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囚われ少女と救出劇

 


 ポツンーー


 肌に何か当たる音がし、サラはうっすらと閉じていた瞼を開けた。


「……ここ、一体どこなの?」


 当たりは薄暗く、目が慣れるとここが地下室の牢屋のようなところだということがわかる。

 そして、自身はというと両手と両足を縄で縛られて転がされており、隣にはマルクが同じような姿で横たわっていた。


「マルク!マルク、起きて!」


 何とか、身体を起こしてマルクににじり寄る。

 縛られた両手で彼の身体を揺さぶりながら囁くと、「ーーぅう、サ…ラ……?」と呟きながら、マルクは青い双眸をゆっくりと開けた。


「ーーは!?サラ、大丈夫?」


 起きて、目の前にサラがいることに気がついたのか、慌てたよう上半身を起こす。

 それを支えてあげながら、サラは不安げに揺れる青い瞳にしっかりと目を合わせた。


「私は大丈夫、それよりごめんなさい。私が後を追いかけたばかりに、貴方まで巻きこんでしまって……」


「ううん、いいんだ。サラが無事で本当に良かった」


 マルクはいつもの口調と違い、本当にこちらを心配するような声音で微笑む。サラはバスケットが盗られた後、激昂して後を追いかけた自分の迂闊さを呪ってやりたいと激しく後悔した。

 まあ、今更後悔したところで、後の祭りなのだが……。



「よお、嬢ちゃんたち今目が覚めたのかい?」



 ふと響く聞き覚えのある男の声が暗闇に響いた。



「あなたはあの時のーー!!」


「そうだぜ、全く手間をかけさせてくれたもんだな。あの時、こっちの誘いに乗っていたら、隣の餓鬼を巻きこまずにすんだのに」



 そこには、先日店に訪れて怪しい勧誘をしてきた醜い男が立っていた。

 男はサラとマルクを交互に見てニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべる。

 あの時とは、店での勧誘のことを言っているのだ。

 あそこで、私が着いて行けばマルクは巻きこまれずにすんだのだろうか……、サラは目の前の男を鉄格子越しにきつく睨みつけながらギリと歯を鳴らした。



「それにしてもこの国は多種多様の美人が揃ってて、金になるぜ。おかげ様で俺たちの懐もあったかくなるってもんだ」


 男はこちらが何も言わないのをいいことに話を続ける。


「それに知らないだろうが、おめぇさんを欲しいと思っている貴族や豪族は結構いるんだぜ?まあ、その見た目と能力で、なおかつ身寄りのない女だからな。お前さんがいなくなったところで、誰一人探そうとはしないだろうよ」


「な!あー「そんなことはない!サラがいなくなったら僕だって父さんたちだって草の根を掻き分けてでも絶対探し出してやるんだから!!」


 あんたに何がわかるのよ!!ーーと叫ぼうとしたところ、珍しくマルクが白い顔を真っ赤にして怒鳴り返す。

 そんな彼を男は面白くなさそうに睨むと、再びにやっと下卑た笑みを貼り付けて、上から下まで睨め付けた。


「そんなに怒ると可愛い顔が台無しだぜ?まぁ少しでかくなり過ぎたが、その容姿なら調教して無理やりでも従わせたいと思う旦那様が喜んで買って行って下さるだろうよ」


 良かったなぁ?と最後に男は嘲笑う。


 マルクは自分が醜いおっさんに買われて調教される姿を想像したのか、可哀想になるくらい顔を蒼ざめさせた。

 サラは何も出来ない自分に歯がゆく思いながらも、何故かこの状況を冷静に受け止めていた。きっと、こいつらが今王都で噂になってる人攫いに違いないーー。

 今までも何人もの人を攫って人身売買を繰り返してきたのだろう。


 そう当たりを付けると、今度は遠くの方でカツカツと靴音が聞こえてきた。


「ジモス、余分な事まで喋り過ぎだ」


「お、親分!ーーす、すみません!」


 黒いフードつきのマントを被ったガタイのよい大男が目の前に現れる。


 男は女こどもが泣いて逃げるような凶悪な人相をしており、まさに悪の親玉みたいな風貌だった。

 朱銀に光った鋭い目つきで、隣に立つ男を睨みつけると男は此方でもわかるくらい冷や汗をかきながら萎縮している。




「あなた!私を殴って気絶させた人ね!?」



 サラは男の顔を見て思い出した。

 王都の市場でバスケットを盗られた後、闇雲に男の後を追いかけていたら、いつの間にか見知らぬ路地裏に迷いこみ、そこでフードを被った怪しい男たちに囲まれたのだ。

 中でも一際目立つ目の前の大男に鳩尾を殴られ気絶させられた為、今になって思い出したせいか、殴られた鳩尾がキリキリと痛み出す。



「もうすぐここにお前を買いたいという輩が現れる。今のうちに恋人と別れを済ませておくんだな」


 大男は口元ににやりと笑みを浮かべると、萎縮する男を連れ立って、何処かに消えた。

 その言葉に、サラは頭上にはてなを浮かべた。


「ーーは?恋人って誰よ」


 思わず声にだし、ぽかんとしているサラだったが、それが隣にいるマルクだと気づくと慌てたように顔を真っ赤に染めた。


「いやいや、弟だから!わたし、あなたのこと、天使のような可愛い弟としか見てないからね!?」


「……サラ。それは流石に僕でも傷つくよ」


 変態男に飼われる未来に激しくショックを受けたばかりなのに、好きな人には弟宣言をされる。

 マルクの淡い恋心はこの時をもってズタボロに崩れ去った。

 精神がだいぶヤラれたのか膝を抱えながらガクッと項垂れる。


 まさか自分に恋心を抱いているとは思わなかったサラは、流石に気がついたのかギクっと顔を引きつらせた。


「ご、ごめんなさいね~。まさかマルクが私のことをそういう風に想ってくれてるとは知らなくて~あはは……」


「いいんだ。言わなかった僕もいけないし……」


 暗い!暗すぎる!!

 いつものあの天使のようなマルク君はどこに行ったの!?



 確かにこの状況では明るい方が逆に可笑しいが、彼から発せられるあまりの負のオーラにサラはうっと後ずさった。


「大丈夫よ!誰かが絶対私たちを助け出してくれるわ!だって、『何かあった時は必ず俺が守る』ってギルがーーーー」


「ーーギル?…もしかして、最近サラの宿屋に泊まってる黒髪の剣士の人?」



 マルクが怪訝な表情で問いかける。


 しかし、彼女はこちらを見たまま応えなかった。



 それもそのはず、サラは自身が言った『言葉』に思わず目を見開いて固まっていたからだ。




 ーー何で、こんなにも冷静でいられるのだろう。



 ぐるぐるとサラの頭のなかで、その言葉が回転する。


 目を閉じ、ドキドキと鼓動する胸を抑えるも、混乱する脳裏に浮かぶのは三ヶ月前にふらりと店に現れた謎の黒髪男のことばかりで……。



『何かあった時は必ず俺が守る』


 こちらをからかう為に言ったであろう彼の言葉を、なんだかんだ心の奥底で信じている自分がいることに



 ーー今更ながら気がついた。









「ギル、バート……」





 ぽつりと彼の名前を呟く。










「ーー呼んだか?」






「ーーー!!!」





 ふわりと響く、こちらを包み込むような優しい美声にサラはエメラルド色の双眸を見開いた。



「ギル!遅いじゃない!このあんぽんたん!!」


「おい、それが助けにきてくれた恩人に言う言葉か?」




 松明が灯る鉄格子の向こう側には、予想通り腰に剣をさしたギルバートが立っていた。

 ギルバートは飽きれたように「はぁ」と溜息を吐き、何処からか持ち出した鍵で鉄格子のドアを開ける。


 本当に助けに来てくれた……。


 サラは安堵感から、ほっと息をついた。


 ギルバートはサラたちの側に座ると縄をナイフで切りはじめた。

 するすると解かれた縄は石畳みの床に落ち、自由の身になる。


「そういえばどうやって入ったの?あの男たちは?」


「奴らはここに来る途中、全て俺が倒した。ここへはこれを辿ってきた」


「全て貴方が倒したっていったいーー」


「あ!それは僕が作ったコロンの実!」


 ギルバートの言葉に驚いたサラだったが、彼が懐から取り出したそれに今度はマルクが驚きの声を上げる。

 思わずサラもそれを見ると暗闇だからか今やコロンの実は鮮やかな黄緑色の光を放っていた。


「犯人の一人が気づかないうちに道に散らばったこれを踏みつけたみたいでな。夜に発光するのを待っていたら、案の定ここまでの足跡がくっきり浮かび上がったってわけだ」


 ギルバートはにやりと笑いながら、コロンの実をマルクに投げた。


 マルクは縄の解かれた手で慌ててそれをキャッチする。


「そろそろ、ここから出るぞ。立てるか?」


 ギルバートの言葉に二人は頷くと、さりげなくサラはギルバートに支えられながら立ち上がった。

 胃がキリキリ痛むがなんとか歩けそうだ。

 それに、しっかり腰を支えてくれるギルバートの腕が何だか安心する。そっと彼の胸に身体を預けるように頭を寄せると一瞬だったが息を呑む音が上から聞こえた気がした。


「サラ、やはり具合が悪いんじゃないか?」


 いつもと違うサラの態度に訝しげなギルバートの声が上から降ってくる。


 ーー失敬な、いつもと同じよ!


 と言い返そうとしたが、その瞬間


 目の前が真っ白に染まった。



「「サラ!!?」」



 二人の慌てたような声が重なる。

 膝から崩れ落ちるとともに、温もりある腕がしっかりと己の身体を抱きとめた。



 その感覚を最後に、サラは意識をブラックアウトさせた。


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