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「なるほど」

 俺の葛藤をどのくらい理解しているのか、彼はそう頷いて、

「しかし、これほどの腕を趣味で終わりにするのはもったいない。失礼ですが、ご職業――」

 言いかけて、兄ちゃんも俺がこの身体の主ではない事を思い出したようだ。

「......そうだなー、俺の存在理由(おしごと)は世界の理を壊さない事、かな」

「えっ?」

 言った意味を取れないらしい。――そりゃそうだろ。でも、面倒なんだよ説明は。

 ――本当は、面倒でも語るのは嫌いじゃないけど......

「......時間切れだな」

 声に出して呟いて、ひとつ溜息。

「時間切れ?」

 そう、俺の言葉を復唱する彼の隣に立って、

「そ。――俺が何者かって説明は、この姉さんにしてもらいな。ちょっと......長話が過ぎた。もう戻らなきゃならない。――で、俺の方としても、折角だしもっとアンタの話を聞きたいし、売れるって言うならこれだけじゃなく買い取ってもらいたいんだけど――」

 言いながら、空間の歪みから右手の中に取り出したのは片手に納まる大きさの妖精像。水晶製で細部まで造り込まれ、さながら生身の妖精が魔法によって......とは自分で言っちゃ駄目か。まあともかく、そいつを手渡す。

「他にも沢山ある。俺に会いたければ彼女に頼むんだね」

 兄ちゃんの背中を軽く叩きながら、そこで言葉を切って。

「――さて。悪かったね、お姉さん。......でも、残念ながら君の実力では俺を支配しようなんて無理だよ。それで、声も出せないほど怖い思いをしているところにこんなお願いキツイと思うだろうけど、もう一度、俺を呼んで欲しい。......そんなに怯える事ないだろ?  命の保障に、それ相応の謝礼も考える。――頼むよ。場所とか精霊力とか、そういうのも気にしないで、軽ーい気持ちで大丈夫だから。......ね?」

 これは、俺に封じ込められてしまった、この身体の持ち主への呼び掛け。

 ......って。言ってみたものの、説得もあんまり意味ないだろうな。

 こんな展開考えてなかったからねー。俺自身を呼んだのをいい事に、いきなりだったもんなあ、今回のやり方。

 ――まあ展開の唐突さを置いておいても、そもそもこういう目に遭って、もう一度俺を呼ぼうなんて考える奴いないもん。いっくらやってる事が罪のない彫刻だろうと、精神を支配された側は困惑や恐怖に打ち震えているわけで......

 望み薄、かな?

「あ、あの?」

 兄ちゃんがワケわかんないって表情で、俺の独り言もどきに声を掛けてきた。

 それには答えずに、俺は彼の首に腕を絡める。身長は、人間としては高い方かな? でも、長身のエルフ族の血を持つお姉さんとは、それほど変わらないくらい。

 目線は正面。突然の俺の行動に目を丸くしている兄ちゃんに、やや意地の悪い微笑を向けてやる。

「馬車があったのは良かったよ――では、失礼」

 意識を、ハーフエルフのお姉さんから離す。

 ......多分、彼女は気を失っちゃっただろうなー。微妙に長居しちゃったし......

 ちゃんと支えきれたかな? 兄ちゃんの方は。

 まあ、一緒にこけたとしても、それを役得と呼ぶのかクッションと取るのかは――そこまでは、俺は知らない。


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