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JK無双 終わる世界の救い方   作者: 蒼蟲夕也
フェイズ1「ゾンビだらけの世の中ですが、剣と魔法で無双します」
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その15 鍛えましょう

『ウォォォォォ……ォッ……! ヴォォオオオオオオオオオ』


 眼下に見ゆるは“ゾンビ”の群れ。

 その様子はまるで、アイドル歌手を最前列で応援するファンの如し、です。

 私は、その中から適当な一匹を見繕って、さくっと額に刀を突き刺しました。

 電池が切れたみたいに倒れこむ、名無しの“ゾンビ”さん。


「危なくないですか、センパイ?」

「問題ないですよー」


 言いながら、またサクッ。

 寄ってくる“ゾンビ”の手がギリギリ届かないことは、すでに検証済みでした。

 のんきにしているように見えて、この方法が一番楽に“ゾンビ”を始末する手段なのです。

 早くレベル上がんないかなー、などと思いつつ、もいっちょサクッ。

 一応、この方法ですでにレベルが一つ上がっています。


 その際に取得したスキルは、


――《スーパーメンテナンス》は、取得することで装備品の劣化を時間経過により80%まで自動修復します。また、時間経過による修復速度も上昇します。


 これ。


 というのも、いい加減、刀の切れ味が悪くなっていたためです。

 正直、下位互換の《オートメンテナンス》は、ほとんど有って無いようなスキルでして。最終的には“ゾンビ”一匹始末するのも苦労するほど切れ味が劣化してしまったので、次にとるスキルの選択肢はほとんどこれ一択に限られてしまっていたのでした。


「今日も練習、見てもらえますか?」

 振り向くと、学校指定の青ジャージを身にまとった日比谷康介くんが立っています。

 その後ろには、同じくジャージ姿の少年少女たち。


「別にいいですけど」

 応えながらも、私は深く嘆息しました。


「でも、もうこれ以上指導することなんてありませんよ」


「ダメですよぉ~」

 私と同じ赤ジャージ姿の少女が、ものすごいアニメ声で口を挟みます。


「センパイがいないと、みんなやる気なくなるんですからぁ」


 そんなもんですか。


 私は、高さ数メートルのフェンスからひょいと飛び降ります。

 青ジャージ二人。

 緑ジャージ一人。

 赤ジャージ一人。


「他のみんなは?」


 首を横に振る康介くん。


「……無理にでも呼びましょうか?」

「強制はしません。最初からそういう約束でしょう?」


 私を含めた五人組は、所定の位置に移動した後、準備運動を始めます。



 水谷さんの首が宙空を舞ってから、ちょうど一週間が経過していました。




 水谷一郎さんと水谷幸之助さんを始末したあの日から、このコミュニティにおける私への態度は、大まかに二種類に分けられました。


 忌避、あるいは傾倒です。


 よーするに、恐るべき処刑執行人に見えたか、邪悪を討ち滅ぼす英雄(笑)と見たか、という話で。

 個人的には、どう思われるのも勘弁してほしいところですけど。

 まあ、あれだけ派手なパフォーマンスを見せてしまえば、それもしゃーなし、といったところ。


 水谷さんのご遺体を埋めた次の日の朝には、私が寝床にしている三年三組の前に、二十人ばかりの雅ヶ丘高校の生徒たちが集まってきていました。


「お願いします。――俺たちにも、戦い方を教えてください」


 彼らを代表して言ったのは、日比谷康介くん。

 大人の姿は見えませんでした。

 きっと、彼らの独断なのでしょう。


 最初、私は彼らの申し出を断りました。

 なにせ、とても面倒くさかったものですから。


「こういうことは、ちゃんと大人の了解を得てからすべきでは?」


 そんな私の言葉に、一時は引き下がった彼らですが……。


 その夜のこと。

 コミュニティのリーダーたる麻田剛三さん自ら、頭を下げに来たのです。

 どういうウルトラCを決めて麻田さんの説得に成功したかはわかりません。案外、彼らの中に弁の立つ人がいたのかも。

 とにかく、麻田さんの熱心な訴えを無視することは、私にはできませんでした。

 やむを得ず、


「希望者に限って」


 という条件付きで、“ゾンビ”殺しの教鞭をとる羽目になってしまいます。

 あんまり考えたくありませんが、私が何かの拍子にコロッとくたばった場合、残ったここの人たちは生き残れないのではないか。と、そんな風に思えたのです。


 その次の日。

 私は、集まっていた二十人ばかりの後輩たち(中には同級生もいましたが)に、一つの試験を課しました。


「“ゾンビ”を殺してください」


 作業自体は難しくないはずでした。

 私はまず、彼らの目の前で、フェンス越しに張り付く“ゾンビ”の額に、持ってきた万能包丁を突き立ててみせます。


「コツは目を狙うことです。ここであれば、骨を断たずとも動きを止められます」


 目玉を潰し、皮を裂く嫌な感触。

 ゴツゴツした骨の奥にある、柔らかい肉の弾性。

 脳を破壊したという実感。

 全てに慣れる必要があると思いました。

 「自分には相手を殺す力がある」という事実を身体に覚えこませる必要がありました。


「それでは、みなさんもどうぞ」


 初日だけで、半数以上が脱落。


 それから、一日経ち、二日経ち。

 丁度一週間経った今日。

 残ったのは、今、私の目の前にいる四人だけです。


 数も少ないことですし、一人ずつ紹介しておきましょうか。


 まずは、日比谷康介くん(一年)。

 一年生ながら、学生のリーダー格を務める勇気ある少年。彼が残っているのは、大好きなリカちゃんを守りたいという義務感的なやつでしょう。

 (備考)全体的に主人公っぽい。最後まで生き残りそう。モテそう。


 次に、今野林太郎くん(一年)。

 いっつもヘラヘラ笑っているちょっとサイコ気味な少年。学校に来てからもかかさず毎日マスターベーションに耽っているそうです(聞いてもないのに、無理やり教えられました)。

 (備考)お調子者ポジ。物語中盤くらいで仲間を庇って死にそう。


 そして、多田理津子さん(二年)。

 健康的な浅黒い肌の元陸上部。今のとこ彼女の動きが最も敏捷。無口。クール。

 (備考)日焼け跡がエロい。すごくエロい。実力的にはナンバーワン。


 最後に、君野明日香さん(三年)

 同い年なのに私を“センパイ”呼ばわりするアニメ声の女の子。微笑みを浮かべながら“ゾンビ”の目玉にナイフを突き立ててみせたりなど、今後の成長に期待できます。

 (備考)なんでか、いつもいい匂いがする。オタク趣味ってとこが私とキャラ被っている気がするので、なんの理由もなく理不尽に死んだりしそう。


 と、まあ、そんな感じ。


 もし、なんらかの形で、私がこのコミュニティを去る時が来たら、彼らが私の代わりを務めてくれることでしょう。


 ……まあ、そんな日が来ないことを切に願いますけども。


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