その293 手のつけようのない毛だもの
ソウリュウ『ねえ、あなた』
黄豚『ん?』
ソウリュウ『あなたってなんでいつも、他の豚人たちに偉そうなの?』
黄豚『それは、ボクが一番リーダーシップがあるからさ』
ソウリュウ『嘘。あなたは自分勝手なだけ。人の気持ちを無視して、自分のやりたいことを優先させてるだけ。やってることは”狼族”と変わらないわ』
黄豚『おいおい。何が気に入らないって言うんだ。欲しいものはなんでもくれてやってるだろう』
ソウリュウ『……物がほしいわけじゃないのよ。私がほしいのは、愛』
黄豚『愛してるさ』
ソウリュウ『いいえ。あなたが欲しがってるのは、私の美貌と肉体だけ。私っていうトロフィーを、みんなに自慢したいだけなのよ』
黄豚『そんなことは……』
ソウリュウ『いいえ! 私、こんな生活にはウンザリ! あなたの性格にも! 思いやりのないセックスにも! さよなら!』
黄豚『ぶ、ぶ、ぶひぃ~』
気まずい沈黙。
そして、
「……意外とこれ、落ち込むな」
と、眉間に手を当てる”賭博師”さん。
一応、今回彼女は、他の豚人たちに寝取られないよう細心の注意を払っていたようで。
でもダメでした。そうなったらそうなったで、結局豚人とお姫様は別れてしまう。
どうやらこのゲーム、最初からそういう作りのようです。
黄豚『ソウリュウはボクにふさわしくなかった。次の嫁を探そう』
そして、――長かった冒険も、いよいよ最終決戦に向かいつつありました。
以下は、その時に私がメモした『ポークマンズ・クエスト』の攻略チャートとなっております。
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お城に行き、”王女の愛(笑)”を入手。その地下にて”月の石”を入手。
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ダイヨンの街でナカミチの墓へ。墓の前で”純銀のギター”を入手。
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”純銀のギター”を持ち太陽のほこらへ。そこでギターを鳴らし、”晴天の杖”入手。
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ダイゴの街で中ボスのゴーレム戦。
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ダイゴの街で”王女の愛(笑)”を使うことで、”真・勇者の証”を入手。
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”真・勇者の証”により、豚たちの装備が”勇者の○○”に変化。
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”月の石”と”晴天の杖”と”真・勇者の証”を使うことで、なんか自宅の便器が詰まる。
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”勇者のラバーカップ”を使い、自宅の便所掃除を行う。”にじのしずく”を入手。
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ってか、この時のためにずっとこのゴミ持ち歩かされてたんかい。と、キレる。
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”にじのしずく”を使うことで、ゲンブ様が捕らえられている北の砦へ、虹の橋が渡る。
↓
最終決戦へ。
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黄豚『…………………ぺっ』
赤豚『…………………くそが』
白豚『…………………ダァロォ……』
青豚『…………………りぁがって……ッゾ……』
もろもろのお使いクエストが終わった頃には、――豚さん達の間に、とてつもなく険悪なムードが立ちこめていました。
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「…………………」
それは、実を言うと私たちも同様です。
すでにこの頃にはみんな、仲間を蹴落とさないとどうしようもないところまでゲームが進行していて、あらゆる汚い手段をとった足の引っ張りあいっこが発生していたのでした。
しかも、
「おい、”名無し”。この前の回復薬の貸し、返しなよ」
「ほい」
「おい、これ……っ! ……そういうことかよ、チッ!」
「?」
というようなことが、私たちの間で幾度となく起こっています。
私としては、ちゃんと回復薬を渡したつもりなのですが、どうも操作キャラである子豚さんが言うことを聞いてくれないみたい。
ただこれ、本当にイジワルをしている場合もあるので、お互い信用しあえません。
私たちは完全に疑心暗鬼に囚われたまま、最終決戦の地へと向かいました。
「ところでトラ子さん」
「ん?」
「この物語、どうやって決着すると思います?」
「そりゃ、お姫様を助けて、めでたしめでたしだろ」
「本当にそうかなあ」
「違うって言うのか?」
「ええ。……だってこの子豚たち、幸せになるにはあまりにも罪を重ねすぎてますし」
「――? 罪を重ねたら、幸せになれないのか?」
「現実ではそうでもありませんけど……。物語には因果応報のルールが……」
「アマチュア制作のゲームなんだから、別にルールに囚われる必要、ないだろ」
「それはそうかも知れませんが……」
どうも、このゲームの作者さんのメッセージがひしひしと伝わってくる気がするんですよねー。
「お前達は、こうならないでおくれ」という。
だからきっと、このお話の結末は……。
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伝説の装備を手にした私たちの前に、”狼族”の残党は敵ではありませんでした。
今の我々にはもはや、作戦のごときものは必要ありません。
そもそも、心の奥底に不平不満、憎悪の類を蓄えた者ほど、襲撃者としての資格を有したものはいないのかもしれません。
我々は全員、竜巻が通り過ぎるように砦を打ち壊し、逃げ惑う”狼族”を殺して回りました。
武器を一振りするだけで敵は次々と吹き飛び、血しぶきをまき散らしながら肉塊と化していきます。
私たちの前では、”狼族”は赤ん坊のようなものでした。
黄豚はただ一方的に狼の若者を斬り殺しました。
白豚も、鋭い槍で狼の子どもを突き殺しました。
青豚は、――黄豚と協力し、狼の娘を絞め殺す前に、必ず陵辱を恣にしたのです。
あらゆる罪悪が行われた後、とうとう狼の酋長は降参を申し出ました。
子豚たちは、平蜘蛛のようになった彼に、こう言い渡します。
黄豚『では格別の憐愍により、貴様たちの命は赦してやる。その代りに宝物は一つも残らず献上するのだぞ』
酋長『はい、献上致します』
白豚『なおそのほかに貴様の子供を人質のためにさし出すのだぞ』
酋長『それも承知致しました』
子豚たちは、こくりとうなずきあいます。
黄豚『これでようやく、最後の女が手に入るな』
赤豚『やったな』
青豚『ああ』
白豚『成し遂げたな』
そして、――ここにきて遂に気持ちが符合した、とばかりに、四人は等間隔に距離を取り合いました。
お互い、武器を構えます。
黄豚『では、……最後は殺し合いで全て決めよう』
青豚『ああ』
白豚『それがいい』
赤豚『最初からどいつもこいつも、気に入らなかった』
「ほらあ。やっぱりこうなるじゃん」
深ーい嘆息。
そして、真の最終決戦が始まりました。




