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JK無双 終わる世界の救い方   作者: 蒼蟲夕也
フェイズ3「非現実の王国で」
259/433

その253 渡り鳥の羽根

「ええと……”渡り鳥の羽根”って、なあに?」


 首を傾げます。


「たしか”救世主”の実績報酬ですよね。持ってないんですか?」


 と、綴里さん。ナイス記憶力。


「はあ」

「では、私が出しましょう。――処理を保留にしているので」


 すると彼女の前に、ひらりと一枚の羽根が現れました。

 あっ。これ見たことある。家に置きっぱですけど。

 綴里さん曰く、これの効果は、


――”渡り鳥の羽根”は、使うことで半径5キロ圏内であれば一瞬にして移動できる羽根です。一度使うとなくなります。


 とのこと。

 消耗品を使ってでも来い、とは。……ひょっとするとこれ、かなり大急ぎの案件なのでは?


「ちなみに、他にもいくつか便利そうなアイテムを”アビエニア”に持ち込んでいますので」

「え? どこに?」

「”マジック・ポケット”という報酬アイテムが……まあ、その辺は”戦士”さんが記憶を取り戻した後に話しましょう」


 その何気ない言葉に、私は人知れず傷つきます。

 そんな風に、今の私を用済みって感じに言わなくても。


「とにかく、百花さんの元へ向かいましょう。どうも尋常の感じではないですし」

「りょーかい」


 私は、気が進まないながらも羽根を手にして、……どう使えば良いかわからず、しばし困惑しました。

 『ドラクエ』とかでも、キメラの翼ってどうやって使ってるんでしょ。謎だ。


「ってかこれ、そもそも室内で使っても大丈夫なのかな。天井に激突して即死! みたいなことには……」

「きっと大丈夫ですよ。それにいまのセンパイなら、天井に激突した程度で死にはしません」


 ホントかなぁ。


「ちなみにこれ、二人以上の移動は可能なのでしょうか?」

「さあ?」

「もし可能なら、私も同行します。……ないとは思いますが、罠の可能性もありますし。できれば明日香さんも」


 明日香さん、ぐっと親指を立てて、


「どんなピンチが待ち受けていても、三人ならば怖くないっ。それに私は、プロデューサーとして百花さんに出演交渉する義務がありますし……」


 やっぱり明日香さん、一番気楽なポジション確保しにかかってない?

 とはいえ、今はいちいちツッコミを入れている暇はなく。


「では……」


 私は、羽根を天高く掲げます。

 そして、


「”アビエニア城”の一番高い屋根の上!」


 と、叫んでみたり。

 使い方としてはだいたいそれで正しかったのか、私たち三人の身体が、蒼白く淡い光に包まれました。

 そして、ちょっとずつ身体が浮き上がっていって……、


「お、お、お、お?」


 一度でも経験してみたらわかることですが、自分の身体が意志とは無関係に浮き上がるというのは、ずいぶん気味の悪いものです。

 そして次の瞬間、私たちは地下通路の天井を突き抜けて、遙か上空に飛び上がっていました。


「わ、わあッ! すご!」

「ひゃぁああああああああああああああああああああああああああ!」

「…………………………………………………………………………ッ!」


 もうね。その時に感じたスリルは、ディズニャーのアトラクションの比ではありません。安全が保障されているジェットコースターに対して、何が起こるかよくわからん魔法の力を利用しているわけですから。


 でもこういう時、死を意識した人たちの顔つきが窺えて、ちょっと面白かったり。


 明日香さんはもう、わかりやすくきゃあきゃあ騒いでいて。

 綴里さんは下唇を噛んで、じっと耐えている感じ。

 ちなみに私、驚いたのは最初だけで、今は状況を楽しむことができています。


 今の私たちは”非現実の王国”の上空、百メートルくらいを浮遊していて、この美しいテーマパークを真上から眺めることができていました。

 眼下には、高さ51メートルのシンデレ……ごほんごほん、”アビエニア城”がそびえ建っており、その水色の屋根が見えています。

 遠近法による巨大感を出すため、上層部が小さめに作られているというそのお城は、上空から眺めると、どこかミニチュアを思わせました。

 29本の尖塔。その中でも、最も高い塔の屋根は、ぴっかぴかの金色。

 その屋根を取り囲むように、空を悠々と羽ばたいているのは、――


「わあっ、すごい! ドラゴンだ!」


 ファンタジックなお城と、竜。

 私の中の子供心が、今にも溢れてこぼれそう。


 ちょっと前までは、平凡な人生を孤独で静かに歩みたいと願っていましたが……、今や、冒険に次ぐ冒険の日々。

 強い刺激は苦手なタイプですが、こういうのも案外、悪くないものです。


 とはいえそれも、もう少しで終わりを迎えるのでしょうが……。


 金色の屋根には、二人の女性の姿が見えました。

 一人は、話に聞く金髪碧眼のエルフ女子、恋河内百花さん。

 そしてもう一人は、苦楽道笹枝さんという方でしょう、たぶん。


 二人は、私たちに向けて大きく手を振っています。


「――っ! ――――――――! ……!」


 そこで百花さんが、何ごとか叫んでいるのに気付きました。

 彼女、幾度か同じ言葉を繰り返していることがわかって、私は、風に紛れる彼女の声を、断片的に聞き取ります。


「――ッ! ――――ッ! ――――、――――ッ!」


 ごめん。時間がないから。再会の挨拶は、またあとで。


「――――――、――――――ッ!」


 落ち着いたら、ちゃんと説明する。

 ……かな?


「――《――……》!」


 その後の一言は聞き取れず。

 ただそれが、何らかの呪文の詠唱だと気付いた時には、もうすでに遅すぎました。

 得体の知れない、無色透明なエネルギーの波に囚われ、私は息を呑みます。


 百花さんの真意がわからないまま、私の意識はいとも簡単に、肉体の制御を見失いました。


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