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「うん。手元に残してあるのは小さなものばかりだけど、二十くらいは」

 この世界は精霊界と物質界の二面だと俺は言ったけど、細かく言えばそれだけじゃない場所もある。二つを繋ぐ亜空間――空間の歪なんて呼んだりもするけど、そこに自分の持ち物をキープする術は、物質界の魔術師たちも使う技。

 俺は割と無制限にそこに物を仕舞えるけど、とは言え、先日彫ったような彫像になると、仕舞ったところで......という気分になるし、その手の魔術を使うのって召喚者に疲労を与える事でもあるから、大物はその場に置いて来ちゃうんだよね。

「幾つくらい譲って下さいますか? それと、値段の希望はありますか? 勿論、完全に言い値とはいかないかも知れませんが......」

 そこは商売人、最後に軽く釘は刺すんだ。......って言っても値段なんて考えた事ないからなー。

「俺が持っていたところで仕様がないし、全部お願いするよ。――で、値段もさ、どうせ俺、金持ってても使えないし......タダでもいいくらいだからなあ。お前さんが妥当だと思う金額にしてくれれば構わないさ」

 言いながら立ち上がると、術で過去の作品を取り出し始める。そして、

「でも......その代わり、沢山の人に俺の造った物を見てもらえたら嬉しいな」

 つい先日まで、考えた事もなかった欲求を、俺はそう付け加えた。

 俺の存在というのは彼の言うとおり、物質界の大半の者達にとっては神話的な――自分達とは遠く離れた世界の話と思われている。仕方ないって言えばそれまでだけど、けど......やっぱりなんかさみしい。

 だからせめて、俺の造ったものを......って、なんだか余計に淋しいヤツかもな。

 でも、そうだったとしても、折角の機会をもらったんだから、沢山の人に見てもらって、何かを感じていただければ幸いかな、と思うわけ。――ま、精霊王(おれ)が造ったと表に出すのは止めといた方が無難だと思うけどね。

「当然、店の方に並べさせていただきますよ」

「いい人に買ってもらいたいなー」

 そこまで望むのは、ちょっと贅沢かも知れないけどさ。

「もちろん。私は相手の人柄で売るかどうか決めますから。――芸術は心。良い物が高価(たか)くなってしまうのも事実ですが、値段だけで選ぶような金持ちにうちの店の品物は触られたくないですね」

 兄ちゃんがきっぱりと言い切る。話合うなあ、こいつ。

「嬉しいけど、そんなんじゃ商売にならないだろ? お前さんの方こそ、金持ちの道楽なんじゃないのか?」

「私の代で店を潰すって評判です」

 軽く笑いながら訊いた俺に、彼は何でもない事のようにさらっと答える。

「ははは、そいつはいいや。――けど、俺の彫刻を気に入ってくれる人がいれば、そいつはナシだろ?」

 そう、言ってウインク。

「ええ、そのとおりです」

 なーんて言い合って、目が合ったら何だかおかしくって、お互いに吹き出してしまった。――あー、腹いてぇ。

「はーっ、腹筋がー、くるしーっ――って、俺の身体じゃないんだけどさ。いいねえ、腹の底から笑うのも。新鮮な体験だよ」

 度々召喚者の身体をお借りしているとはいえ、なかなか大爆笑なんて機会はない。こういうのも楽しいなあ......

「あー、なんか全然進んでないな。ほら、作品って程のもんか分からないけど、並べるから見てくれよ」

 まだ笑いの余韻は残ってるけど、術で過去の作品を順番に取り出して――

 その様子を眺めながら、兄ちゃんが何度も声にならない溜め息をつく。材質もモチーフも様々な彫像が二十あまり。ちなみに、さっきも言ったように、大きな物はその場に置いてきちゃうんで、ここにあるのは手乗りサイズからせいぜい腰の高さまで。

 全部並べ終わって随分しても、兄ちゃんは真剣な表情で彫像たちとにらめっこをしている。

 ......そろそろ、声かけてもいいのかな?

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