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JK無双 終わる世界の救い方   作者: 蒼蟲夕也
フェイズ2「転生者さんに学ぶ すてきな終末の過ごし方」
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その108 ぼうけんのたびへ part2

 自分の巣穴に戻った俺は自動ドアを閉め、シャッターを下ろして、いつものダンボールハウスに引っ込む。


 狭い我が家に戻ると同時に、深く嘆息。気が抜けていくのがわかった。足腰が立たなくなる。女性から受け取ったヘルメットを枕元に放って、電灯(といっても、携帯用のライトを吊るしただけの代物だが)を点けると、自分の両手がぐっしょり血で濡れていることに気づいた。


(……まったく。なんて日だ)


 アルコールティッシュでそれを拭うと、途端に眠気が襲ってくる。


 寝よう。

 全部、寝て忘れよう。


 俺は目をつぶり、毛布を頭から被る。

 すると一瞬にして、眠気が頭の中いっぱいに広がっていった。



 どれくらい、そうしていただろう。


 一時間か、二時間か。

 あるいは半日くらい経過しているかもしれない。

 地下ぐらしを始めてから、すっかり時間の概念が曖昧になっている。


 眼を覚ました俺は、例の女性から受け取ったヘルメットを手に取った。


「……結局、なんなんだ、これ」


 思わず、そう呟く。


 それは、中世の騎士が被っている兜(顔全体を覆うようなやつ)のようでありながら、内側は柔らかいクッション状の素材で作られていた。

 その上、目の部分は何やら、ディスプレイめいたものが備え付けられている。


 ……少なくとも、装飾品の類ではないらしい。


 そこで俺は、これをくれた持ち主が不思議な力を操っていたことを思い出して、


(ひょっとしてこれ、……なんかの魔法グッズ、とか?)


 なんてな。

 まさかね。


 そう思いつつも、ついつい被ってみたくなる気持ち、わかるだろ?


 何せ今の俺は、無限にある暇な時間を持て余しているんだから。


 という訳で、装着してみた。

 頭から、かぽっと。


 すると、


「――おおっ!」


 思わず感嘆の声を上げる。


 目の前にあるモニターにスイッチが入ったためだ。

 視界良好。暗闇にいて、辺りがはっきりと見える。


(……軍隊とかで使う、暗視装置ってやつだろうか?)


 そう思っていると、ブゥン……という音と共に、何かを読み込んでいる音。

 ちょっとだけワクワクしながらモニター画面を見守っていると、


――YUSYA : ONLINE


 という文字が表示された。


「ゆしゃ……ん? ゆうしゃ、……”勇者”か?」


 ヒーローになりきれなかった俺が、……”勇者”、ね。

 口元に皮肉な笑みが浮かぶ。


――スキル《不死Ⅰ》を認証しました。

――SAVE POINT を起動します……。

――しばらくお待ち下さい。


 ちょっとだけぼんやりタイム。

 そして、


――起動完了。


 と、その次の瞬間だった。


――おっそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!


 耳元で、女性の声が聴こえてきたのは。


「う、うわ!」


――どんっっっだけ待たせるのよ! 謎の美少女から不思議なアイテム託されたんだから、とりま使ってみるのがジョーシキでしょーが!

「は?」

――すぐ復活できると思ってたのに、もー!

「なにが、どうなって……」


 混乱しながらも、誰かと電話(?)か何かで繋がっていることはわかる。


「ええと、俺、犬咬蓮爾(いぬがみれんじ)って名前。……君は?」

――あたし? あたしは數多光音(あまたみつね)よ。

「で、その”光音”さんが、何の用なんだ?」

――悪いけど、ながながと説明してる暇はないわ。

「何を言って……」

――キミに危機が迫ってる。

「へ?」

――嘘だと思うなら、この、狭くて臭そうなねぐらから出て、外を見てごらん。


 顔をしかめつつ、言われたとおり、ダンボールハウスから外に出る。

 そして……、


「う、うわ!」


 絶望した。


 さっきまで静かだった地下。その、長い長い廊下の先。

 明るさに補正がかかった視界に、”やつら”の姿が見えたのだ。


(”ゾンビ”の群れ。……しかも、あんなにたくさん)


 数は、狭い廊下の先故によくわからないが。

 少なくとも、連中が大挙してこちらの方へ歩を進めているのがわかる。

 かつて、ここまで大量の”ゾンビ”がここまで来たことなど、なかったはずなのに。


――さっきは、ちょっと派手にやっちゃったからねー。きっとあたしのせいだわ。ごめんね☆

「ご、ごめんね☆ って……」


 言葉の意味が飲み込めない。

 ただただ、腰を抜かしていた。


 幸いなのは、まだ向こうはこちらに気づいていない点だろうか。

 だが、時間の問題だった。あれだけの数だ。

 ここらへんもいずれ、奴らで埋め尽くされるだろう。


 それでも、しばらくは息を殺して暮らしていけば大丈夫かもしれない。

 だがいずれ、奴らの一匹が、コンビニの中に潜む俺の気配に気づいて……。

 そうなってしまえばおしまいだ。

 奴らは疲れない、容赦もしない。永遠に目の前にある獲物を追い続ける。


 コンビニの防犯シャッターなど、数日と保たないだろう。


 一瞬、足元が崩れて、永遠に落下していく錯覚に陥った。

 だが、思い直して、


「ひょっとして君、こっちの状況がわかるのか?」

――もちろん。


 と、なると。


(彼女は監視カメラか何かで、こちらを観察している?)


「もしそうなら、助けを呼んでくれないか?」


 確率は低いが、それにすがるしか今の俺にできることはなかった。


――助け、ねえ。……残念だけど、それはできないわ。

「な、なんでだ?」

――だってあたしたち、いま一緒にいるじゃない。

「一緒に……って。どこに?」


 当たりを見回す。もちろん、どこにも彼女の姿は見えない。


――あたしってば今、霊体だから。

「れ、れ、れ、れい……たい?」

――よーするに、オバケ? ゴースト? ま、そんな感じってこと。

「な、なんだそれっ」

――さっき、キミがスコップでトドメを刺した女の子いたっしょ? それがあたし。……ってか、声でわかんないかなー?


 脳裏にあの、”魔法”で戦っていた女剣士の姿が浮かぶ。

 言われてみれば、さっきかすかに聞こえた声と、ヘルメットの声は似ている気がする。


――細かく説明するとアレだけど、死んだ魂が、このヘルメットを通して話しかけてる感じ?

「なに……? た、たましい? ヘルメット……?」


 オウム返しにするしかない。


――そうそう♪ 言い忘れてけど、さっきは助けに来てくれてありがとね。間に合ってくれたら、もっと良かったんだけど。


(いま、俺は死者と話している……のか?)


 バカな。ありえない。……なんて発想は生まれてこなかった。

 何せ、すぐそこには、死んでるのに歩き回ってる連中が山ほどいるのだから。


「オーケイ、なんでもいい。こうなったら、君の言葉を全面的に信じよう。……それで、できれば、こっから俺が助かる逆転の策なぞあれば最高なんだが、どうだ?」

――もちろんあるわよー♪


 おお、女神よ。

 思わず、天に祈りたい気分に。


――んじゃ、とりあえず、キミの装備とステータスを表示するわね。

「待て、ステ……なに?」


 俺の言葉も聞かず、声は続ける。

 すると、眼前にあるモニターに、


なまえ:いぬがみ れんじ

ジョブ:”みならいゆうしゃ”

ぶき:”ゆうしゃのつるぎ”

あたま:”しろがねのかぶと”

からだ:”しろがねのよろい”

うで:”しろがねのこて”

あし:”しろがねのブーツ”

そうしょく:”ぐれんのマント”


ステータス

レベル:1

HP:36

MP:13

こうげき:29

ぼうぎょ:28

まりょく:4

すばやさ:19

こううん:6


 つらつらと、得体のしれないデータが羅列されていく。


――とまあ、今んとこ、こんな感じ。……うん、レベル1にしては悪くないんじゃない? “まりょく”と”こううん”のパラメータがちょっと低いのが気になるところだけど……。


 いやいや。”こんな感じ”と言われても。


(だいたい、”ぶき”とか言われても、それらしきものはどこにも……)


 などと思いつつ、自分の身体に視線を向け、仰天する。

 いつの間にやら、俺の全身を銀色にピカピカ輝く鎧が覆っているではないか。装着感が無かったので、まったく気付かなかった。


 試しに、その場で跳ねてみる。

 ……軽い。

 発泡スチロールか何かでできてるみたいだ。しかも不思議なのは、身体の動きをほとんど阻害しない点である。まるで、俺専用にあつらえたかのような鎧だ。

 もちろん、”ゆうしゃのつるぎ”もちゃんとあった。鞘に収められた、立派な剣である。


――気に入った?

「気に入った…‥から、なんだってんだって話だが」

――じゃ、戦いましょっか。

「マジか。……そういう流れなのか」


 なんとなく、そんな予感はしていたが。


「あの数を相手にするっていうのか?」

――うん。

「無茶言うなよ」

――大丈夫大丈夫! あの程度の雑魚、負けっこないって!

「その”雑魚”に、さっき殺されていたやつを見たんだが……」

――それは、……その。ちょっとわけありでねー。厄介な”プレイヤー”に絡まれちゃって……。


 何やら事情があるらしい。

 ただその辺、細かく話を聞いている猶予はなかった。


 全身に鎧をまとったまま、その場であぐらをかく。

 限られた時間の中で、必死に思考を回転させる。


「……うーん」


 なんにせよ、ここから逃げ出さなきゃいけないことは間違いなく。

 俺だって、万一こうなった場合のことを考えなかったわけじゃない。


(まず、地上に出る手はダメだ。”ゾンビ”の数が多すぎる)


 と、なれば、地下を進んでいくしかない。暗いところを進むのはリスクが高いように見えて、意外と動きやすいことがわかっている。“ゾンビ”は夜目がきかないためだ。運が良ければ、群れの間をすり抜けていくことも不可能ではないはず。


 しかも。

 幸か不幸か、今の俺には暗視装置の役目を果たすヘルメットがあって。


「……よし。行こう」


 そうと決まれば早かった。

 こんな時のために用意していたリュックに、愛用のニンテンドーDSを突っ込み、背負う。


――鎧とマントの上からリュックサックとか。……ダサッ。

「やかましい」


 一瞬だけ、しばらく自分の家だった場所を振り返り、感慨に耽った後、……俺は、そっとコンビニの外へ出た。


――さあ、新しい”勇者”さん! 元気よく行ってみましょう! 世界を救うためにね!


 思い切り、苦い物を含んだ表情になる。


 どうやら、冒険が始まるらしかった。


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