂しげ、というか。


 っていうか、今さらですけどこの二人、どういう関係なんだっけ?


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