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野菜売りの青年

 


 くそぉお!無駄に色気を振りまきやがってぇええ!!



 あの後放心状態から戻ったサラは、しばらく挙動不審な状態が続いていた。お陰様で夕食時に宿泊客から「一体どうしたんだ?」と心配される羽目になり、早く布団で寝ろと急かされた。


 ちなみに元凶の彼はというと、こちらの反応を面白がるかのようにクスクスと笑っており、「純真な乙女の心を弄びやがって!!」と彼のデミグラスハンバーグだけ激辛にしたのはご愛嬌である。

 案の定、ゴホゴホと咳き込む姿に少しだけスカッとしたものの、ふとした瞬間にあの時のことを思い出してしまい結局夜もなかなか寝付けなかった。


 その為、今朝は野菜に八つ当たりをしていたのだが、あっと言う間にキャベツのような野菜は千切りにされる。

「今日のサラダはおかわりあるからね!!」と、ドーンと目の前に置かれたそれはまるでタワーのようで、朝食を食べに来た宿泊客をドン引きさせたのだった。




「おはよ~ございま~す!サラ~!いる~?」


 時刻は午前10時。

 明るい声が扉を開けて響き渡る。


 見ると野菜売りのマルクが肩から籠を下げて店の玄関に立っていた。


「あら、マルクおはよう!今日はどうしたの?」


 サラは1歳歳下の弟のような存在の青年を見て微笑む。そんなサラにマルクも微笑み返すと肩に担いでいた籠をテーブルに降ろした。


 マルクは八百屋の息子で、今年17歳になる男の子だ。

 ふわふわの蜂蜜色の金髪に青色の瞳をしており、天使のような美青年で言葉の語尾を伸ばす癖がある。昔は同じ背丈だったが、あっという間に抜かされて今では拳2つ分高い。

 そんな彼の服装は畑作業用の地味な服で飾り気がなく、いつも手ぬぐいを首にかけていた。何だかとても勿体無い気がするのは私だけだろうか……?




「いやぁね、あのね、ちょっと新作作ってみたんだけど、……サラに見てもらいたいなぁ~と思って」


 恥ずかしそうに頬を赤らめながら、こちらの様子を伺う姿に「お前は何処の乙女だ!」と頭をくしゃくしゃしたい欲求に駆られる。

 すんでのところでその欲求を押しとどめたサラは「あら、また新しいの作ったの?」と興味津々に籠の中を覗いた。


「これなんだけど、コロンの実を改良してみたんだ」



 目の前に現れたのはトマトを黄色くしたような野菜だった。

 普段のコロンの実は赤くて味も見た目も正しくトマトなのだが、このコロンの実は蛍光のように黄色く何だか不味そうである。


「すごい色ね、味はコロンの実のままなのかしら?」


「うん!味はコロンの実だよ~!でも、このコロンの実は夜になると発光するんだ~!すごいでしょ~!」


 いや、発光するトマトって……

 貴方いったい何作ってるのよ!!



 サラは思わず心の中で絶叫した。

 農家生まれのマルクは立派な野菜を育てる恩恵を受けており、野菜の品種改良は彼の趣味だ。

 しかし、彼が品種改良をした野菜は摩訶不思議なモノができることが多く、何でそれからソレが出来るんだと彼の父である八百屋の主人も頭を悩ませていた。

 しかし、本人は気にするわけでもなくめげずに新作を作ってはサラに披露しに来る。




「てか、貴方ソレ食べたの?」


「うん!もちろんだよ~!舌が黄色く着色されちゃったけどね~。しかも暗くなると光るんだよ~!」


 てへッ☆というように舌を出すマルク。その舌は、確かに黄色く染まっており、サラは若干頭痛を感じた。


「それにしても、随分なったのね」


「うん!こっそりお父さんの店頭に並べようと思って~」


「いい?マルク。それだけは絶対にやめなさい」


 10個程籠に入っている新作のコロンの実を、密かにデビューさせようとしているマルクにサラはぴしゃりと言い放つ。


「うう……。やっぱりダメかなぁ」



 ついつい真顔で止めたせいか、今度はしゅんと落ち込む彼が、まるで捨てられた子犬のようで……、


「ごめんなさい!私が言い過ぎたわ!!」


 と思わずぎゅーと抱きしめるのだった。


「ゎわ!サラっ!どうしたの!?」


 いきなり抱きしめられ胸に顔を埋めてくるサラにマルクは耳まで顔を赤くして慌てる。

 本人は至って真面目なのが、また可愛い。


 少しの間そうして彼をおちょくっていると、ふいに後ろから凍えるように冷たい空気が流れてきた。


「……朝から何をしているんだ?」


 いつもよりも低く感じるバリトンボイスが室内に響く。

 サラがぱっと後ろを振り返ると、そこには冷たいオーラを纏ったギルバートが立っていた。


 何だか、いつもの無表情とは違って眉間に皺を寄せ此方を、主にマルクの方を睨んでいる。


「あら、ギル遅かったわね。今はもう朝じゃなくてお昼になるわよ?」


 マルクとの癒しの時間に水を刺されたサラは若干頬を膨らませながらが言い返すとギルバートは今度は此方を向いた。


「年頃の女が、みだりに若い男に抱きつくのはどうかと思うぞ」


「うっ…、確かにそうだけど、貴方には関係ないじゃない」


「そうか?そっちの男も迷惑そうにしてたがな」


「え!?僕ですか!!?」


 急に話を振られたマルクはビックリしたのか素っ頓狂な声を上げる。

 ーーが、ギルバートにギロリと睨まれると顔を真っ青にして「うっ」と押し黙った。


「あ!僕まだ仕事中なのでこれで失礼します!」


「あ!ちょっマルク!!」


「お邪魔しました~!」


 サラの制止を無視して、脱兎のごとく外へ出て行くマルク。

 その場に取り残されたサラはこの気まずい雰囲気を一人でどうすりゃいいのよ!と心の中で叫んだ。


「すまない。俺も大人気なかった」


「え?ちょっと、それはどういう……」


「少し頭を冷してくる。夕食までには戻る」


 いきなり謝り店を出て行くギルバート。

 ーーもう!一体何だって言うのよ!

 と、モヤモヤとした気持ちを抱えながらサラは厨房に置いてあったギルバートの朝食を片づけたのだった。






 ところ変わりここは賑やかな王都の市場。様々な露店が並び相変わらず多くの人が行き交っている。

 サラは王都の市場の並びに店を持つ友達に呼ばれて来たのだが、ふいに後ろから掛けられた声に足をとめた。


「お~い!サラ~!」


「あ!マルク!さっきはよくも一人先に逃げてくれたわね!」


 午前の出来事など、まるですっかり忘れたように満面の笑みでこちらに手を振りながらはしり寄って来る少年にサラは振り向きざまに怒った。

 マルクは一瞬びくっとしたあと、

 若干涙目になりながら謝る。


「うっ、ごめんってば~。それより聞いて~!僕の新作のコロンの実、店頭に並べたら父さんに怒られたぁ~!!」


「はぁ~、あなたまだ諦めてなかったのね」


 あれ程並べるなと言ったのに、結局並べて怒られた少年に飽きれて溜息をつく。


「だって~これ作るのに結構手間かかったから~……。今、父さんに言われて廃棄しに行くとこなんだ~」


 マルクは悲しそうに話すと籠の中に入っている10個以上のコロンの実を見せた。

 それらはやはり、蛍光灯のような怪しい光沢を放っており、サラは内心八百屋の主人に同情した。


「しょうがないわね。また次の新作ができたら見せに来てちょうだい。楽しみに待ってるから」


「ぐすっ、サラぁ~ありがとう~!!」


 サラは慰めるように柔らかな金髪を撫でる。

 頭を撫でられたマルクは恥ずかしいのか、白い頬をぽっと赤らめた。


 その時ーー


 ドン!!


「きゃあ!」


「サラっ!?」


 何者かが、サラにぶつかり建物の影に逃げていった。

 案の定、ぶつかった衝撃で尻餅をついたサラだったが、あるものが無くなっていることに気がつく。


「あ!私のバスケットがない!?くそっ、あの男許すまじ!!」


 乙女としてそれはどうなのか?というような悪態をつきながら瞬時に立ち上がったサラは、急いで逃げていった男の後を追う。


「ちょ!サラっ、待って!!」


 一部始終を見ていたマルクも後を追うサラに慌てながら着いて行き、二人の姿はあっと言う間に建物の影に消えていった。




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