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JK無双 終わる世界の救い方   作者: 蒼蟲夕也
フェイズ3「ヴィヴィアン・ガールズの物語」
291/433

その285 四匹の子豚

『君は他の三人にいじめられている。』


 その一文を目にして、私は一瞬、息を呑みます。


「なっ……っ」

「どうした?」

「――にぬねの。なんでもありませんけど?」

「ふうん。……緊張してる?」

「いえ」

「少なくない人に見られるんだから、電波系はたいがいにしとけよ」

「わかってますよ。――それより今回の勝敗は、どのように決めるおつもりで?」

「それなんだが、……どうもこのゲーム、クリア時にプレイヤーごとの順位が決められるみたいだ。オレサマとオメー、より上位の方が勝ちってことにしよう」

「私以外の二人は?」

「主に、フォローを担当する。二人への指示は個別チャットで行う」


 見ると、画面右上には得点が表示されているみたい。


「ふぅん……一つ、試してみたいことがあるんですけど、いいですか?」

「なんだ?」


 私は無言で、装備しているラバーカップを”賭博師”さんが操作する、黄色い豚へ振り下ろしました。

 ぽこり! という気の抜けた効果音と共に、私のポイントが加点されます。


「ぎゃあ! なにしやがる」

「なるほど。では、今度はトラ子さん、私を殴って下さい」

「……いいのか?」

「ええ。私、どんなゲームも、ルールをちゃんと理解することから始めたいんです」


 言われたとおり、黄色い豚さんが、その剣を私のキャラクターに振り下ろしました。

 ずぐしゃ、というエグい音がして、私の操作している赤い豚さんの身体が血に染まります。

 同時に、私のモニターに表示されているHPゲージが大きく減少しました。


「わ、けっこう痛い」

「そうか。やっぱ、ダメージがぜんぜん違うな」

「……他に変化は?」

「いや、特に?」

「例えば、変動したパラメータ、とか」

「うーんと……この、”幸福度”ってのがちょっと下がったみたいだな。……なになに。”リーダーなのに仲間を傷つけてしまった”かららしい」

「なるほど」


 どうやらこのゲーム、――同じ目的を目指しているように見えて、プレイヤーごとに加点される条件が違うようです。

 私の目的は、むしろ”仲間の足を引っ張ること”みたい。

 な、なんちゅう心がねじくれたゲームだ……。


白豚:『まったく、いきなり喧嘩するなよな!』

赤豚:『え、エヘヘヘ。すまねえ。ちょっと試してみただけさ』

黄豚:『思わずボクも手を出してしまったが、次はないぞ?』

青豚:『……………………』


 四匹の子豚たちは、表面的には仲良しのふりをしながら、我が家を旅立ちました。


「とりあえず、どこへ向かえばいいかわからんなあ」

「こういう時は、街で情報収集するのがお決まりでしょう」

「だな」


 四人は、ぞろぞろと街道を歩いて行きます。

 すると道中、わかりやすく行き倒れているキャラクターを発見しました。


『た、助けてくれぇ……。狼族にやられたぁ……』


 彼、全身ひっかき傷だらけで、今にも死んでしまいそう。

 私と”賭博師”さんは慌てて駆け寄り、話を聞き出します。


『私は、西の砦に攫われたプリンセス、ビャッコさまの従者。……彼女は今、狼族に囚われて幽閉の身。誰か! 勇気ある者よ! ビャッコさまをお助けするため、私を街の医者へと連れて行ってくだされ……』


 私たちのキャラ、それぞれの頭に「はい」「いいえ」の吹き出しが出現します。

 もちろん、私たちはまよわず「はい」を選択した……の、ですが。

 一人だけ、「いいえ」と応えたプレイヤーがいました。

 藍月美言ちゃんです。


 彼女の操作する青色の豚さんは、とことこと倒れた従者さんの元へ駆け寄り、その喉元を、ざっくりと掻き斬りました。


「な、ナニいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」

「なにやってんの美言ちゃあああああああああああああああん!?」


 美言ちゃんの頭に、ぺっぺらっぽっぽっぽーと、金色の星が輝きます。

 どうやら彼女、今の殺人でレベルアップしたみたい。


黄豚:『な、なんたることだ! 罪もない人を殺めてしまうなんて』

白豚:『な、なんたることだ! 罪もない人を殺めてしまうなんて』(多分手抜き)

赤豚:『うける』

青豚:『イヒ! いひひひひ……血のにおいだぁ……』


 美言ちゃんは立場をわきまえているらしく、私たちのツッコミに言葉で応えず、ゲーム内チャットにて返答しました。


『ひとりでも、たくさんころして、つよくなったほうがいい。むずかしいゲームなんだろ?』


 マジか。

 ……いや、わからんでもないんですけど。


「こういう重要人物って、生かした方があとあと役に立つパターンがあるんですけど」


 ですが意外にも、さっきまで驚いていた”賭博師”さんが反論します。


「いや、わからんぞ。これを作った男のねじくれた精神構造を考えたら……今のが最適解である可能性も高い」


 ふむ。

 私はそれには意識して反論せず、うなずきました。


「それに、これは競争だ。序盤に大きくアドバンテージをつけて、逃げ切る作戦だな?」


 チラリと、モニター越しに、”賭博師”さんと目が合います。

 ……ええと、別に今の、作戦でもなんでもないんですけど。


「ま、まあまあ。それは良いじゃないですか。とりあえず当初の目的通り、街へ向かいましょうよ」

「………………ちっ」


 がたーんと、乱暴にゲーミングチェアに座る音。

 あれー? なんか空気悪くなあい?


「だがその前に! 青色! オメー、今殺した男から、何か剥ぎ取っただろ」


 美言ちゃんは応えません。


「パーティの財産は、リーダーのオレサマが管理する。全て地面に置け。さもないと……」


 ほぼ同時に、”賭博師”さんとタマちゃんが武器を構えました。


「殺し合いになるぞ」


 同時に、かちゃかちゃかちゃかちゃ、と、美言ちゃんが軽快にキーボードをタイピングする音が聞こえます。


『わかった』


 そして彼女が地面に置いたのは、”西の通行証”と呼ばれる重要そうな道具と、少なくない額の金貨。回復薬がいくつかと、攻撃呪文を唱えるための巻物が数点。


「おおっ! こりゃマジで、この男殺したの正解だったかもしれんな。くくくくっ」


 それを見た”賭博師”さんに、笑顔が戻りました。


「いいか、青色。オメー他に何か隠し持ってたら、あとで徹底的にボコるからな。わかったな?」

『わかった』

「よーし、じゃ、とりあえず、街行くぞ、街」


 惨殺された骸と目を合わせないようにしながら、私たちは街道を進みます。

 これから先、なんとなーく、今以上に嫌な気持ちにさせられることを予想しながら。


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