今井幸子には、異世界転生している暇はない
私、今井幸子。
市内の高校に通う、花の女子高生よ、
私は今、一人の男の子に片思いをしているの。
その男の子っていうのは、同じクラスの小林くんなんだけど、彼ってば、イケメンな上に、みんなに凄く優しいの。
もう王子様みたい!
そんな小林くんだから、自分に気があるんじゃないかって、勘違いしている女の子は多いのよね。
ほら、今も別のクラスの娘から話しかけられているし・・・
あの娘、名前は何ていったかしら? あとでクラスと名前を調べて、しっかりと手帳に書き込んでおかないとね。
もう、今月に入って七人目だわ。リストの娘たちを相手にしていると、小林くんを見ている時間が減るから嫌なのだけど、仕方ないわよね。
小林くんが困らないように、しっかりと釘を刺しておかないと。
授業が終わって、所属しているサッカー部の練習へと行く小林くん。
今日も、汗が輝いているわ!
そんな小林くんを、眺めていた私の視界に、マネージャーの娘の姿が入る。
マネージャーの方も、私に気付いたようね。怯えた表情をしたあと、校舎の方へと走っていったわ。
あの娘には、先月しっかりと、釘を刺しておいたから、ちゃんと効果が出ているようね。
まぁ、あんな娘はどうでもいいわ。しっかりと小林くんの活躍を、目に焼き付けないと。
部活も終わった帰り道、ちょっと疲れ気味の小林くんの表情が、また素敵だわ。
これで、今夜もグッスリと眠れそう。
そんな事を考えつつ、小林くんの後を着けていたら、急に、空から雷鳴が聞こえ始めたの。
おかしいわね? 今日は雨の予報じゃなかったはず。通り雨かしら?
そう思った次の瞬間、私の身体が、激しい衝撃に襲われる!
え? 何? 何があったの?
声を出そうとしたのだけれど、口からは、、まったく声が出ない。
世界も横になっていて、どうやら私は、道に倒れているようだ。
その私の視界に、慌てた表情の小林くんが映る。
小林くん・・・慌てた表情も素敵。
小林くんが、大きな声で叫んでいるけど、私の耳には良く聞こえない。
雷? 雷に打たれたの? 私が?
断片的に聞こえる情報をまとめると、どうやら私は雷に打たれたらしい。
そっかぁ・・・死んじゃうのかな
私の意識が遠のいてゆく。
でも・・・小林くんの腕の中で死ねるなら、幸せかも。
そうして、私の意識は途切れていった。
次に気が付いた時、私は、何もないまっ白な空間に居たわ。
「ここ・・・何処かしら? 天国?」
「いいや、違うね」
私のつぶやきに、答える声がする。
そちらを見てみると、あらやだ、ワイルド系の美男子がいるじゃない。
「あなたは誰かしら? ここは何処なの?」
「ここは次元の狭間。俺様は・・・まぁ簡単に説明すると、異世界の神かな」
異世界の神様? というと、最近、小説なんかで流行りの、あの神様かしら?
「それで、その神様が何の用なの? 私は死んだんじゃないの?」
「その事なんだけどな・・・」
神様は、バツの悪そうな顔をして、頭を掻いている。
「実はな・・・お前さんを殺しちまったのは、俺なんだ」
「え?」
この神様は、何を言っているのかしら? 私は神様に恨まれるような事をしたのかしら?
「実はな、お前が良く見ていた男、小林って言ったか? あの男はな、魔法や超能力といった、特異な能力の素質の塊なのさ」
小林くんってば、スポーツや勉強だけでなく、魔法や超能力の才能まであったのね。凄いわ!
「それで、あの男を俺様の世界に転生させて、こき使おうとしたんだが・・・あいつを狙って落とした雷が、間違って、お前に当たっちまってな」
何それ!? 酷いわ! ・・・けど、それで小林くんが助かったのなら、それはそれでオーケーかも。
「すまなかったな、間違えて殺しちまって」
そう言って、神様はすまなさそうに謝ってくる。
まぁ、小林くんが無事だから、私はそんなに気にしてないけどね。
「それで、私はこの後、どうなるの?」
そう、気になるのは、その点よ。小林くんの所に戻れるのかしら?
「俺様の責任だからな、お前さんは、俺様の世界でしっかりと転生させてやるよ。お詫びに、色々と特別な能力も授けてやるから、色々と好きな様に生きれると思うぜ」
「ちょっと待って」
神様の言葉を止めて、大事な事を質問する。
「その世界に、小林くんは居るの?」
「いや、小林はこの世界の人間だから、俺様の世界にはいないけど・・・」
「じゃあ却下よ!!」
そう! 却下だわ! 小林くんのいない世界なんて、考えられない!
「いや、だけどな・・・能力を使って色々と好きな事ができるぞ? 好みの男を集めたりとか・・・」
「小林くんが居なければ、意味がないわ!!」
「そうは言うけどな・・・」
「ねぇ、神様。私を元の世界に戻す事はできないの?」
「元の世界に? まぁ、管理している神に話して、転生させる事はできると思うが・・・」
「転生じゃ意味がないわ」
そう、また赤ん坊から始めるんじゃ、小林くんに会うまで、何年かかるか分かったものじゃないわ!
「いや、流石に死んだ人間を生き返すのは、色々と問題が・・・」
「別に、生きてなくてもいいわよ」
「・・・何だと?」
そう、小林くんの傍に居られるなら、別に生きていなくてもいいのだ。
「その代わり、神様。能力だけは頂戴ね」
神様との交渉を終えた私は、元の世界へと戻ったわ。
そう、幽霊として。
これでまた、小林くんと一緒に居られる。
そう思うと、体が羽のように軽く感じる。
まぁ、死んじゃってるから、軽いのは当然なんだけどね。
私は早速、小林くんを求めて、彼の家へと向かう。
小林くんの家の場所? 毎日行ってるから、知ってて当然でしょ?
ああ、小林くん、早く会いたいわ。
幸いな事に、小林くんはすぐに見つかった。
(小林くん!)
嬉しさのあまり、小林くんの背中に飛びつこうとしたのだけれど、
(何者だ!)
小林くんの背中から出てきた、半透明の鎧武者が、その邪魔をする。
(拙者は、この者の守護霊だ! この者に害をなそうというのなら、拙者が相手に・・・)
(邪魔よ!)
(ぶべらっ!?)
私と小林くんの邪魔をする鎧武者を、一撃で黙らせる。
神様から力を貰った私には、この程度の相手は楽勝みたいね。
(小林くん! 会いたかったわ!)
邪魔者を排除した私は、小林くんの背中へと飛びつく。
そして、私は、彼の守護霊となった。
小林くんの守護霊となった、その後も、小林くんを転生させようと企む、異世界の神様や、悪霊バスターとか名乗る奇妙な連中が襲ってきたけど、誰にも私たちの邪魔はさせないわ。
小林くんは、ずっとずっと、私と一緒よ。